どうも、はちごろうです。



先日、米アカデミー賞が2024年から
映画製作に携わるキャスト・スタッフに多様性を持たせるため、
作品賞の対象作品に新たな基準を設ける、と発表した。

 

 

 

 

 


近年、主要6部門(作品、監督、主演、助演)の大部分の候補者が
白人で占められていることに批判が相次いだことが一因で、
昨今のBLM運動も後押ししての決定とみられる。

この選考基準がかなり複雑なため、
大手マスコミを含め多くの人が基準を精査しないまま
筋違いの批判をしている人が散見されているようである。
例えば

  「主要キャストに必ず黒人を入れなければいけないのか?」

  「女性や同性愛者も必ず作中に登場させないといけないのか?」

  「技術が無くてもマイノリティを雇わなくちゃいけないの?」

  「今後、ヨーロッパの歴史物では作品賞獲れなくなる?」

  「それって逆差別じゃね?」

などなど。


そこで、実際に米映画芸術アカデミーのサイトと、
ニュースサイト「ハフィントンポスト」の記事を参考に
選考基準について軽く説明したいと思う。





まず、アカデミー賞の選考対象作品の基本的な基準は変わってない。


  「前年にロサンゼルス郡内の劇場で
   連続7日間、1日3回以上上映されていること」

  「上映時間40分以上、有料で公開されていること」

  「劇場公開前にテレビ放送、ビデオ発売、ネット配信されていないこと」


ざっくり説明するとこんな感じ。


そして今回新たに設けられた基準は、作品の製作に際し


  A.キャスティングとテーマ
  B.製作スタッフ
  C.人材育成
  D.宣伝やマーケティング



この4つの要素のうち、2つ以上の要素で
「マイノリティの人材」を一定数雇用していないと
作品賞の選考資格を得られない、ということである。


ちなみにこの「マイノリティの人材」とは


  ・人種・民族的マイノリティ
  ・女性
  ・LGBTQなどの性的少数者
  ・身体・知的障害者、および視覚・聴覚障害者



の4つのグループのことを指します。


この4つのグループの中で特に重要なのが「人種・民族的マイノリティ」
この「人種・民族的マイノリティ」とは、


  ・黒人・アフリカ系アメリカ人
  ・アジア系
  ・ヒスパニック系
  ・中東出身者、
  ・ネイティブアメリカン
  ・ハワイを含む太平洋諸島先住



の人々のことを指します。



まず、A.「キャスティングとテーマ」

この要素の条件として


・ 主役、もしくは主要な助演俳優の少なくとも一人
  人種・民族的マイノリティの俳優を起用する

・ 主要キャスト以外の出演者のうち30%以上
  「マイノリティの人材」4グループのうち、
  2つ以上のグループから起用する

・ 作品のストーリーやテーマが

  先に挙げた「マイノリティの人材」についてであること。    


この3つの条件のうち、1つ以上を満たしていること




次に、B.「製作スタッフ」

この要素の条件として


・ 各製作部門の責任者のうち、
  人種・民族的マイノリティの人材を1人以上
  「マイノリティの人材」を2人以上起用すること

  ※「各製作部門の責任者」とは・・・
    プロデューサー、監督、脚本家、撮影監督、編集、
    美術、衣装、メイク、ヘアメイク
    照明、録音、VFX、作曲、キャスティングの責任者


・ その他の部門のスタッフのうち、
  人種・民族的マイノリティの人材を6人以上起用すること

  ※「その他の部門のスタッフ」とは・・・
    第1アシスタントディレクター、照明技術者、スクリプターなど


・ 製作スタッフ全体の30%以上が「マイノリティの人材」であること


この3つの条件のうち、1つ以上を満たしていること



そして、C.「人材育成」


・ 制作会社・配給会社は、映画製作に関する各部門で
  「マイノリティの人材」を有給の見習いやインターンとして雇うこと。

  ※「映画製作に関する各部門」=
    企画製作、映画製作、ポストプロダクション、
    音楽、VFX、流通、マーケティング、宣伝など

  ただし、

   大手映画会社・・・・ほぼ全ての部門
  
   独立系映画会社・・・1つ以上の部門から2人以上
                (ただし1人は人種・民族的マイノリティ)
  

・ 制作会社、そして配給会社と投資会社(どちらか一方でも可)は
  TV、ラジオ、新聞、雑誌以外の媒体での宣伝活動の分野で、
  「マイノリティの人材」に就労、もしくは職業訓練の機会を作ること


この2つの条件のうち、1つ以上の項目を満たしていること



さらに、D.「宣伝やマーケティング」


・ 撮影スタジオと映画会社(どちらか一方でも可)の
  マーケティング、宣伝と流通(どちらか一方でも可)の部門の、
  2人以上の上級幹部が「マイノリティの人材」であること




この4つの部門のうち2つの部門で条件を満たしていること、としてある。

(ただし、この条件は作品賞のみに適応され、
 長編アニメーション部門、長編ドキュメンタリー部門、国際映画部門の
 「特別長編部門」は個別に扱われる)
 




では、過去10年の作品賞受賞作品のうち
この条件に当てはまってる作品がどのくらいあるか?
CとDの要素については調べようがないので、
AとBだけに絞って出来る限り調べてみる


2010年(第83回):「英国王のスピーチ」

 


A:○(主人公が吃音症)
B:○(編集担当がインド出身、プロダクションデザイナーが女性)


2011年(第84回):「アーティスト」

 

 

A:○(ヒロインを演じたベレニス・ベジョは
    ヒスパニック系(アルゼンチン出身))
B:△(編集担当が女性)


2012年(第85回):「アルゴ」

 

 

A:?(79年のイラン革命で人質になった米大使館員の救出劇)
B:○(撮影監督がヒスパニック系、衣装デザイナーが女性)


2013年(第86回):「それでも夜は明ける」

 

 

A:○(主演のキウェテル・イジョヴォーが黒人)
B:○(監督が黒人、衣装デザイナーが女性)


2014年(第87回):「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」

 

 

A:?(かつてヒーロー映画で一世を風靡した俳優の再起のドラマ)
B:○(監督、撮影監督などがヒスパニック系)


2015年(第88回):「スポットライト 世紀のスクープ」

 

 

A:?(2001年のボストンの新聞記者が暴いた
    カトリック教会の児童虐待スキャンダルがテーマ)
B:○(撮影監督がアジア系、衣装デザイナーが女性)


2016年(第89回):「ムーンライト」

 

 

A:○(主人公が黒人、かつ同性愛者)
B:○(監督が黒人。プロダクションデザイナー、衣装デザイナーが女性)


2017年(第90回):「シェイプ・オブ・ウォーター」

 

 

A:○(主人公は言葉を喋れない女性、主人公の隣人が同性愛者という設定)
B:○(監督がヒスパニック系、キャスティングディレクターが女性)


2018年(第91回):「グリーンブック」

 

 

A:○(人種差別の強い南部に演奏旅行する黒人ピアニストの話)
B:○(作曲者が黒人、衣装デザイナーが女性)


2019年(第92回):「パラサイト 半地下の家族」

 

 

A:○(キャストの大多数がアジア系)
B:○(監督以下、スタッフの大多数がアジア系)




といった具合で、半数以上の作品はすでに新基準をクリアしてるんです。
それに「クリアできているか不明」としたものでも、
別の要素、それこそCやDでクリアしているかも知れません。
また物語の性質上、マイノリティを登場させづらい作品というのもありますね。
典型的なのが史劇や戦争映画。直近だと「1917 命をかけた伝令」みたいな。

 

 

あれは第2次大戦中、大隊に攻撃中止命令を伝令するため、
二人の若い兵士が戦場を駆け回る話で、キャストのほとんどが白人男性。
それならBやCやD、つまりメインスタッフや見習い、インターンに
「マイノリティの人材」を雇用して基準を満たせばいいわけですし、
もちろん制作者が「この作品では作品賞を狙わない」と決めたなら
どんな人材を起用しようが理屈の上では構わない。
ただ、そういう決定は評判を悪くするだけなので
やはり「マイノリティの人材」の雇用環境は改善されていくでしょう。



この新基準がハリウッドに与える影響を予想すると、


1)「マイノリティの人材」の雇用機会が増えることで、
   さらに実力主義が進んでスタッフ・キャストの能力が底上げされる。

2)「マイノリティの人材」の需要が増えることで、
   自らのアイデンティティを公言する人が増える。

3)「マイノリティ」を題材にした作品が増えることで
   彼ら彼女らの問題を社会がさらに共有するようになる。

4) 選考資格を得るためだけに雇用され、
   勤務実態のない「マイノリティ」のスタッフが出てくる。

・・・etc


ま、さすがに4番目はないでしょうが、
いずれにしろハリウッドでのマイノリティの雇用環境は
確実に改善されていくでしょうし、
その新基準が世界に及ぼす影響は少なくないと感じます。