2025年5月のテーマ
「私のあこがれの女性」
第一回は、
「NかMか」
アガサ・クリスティー 作、深町眞理子 訳
早川クリスティー文庫 2004年発行
に登場する、
タペンスことプルーデンス・ベレズフォード(旧姓 : カウリイ)
です。
今までにも何度か記事で触れたことがある、クリスティーの"トミーとタペンス・シリーズ"の主人公の一人、タペンスです。
私はこのシリーズ大好きなんですけど、自分の書いた記事をチェックしてみたら、思ってたほど書いてなかった!
以前にアメブロ以外で「NかMか」について書いたことがあったので、その時の記憶とごっちゃになっていたみたいです。
一応作品のあらすじを。
時は1940年の春。イギリスで戦争の気配が濃く立ち込めている中、中年になったトミーとタペンスは自分たちも国の為に働きたいと思いながらも戦力外扱いされていることにくさくさしていました。そこに非公式の仕事として依頼されたのが、国内で暗躍するナチスのスパイを見つけ出すこと。情報局は工作員が命懸けで伝えた「NかM。ソング・スージー。」との言葉から、敵陣営でN、Mの暗号で呼ばれている二人のスパイのうち一人、もしくは二人ともがイギリス国内に入ったこと、"ソング・スージー"が南海岸の保養地リーハンプトンにあるゲストハウス「無憂荘」(サン・スーシ)であることを突き止めたのです。果たして、ゲストハウスの住人の中にスパイがいるのか、それともゲストハウスの住人にスパイのターゲットがいるのか…それも分からぬままに二人はナチスのスパイを探す仕事を始めます。
私はトミーとタペンスシリーズの中ではこの作品が一番好きです。
クリスティーのスパイ物の中でもピカイチだと思っているし、ミステリー色が強いところもいいです。
それだけでなく、この作品ではタペンスのキャラクターの魅力が存分に発揮されていますし、彼女の活躍も際立っています。
まず、お話の冒頭で、トミーとタペンスが戦力外扱いされていることにくさくさしているシーンがあります。
トミーは46歳。第一次世界大戦では10代~20代前半で従軍経験があり、その後はタペンスと共に政府の非公式な仕事を手伝った経験があります。(そこらへんは「秘密機関」や「おしどり探偵」でどうぞ。)
自分ではまだまだ戦時に役に立つ人材だと思っているけれど、お役所に行っても「書類仕事なら…」とか言われちゃう。
タペンスの方も前の大戦では看護婦として三年の経験があり、将軍の車の運転手も務めたことがあります。その後もトミーと一緒に非公式な仕事を立派にやってのけた自負がある。年齢は40代に差し掛かったくらいだし、若い人よりも経験豊富なくらい。それなのに、自宅のリビングで前線の兵士に送るための衣類を編むしかやれることがないのです。
そこに情報局の人が来て、こっそりトミーにだけ非公式な仕事を頼みます。
タペンスにも秘密の任務なので、トミーは遠くにある軍の施設で書類仕事が見つかったと嘘をつき、「君は編み物があるじゃないか」と慰めますが、カーキ色の帽子を編んでいたタペンスは、編み物を床にたたきつけて、「カーキ色の毛糸なんか大嫌い!私はマゼンタ色(赤)のものが編みたいのよ!」と怒鳴ります。
ともすると、タペンスの気象の荒さが示されたかのようなこの場面が、私は大好きです。
彼女は生き生きとした女性で、湿っぽいことが大嫌い。
世の中が暗くったって、少しでも明るい未来のために自分ができることをすることが義務だと思っています。
(お父さんが教会の大執事なので、礼儀やキリスト教的奉仕の精神については叩き込まれています。ただ、普段のタペンスはお父さんが望むレベルでの礼儀作法の実践はしていません。公の場では当時の大執事の娘にふさわしい振る舞いができます。)
自分の好きなこと、やりたいことをちゃんとわかっている女性。
タペンスのそんなところが好きです。
それから、この後のことなんですが、情報局のグラント氏はトミーにだけ任務の依頼をしたはずだったのに、トミーが無憂荘に到着したら、何とタペンスが先回りしてゲストハウスに来ているのです。しかも任務のこともちゃんと知っていて手伝う気満々。タペンスはブレンキンソップ夫人という名の未亡人で目下次の夫を探していて、トミー扮するメドウズ氏に目標を定めて付きまとうという筋書きで二人は連絡を取り合うことにします。
このアイデアもタペンスが考えたもの。
グラント氏とトミーに一杯食わせたタペンスの手腕も見事です。
咄嗟の判断力と行動力が抜群なんです。
その代わり、夢中になりすぎて突っ走っちゃうのが珠に瑕。
彼女とは対照的に事実から着実に推理していくトミーがいつだってタペンスをカバーします。
二人のコンビネーションが絶妙で楽しいのがこのシリーズなんですけども、二人のうちどちらが好きかと聞かれたら、私は断然タペンスなんですよね。
多分、自分がトミー寄りの性格をしているからだと思います。
「NかMか」の後に「親指のうずき」「運命の裏木戸」とシリーズ作品は続きますが、トミーとタペンスは年をとっても仲良く二人で事件を解決していきます。
毎回、それぞれがそれぞれの方法で犯人を突き止めるので、本当に対等な二人だという気がします。
タペンスのように、生き生きと、行動的に、なりたいものだと常々思っています。
というわけで、私のあこがれの女性・タペンスが大活躍するこの作品、おすすめいたします。(*^▽^*)