生前の姿に近い状態で、故人の面影を復元する「復元納棺師」の笹原留似子さん。東日本大震災の際にボランティアとして被災地に入り、約300人を見送るとともに、遺族へのグリーフケアなど被災者への心の支援を続けてこられました。
人々の悲しみに寄り添う活動の原点になったものは何か? 震災時のできごとを語っていただきました。
(インタビューの内容は2012年11月掲載当時のもの)
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■東日本大震災の安置所で
――遺体の復元や納棺のボランティアだけでなく心のケアも請け負うようになったきっかけは?
〈笹原〉
私は岩手の内陸部に住んでいますが、2011年の3月11日、震度6という、経験したことのない揺れを体験しました。大変な大地震だと分かり、何が起きたのか不安なまま、19日に沿岸部に仲間と一緒に入ったんです。
高く高く積み重なった瓦礫を前に大きなショックを受け、悲しいけれど、きっと亡くなられた方がたくさんいらっしゃるかもしれない……と。
安置所を訪ねてみたら、私の想像を遥かに超える現実が広がっていました。数えきれない遺体がブルーシートに安置されていたのです。直感的にこれは災害の規模も、亡くなられた方の人数も、遺族のケアも、すべてにおいて自分たちが経験してきたレベルを超えていると思いました。
その安置所で、私は小さな遺体を見つけました。見れば小さな子供です。腐敗して変色した顔を復元してあげたら、本当に可愛い顔になるだろうなと。だけどその子は「身元不明者」ですから、技術を持っていても、ご遺族の許可がないと触れることすらできません。何もできないんです。
「あの子を戻してあげられなかった」という後悔が、後の安置所での復元ボランティアや現在の心の支援の活動に繋がっています。
■普通に考えればすべて不可能になる
――震災時にはどのくらいの人数を復元されましたか。
〈笹原〉
よく聞かれますが、正確には分からないんです。仕事ならば記録していますが、ボランティアですから。依頼があって安置所に行けば「うちもお願いします」という形で続きましたし。大体300人以上ではないかと思います。
――心に残っているエピソードはありますか。
〈笹原〉
……依頼を受けて安置所に訪ねていくと、3本の棺がありました。そこにお母さんと小さな女の子の姉妹が眠っていたのです。
依頼主は姉妹のおじいちゃんおばあちゃんでしたが、おばあちゃんは具合が悪く車の中で休んでいて、その場にはおじいちゃん一人だったんですね。でも、おじいちゃんは何も話してくれませんでした。復元中に棺をのぞき込み、おじいちゃんが「この子たちはいつも母親の口紅をいたずらしていたから、口紅を塗ってやってくれませんか」と。
――やっと口を開いてくれた。
〈笹原〉
復元が終わり、3人が生前の姿に近づいて、いよいよ納棺という時でした。「何か持たせてやりましょうか」と聞いたら、堰を切ったように
「……じいじだよ、じいじだよぉぉ」
とお孫さんの手を握ってね。「やっと〝じいじ〟と呼ぶようになったんですよ」と、私たちにも話してくれたんです。
そうしておじいちゃんはお菓子がいっぱい詰まった巾着袋を準備してきて、それを小さなお孫さんたちの手に持たせました。
「ほかに持たせたいものはありますか」と聞くと、「あ、そうだ!」と。「何よりの必需品だから」と言って、おむつを握らせて棺の蓋をしめたんです。おじいちゃんは「持つ物を持ったし、これで心配ない」と。
――一つひとつの復元にドラマがあるのですね。
〈笹原〉
今回の震災での復元は震災から7月末まで、4か月間続けさせていただきました。損傷も腐敗もとても重度で、毎回の復元も非常に困難で後半は本当に時間もかかりました。でも、私が諦めたらご遺族も諦めるしかない。自分との闘いのようなところもありました。特に初期の頃は物資がないですから、当たり前に考えると全部不可能になる。
「どうしよう」と手段を考えると、例えば自分の髪の毛を切ってそれを使おうと閃いたり、不思議と誰かに助けていただいているように手が動いて、復元できました。だから、私だけはなくて、何か目に見えない力に助けられたという感覚がありますね。
(本記事は月刊『致知』2012年11月号 連載「第一線で活躍する女性」から一部抜粋・編集したものです)
◇笹原留似子(ささはら・るいこ)
昭和47年北海道生まれ。岩手県北上市在住。平成19年株式会社桜を立ち上げ代表を務める。復元納棺師。日々現場でオリジナルの「参加型納棺」と、復元納棺を提供。現在も納棺の仕事のかたわら長期的視野に立った沿岸支援の活動を続けている。著書に震災での復元ボランティアの実情を描いた『おもかげ復元師』『おもかげ復元師の震災絵日記』(ともにポプラ社)がある。
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