2023年11月のテーマ
「いっぱいあるぞ!時代小説」
第三回は、
「燃えよ剣(上)(下)」
司馬遼太郎 著、
新潮文庫、1972年 発行
です。
上に貼ってあるのが旧版で、私が持っているもの。下に貼ってあるのが新装版です。
ちなみに、私が持っている旧版の方の発行年の記述に、平成八年(1996年)に改版されたことが書いてあるので、かなりなロングセラーと言えます。
まずは作者の司馬遼太郎さんのことから・・・。
司馬遼太郎さんと言えば、現在40代より上の世代の方なら作品を読んだことがなくても名前はきっと知っている…逆に言うと、名前を聞いたことがないという方はいないんじゃなかろうかというほどの人気作家さんでした。
1990年頃までは時代劇や時代小説の人気が高かった時代でしたし、司馬遼太郎さんはたくさんの作品を生み出され、たくさんの作品がドラマ化や映画化されています。
パッと思いつく限りでも、大河ドラマの原作になった「功名が辻」、渡哲也さん主演でドラマ化された「新選組血風録」、NHK年末時代劇として足掛け3年放送された「坂の上の雲」、出世作の忍者小説「梟の城」も中井貴一さん主演で映画化されています。
そして、今回おすすめする「燃えよ剣」も近年岡田准一さん主演で映画化されました。
司馬遼太郎さんの時代小説は前回・前々回におすすめした2作品に比べるとちょいとカタイんですが、一言でいうなら"質実剛健"という感じです。
戦国時代や幕末などの激動の時代を描いた歴史小説が多いのですが、その時代の不安定さや張りつめた空気感の中で主人公たちがそれぞれの理想を掲げて疾走する…ある種"漢(おとこ)のロマン"を描くのに長けた作家さんだと思います。
また、歴史に関して造詣が深く、作中で出てくる様々な物事(登場する歴史上の人物の経歴や寺社仏閣・城などの成り立ち、戦国大名の系譜など)に関してけっこう説明が入っていたりするので、歴史トリビアが増えますし、そこから興味を持って実際の場所に行ってみようかなという方もいたようです。
小説なのでフィクションなんですが、「本当にこうだったのではないか」と読者に思わせてしまう語り口で、実際に自覚なしに小説を事実と受け止めてしまう読者も私の知る限りではいっぱいいました。(若かりし頃の私も含まれる。その反省が以前の記事で私に"小説を歴史的事実と思い込んではダメ!"と書かせたわけです。)
司馬遼太郎さんの目を通した歴史という意味だと思うのですが、"司馬史観"という言葉もありました。
それだけ影響力のある作品を生み出す力を持った作家さんだったのです。
作者の説明が長くなったから、あらすじは省略…というわけではないのですが、この作品は"新選組・副長 土方歳三の生涯を描いた小説"です。これ以上の説明は不要だと思います。
武州の薬売りとして生計を立てていた若者が、剣術にのめりこみ、やがて新選組を旗揚げし、幕末の京都で命を懸けて戦う。
もともとは武士でない男が、最後まで幕府軍として戦い抜く。一体何が彼にそうさせたのか。
小説はフィクションだと分かっているけれど、彼を突き動かした"何か"があるはずで、「燃えよ剣」を読むとそこが腑に落ちるという感覚を読者は得られるのです。
だから司馬遼太郎さんを小説家であると同時に歴史家であるかのように感じてしまう。
これが、「梟の城」のような忍者小説ならば、エンターテインメント小説だと思って読むと思います。
でも、ちょっと歴史に興味がある人は、司馬遼太郎さんの歴史小説は要注意!
知らず知らずのうちに読者である自分自身がいっぱしの歴史家になったつもりで歴史の一端を垣間見たという感覚に陥ってしまうほど、この著者の作品はカッコよく、説得力を持って、読むものを魅了します。
私は前述した映画の「燃えよ剣」は観ていませんが、司馬遼太郎作品を読んだことがなくて映画を観たという方には、是非とも小説の「燃えよ剣」の世界を堪能してほしいです。
蛇足となりますが、近年人気を博している漫画・アニメの「ゴールデンカムイ」にも土方歳三が登場しますよね。
私の中ではあの土方歳三は「燃えよ剣」の土方歳三とかなりな部分重なっています。
というわけで、「ゴールデンカムイ」ファンの方にも読んでみてもらいたいです。
おすすめいたします。(*^▽^*)