2024年6月のテーマ

「暮らしを見直したくなる本」

 

第二回は、

「お茶と探偵10 ウーロンと仮面舞踏会の夜」

ローラ・チャイルズ 作、東野さやか 訳、

RHブックスプラス、2011年発行

 

 

です。

 

以前にも何度か記事にしたコージー・ミステリーのシリーズ第10作目です。

発行元の株式会社 武田ランダムハウスジャパンはもうなく、シリーズの続きは現在、原書房さんから出版されています。

原書房さんからは、シリーズの新作は出版されていますが、旧作は新しく出版されてはいないので、「ウーロンと仮面舞踏会の夜」は現時点で入手できるものはほぼ中古ということになります。

入手しにくいものをおすすめしてしまってすみません。

 

さて、あらすじです。

サウスカロライナ州チャールストンの歴史地区にティーショップを構えるセオドシアは、お茶の魅力を広めることに日々尽力しています。仲間であるティー・ブレンダーのドレイトンとシェフのヘイリーと共に、季節ごとに新作のお茶の販売、テーマのあるお茶会の開催、イベントでのケータリングと大忙しです。

そんな彼女が乗馬クラブの馬術競技会に参加した際、競技コースで死んでいる女性を発見。なんと、以前の恋人のいとこでニュースキャスターの女性でした。町がセレブな仮面舞踏会のイベント準備で盛り上がるなか、いとこの死で町に舞い戻ってきた元恋人に頼まれて、セオドシアは事件の真相を探ることになります。

 

このシリーズは、毎回チャールストンの町で開催される大きなイベントが描かれて、それも楽しみの一つなんですが、今回は仮面舞踏会ということで、いつもに増して豪華で華やかな催しとなっており、そこも魅力です。

また、主人公のセオドシアが経営するティーショップで提供される食べ物が本当においしそうで、読んでいて居心地がいい…コージーミステリーのお手本みたいなシリーズです。

 

ところで、この作品がなぜ今月のテーマ「暮らしを見直したくなる本」なのかと言いますと、セオドシアが家を手に入れたくなるお話だからです。

 

彼女は第一作目からずっとティーショップの二階の部屋に住んでいました。

その部屋はこじんまりしているけれど主の趣味にあふれたインテリアで飾られ、文字通りセオドシアの城でした。彼女は自分の部屋に満足し、度々手を加えて自分好みの部屋へと作り変えていました。

 

その彼女に変化が起きたのがこの作品。

歴史地区の一角にある小さなイギリス風コテージが売りに出されていると知って、見るだけでもと内覧を申し込み、一目見て気に入ってしまいます。

この作品を読んだことがない方にはピンとこないと思いますが、物語の舞台であるチャールストンの歴史地区は、ヨーロッパから入植した人々が建てたお屋敷が立ち並び、レンガ敷きの小道がいたる所に張り巡らされた、古風なヨーロッパ風の街並みが魅力的なアメリカの観光地なのです。

 

そんな歴史地区の一角にあるコテージですから、ハナミズキやサルスベリの植わった庭の周りを鋳鉄のフェンスが囲い、レンガの外壁に藁ぶき風の屋根、小塔を備えた二階建て。コッツウォルズ様式、アン・ハサウェイ風住宅などいろいろな呼び方をされてきたようですが、セオドシアの感想としては"ヘンゼルとグレーテルのおうち"。

自分の住まいに満足していた彼女でも、いっぺんにほれ込んでしまう素敵な建物なのです。

内覧してみて、この家に住みたい気持ちが強くなり、自分が住むならどんな風にするかと思いを巡らせるセオドシア。

しかし、家を買うというのはとんでもなく大きな出費です。

それも普通の家ではなく、小さいとはいえ一等地である歴史地区に建つ手入れされた古くからある建物。

いくらティーショップ経営者でビジネスウーマンのセオドシアでも、資金を工面するのは難しい。

それでもあきらめられない…。というジレンマが今作中では描かれています。

 

それのどこが「暮らしを見直す」ことになるかというと、居住空間という暮らしの基礎を自分らしく、素敵にしたいという欲求が私にも伝染するからです。

それまでのシリーズでも、ティーショップ二階の彼女の部屋の描写は素敵だし、こんな風に私も自分らしいインテリアで暮らしてみたいという気持ちにさせられてきましたが、それまで自分の部屋に満足していたセオドシアが、"理想の家"をみつけてほれ込んでしまうというのが、熱量を感じられていいのです。

一軒家ということで、室内装飾の話だけでなく、建物の外観や庭に植えられている植物まで、トータルで自分らしい家。

 

気持ちが伝染すると言っても、正直、家を買いたいだとか、引越ししたいだとかいうことではなくて、「現在の住まいをもっと自分らしく、暮らしが好きになるように変えてみたい!」という気持ちになるというか…。

ひいては、自分らしい家って何だろうと考えてみたりなんかもして。

 

ちなみに、セオドシアが家を買いたいというのは、お話の本筋とは関係がないです。

ティーショップでのお茶会の描写も、新商品のお茶やメニューを詳しく書いてあっても、物語の本筋には関係ありません。けれども、この作品の世界を鮮やかに彩っている、なくてはならない描写の数々なのです。

ミステリーとして面白いかどうかというのと同じくらいの比率で、主人公の生活の描写が、コージーミステリーでは大事だと思います。

まあ、本格ミステリーが好きな方には、伏線でも何でもない不必要な描写がだらだらあってうっとおしいなと思われるかもしれません。そこは好みということで。

 

前回の「ホリーガーデン」同様に、ちょっと読み方が独特では?と思われるかもしれませんが、"暮らしを見直したくなる"かどうかは別としても、コージーミステリーの代表格みたいなシリーズですので、興味がわいたなら手に取っていただきたいと思います。おすすめいたします。(*^▽^*)