75年7月大須中席に戻ります。この時文蔵師がおっしゃって下さいましたので、沢山の噺を録音させていただきました。その殆どが、演ろうと思っているウチに未だにネタ下ろし出来てません。ですから持ちネタに加えられないのですが、どんな噺があるかと言うと、『芋俵』『石返し』『田能久』『大名と検校(三味線栗毛)』などの珍しい噺です。当時は前座ですから、覚えても演る機会がない噺ばかりでした。『大名と検校』などは、『三味線栗毛』の前半を膨らませて人情噺にしたものでした。
兎に角、師匠の噺はみんな長くて、覚えるのが大変。そしてそれを短く詰めるのが又一苦労。で、道具やと、何とかネタ下ろしに漕ぎ着けたのが、『やかん』でした。
八っつァんが隠居さんの所へ来てからのやりとり(浅草参拝)が暫くあって、それから魚根問に入ります。時間のない時には、此処だけ膨らませて一席出来ますね。で、それから『やかん』の謂われに入って行きますが、後半は講談調になったりして、演るには楽しい所もあります。勿論、時間によっては魚根問なんか演らず、隠居さんの所へ飛び込んで来て、すぐ『やかん』の由来に入っちゃえば短く出来ます。
文蔵師の稽古は、とても丁寧なンですが、高座と違って抑揚が無く淡々としてるンです。稽古するのにヘンな癖を付けないように、という配慮なんでしょうね。オイラの師匠だって、お姉言葉や、鼻に抜ける『ンン~』なんてぇ声出しませんからね。でも、文蔵師は声が穏やかですから、淡々と長く話されると、覚え難いンですよね。ほら、真似をすると覚え易いじゃァないですか。文蔵師は、特徴を掴み難く話されていたから、真似し難かったンですね。
『やかん』も、真打ちになってから演ってませんね。こういう隠居が出て来る噺は、やっぱり歳をとってらかの方がいいのにね。これも又、稽古し直しです。
( 2011年11月05日 )