弾丸娘 |  お転婆山姥今日もゆく

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 人間未満の山姥です。
 早く人間になりたい。

昨日娘が野暮用で来た。
昼休みの息子と駅で待ち合わせして、そのまま二人でウチに来た。
最初の話では、
「どっかでランチしよう」
とのことだったが、結局ウチで食べるとなったそうだ。
どうせそんなことだろうと朝からイロイロ作っていたが、なんだか野菜っ気ばかりになった。

用事が済むと、娘は
「ジェラート食べない?」
と言う。あちこち食べ歩いたが、この田舎に一軒だけあるジェラート屋さんが一番美味しいそうだ。
「何食べるの?」
「季節のもの」

そうだ、季節ごとにラインナップが違うのだ。
昨年は従姉と行ったが、そういえばトマトのジェラートが美味しかったな。

そこは物凄く愛想のいい奥さんと、物凄く愛想の悪い若い店員さんが店番をしている。

きのうは若い方だった。
前行った時もそうだったが、顔立ちは綺麗なのにとにかく愛想がない。
声のトーンが低いし、最低限の会話と、言ったか言わぬかわからない
「ありがとうございました」

娘はブルーベリーとラムレーズンを頼み、ワタシは桃とヘーゼルナッツを頼んだ。
娘に中で食べるか車で食べるかと聞くと
「車」
と言う。
車に戻ると
「相変わらずだね」
「あんなもんだよ」
「もう少し愛想笑いくらいできないかね」
「あれでいいんじゃないの、愛想笑いなんてアンタがもっとも嫌がることじゃないの」
「そうだけどさ、ワタシだっていくら混んでてももう少しマシだったよ」

そうだろうか・・・娘も決して愛想はよくないのだが(笑)。

ジェラートは相変わらず美味しい。

「店員の顔見に来るのが目的のスケベより、このジェラートが目的の人がほとんどなんだからいいのよ」

それほどまでに何もない、周りはトウモロコシ畑と田んぼと荒れ地のみという立地である。

娘はぺろりと食べ終えると
「もっと食べたい」
と言い出した。

「やめときなさいよ」
「せっかく来たんだもの」
「ジェラートは氷成分多いからお腹冷やすよ」
「それはいいんだけど、あの店員さんに 
『また来たのかよ』
って思われたくないから」
「そんなこと思わないよ」

結局食べたかったようで、娘は帽子とメガネをはずした。
「何してるの」
「また来たと思われるから変装」
中に入って行った。

で、
「やっぱり愛想悪かった」
嬉しそうに言う。
「また来たってバレたかな」
バレルに決まってる。
また、ダブルである。
「バニラとキャラメル、美味しいよー」
どこまでも嬉しそうである。

娘とワタシはいつもコーンではなくカップに入れてもらうのだが、娘はコーンについてアレコレ語る。

「なんでみんなコーンのほう頼むんだろう」
「コーンも食べたいからじゃないの」
「だって食感が違うじゃん」
「それが良いんでしょうよ」
「コーンのさ、あの溝にアイスが入るとさ物凄く残念なんだよ」
「それも含めて食べたいんだよ」
「アイスはコーンという、昔ながらの呪縛じゃないの」

そして私に向き直り
「なんでカップなの?」
と聞くのだ。

「コーンだと、モタモタしてると下から垂れてくるからだよ」
「ふーん、コーン嫌いというわけじゃないんだ」
「どっちでもいいよ、ただカップのほうはゴミになる」
「コーン頼んどいて、コーン食べないで棄てる人なんて最低じゃん」
まったくもってどうでもいいことをアツく語る。

語りつつ冷たいものパクパク口に運んでいる。

「こんなに食べたから夕飯は少しでいいから」
と夕飯の心配までしている。
どうせ食べるくせに。

帰途、夫のパンツを買いにある店に寄った。
そこでぶらぶらしながら娘が言う。

「こないだH川に
 『オッパイ垂れてきたじゃないの』
って言われてさ」

「アンタ、ブラして寝ないもんね」

「言われてみると確かに垂れてきたような・・・」

いいブラはないかと探していたが、いつも決めかねる娘が田舎の商店で買うはずもない。

家に戻り私は伯父と伯母の昔のスナップを見せた。

「コレはばあちゃんが40の時だけどさ、昔の女性はブラなんてしないから若くても下がってるし、乳首もわかるんだよ」

「ひえー、なんて大胆な!!」

「まあ、アンタの場合大きいから下がるんじゃないの?」

よくは知らないが娘のオッパイは私より若干大きいようなので、そう言ってやったのだが、
一瞬
「フフン」
と勝ち誇ったようなまなざしをワタシは見逃さなかった、チクショーー!!

娘は
「そんなに食べない」
と言いつつ夕飯もしっかり食べ、大好きな唐揚げも
「こんなには食べられないよ」
と言いつつ
「いいから食べなさい」
と夫と私が勧めると全部平らげた。

食べながら食べ物話をする。
「こないだ甘海老食べ放題っていうのに行ってさ」
と写真を見せる。
ワタシは甲殻類はあまり好きではないのだが夫は
「おお、うまそうだな」
と話を合わせてくれる。

食べまくった後のエビの殻まで写真に撮っていて、
「この殻をおつゆにするとまた美味しいんだよね」
とふたりで盛り上がって、今食事中なのに
「食べたい」
と騒ぐのであった。

その後、少ししてから無言でトイレに行った。
ややあって出てきた娘
「何か変な音聞こえなかった?」
「何も」
「昼のジェラートやっぱりキタみたいでさー」

黙ってりゃわからないのに、いちいち
「変な音」
が聞こえなかったかを心配し、その変な音とは、
「ブっ」
と出る時の音だそうだが、
「そんなもん、出たほうがいいじゃないの」
と言うと
「恥ずかしいじゃん」
と、だから黙ってればいいじゃん…。

食べるだけ食べて出すものだして喋って、ささみをしこたま可愛がって
「んじゃ、また来るねー」
と弾丸のようにドタドタと帰って行った。