2021年8月のテーマ

「わんこが活躍するミステリー」

第三回は、

「運命の裏木戸」

アガサ・クリスティー 作、中村能三 訳

クリスティー文庫、2004年発行

 

 

です。

 

クリスティーファンの間では人気の高い、トミーとタペンスシリーズの作品です。

クリスティーの作品といえば、ポアロ、ミス・マープルなど名探偵を擁するミステリー作品が有名ですが、トミーとタペンスのシリーズはミステリー要素を含んだスパイ物です。

ファンの間で人気が高い理由の一つに、トミーとタペンスが作者のクリスティーとともに年を重ねている、というのがあります。作者が彼らに寄り添っているというか、この二人のキャラクターへの愛が感じられるのです。

 

初登場の作品、「秘密機関」は1922年発表の作品で、トミーとタペンスは「二人の年齢を足しても40に満たない」若者でした。

その後二人は結婚し、1973年発表のこの「運命の裏木戸」では二人とも75歳前後になっています。

ちなみにこの時、作者は80歳を超えています。

おきゃんで行動派のタペンスと冷静でよく切れる頭の持ち主のトミー。

主人公の二人は老いてなお変わらぬバイタリティーで埋もれていた過去の事件を掘り起こして解決していきます。

 

さて、ここらで今回のテーマであるわんこのお話といきましょう。

シリーズで初めて、二人が飼っている犬が登場します。

ハンニバルという名の黒いマンチェスター・テリアで、小型犬ではありますが、勇猛果敢な犬です。

愛想がよい時はとてもおりこうさんに見えますが、家(=自分のテリトリー)に無断で入ってくる人間には、"よそ者め!何か無礼を働いたらずたずたに切り裂いてやるからな!"と言わんばかりに吠え立てる番犬でもあります。

また、主人であるトミーやタペンスのいうことをきかずに(聞こえていないふりをして)、よその敷地に入りこんだり、行きたい方向に引っ張って誘導したりとちゃっかりしたいたずら者の一面もあります。

なんとも個性的な犬なんですが、彼のおかげで事件のヒントを得ることができたり、犯人にかみついたりと大活躍です。

主人公二人が高齢ですので、体力的にアクションは難しいため、ハンニバルの躍動感が光ります。

 

ハンニバル、という名前から私は古代ローマ時代にピレネーを超えてローマに攻めてきたハンニバル将軍を連想するなーと思っていましたが、この本の中で「ハンニバル伯爵」という昔のイギリスの小説への言及がありますので、そこからとった名前かもしれません。

なんにせよ、この本のハンニバルの活躍を読んで以来、『もしも我が家で犬を飼うなら、犬の名前は・・・』候補にハンニバルがエントリーしたというわけです。(前回の記事でちょっと書きましたが…。)

 

 

あと、小ネタを少し。

アガサ・クリスティーの愛犬がマンチェスター・テリアだったそうなので、ハンニバルは彼女の愛犬を彷彿とさせるキャラクターなのではないかなと思っています。(ちなみに名前は「ビンゴ」だそうです。)

また、ポアロ物の「もの言えぬ証人」にはボブというワイヤヘアード・テリアが登場します。

こちらの犬はいたずら好きで少々行儀の悪いワンちゃんなのですが、こちらもストーリーの中核に絡んでくるワンちゃんです。

ボブもテリアで、犬好きのへいスティングズ大尉からは勇猛果敢な狩猟犬と称されているので、クリスティーはテリアが好きだったのかもしれないなーなんて思います。

 

それから、以前「ゼンダ城の虜」の記事を書いたときに、トミーとタペンスシリーズでこの本の名前が出てきたと書きましたが、この「運命の裏木戸」のことです。記事を書いた当時は作品名がすぐに出てこなかったので、きちんと書いていせんでした。この場を借りて書かせていただきました。(^▽^)

 

 

 

ハンニバルの活躍もさることながら、この作品のミステリーも一筋縄ではいきません。

成熟したテクニックで書かれたミステリーをぜひ味わっていただきたいと思います。

おすすめいたします。(*^▽^*)