こういった映画について書くのも、やや恥ずかしいが、チョン・ジェウン監督の「猫たちのアパートメント」のような名作ドキュメンタリーもあるので・・・と観てしまった。

  「キジトラ猫ちゃんが可愛かった」などでは、感想にもならないので、フィクション作品というところで書いていくことにしよう。

 印象を言うと、すごく良く出来た映画だ。一冊の絵本を読むような、あるいは散文詩を読むような流れのある作品。猫の扱い(芝居のさせ方)撮影方法、どれをとっても今までの猫映画の中では最高峰だと言える。監督はギョーム・メダチェフスキ。一番苦労する動物トレーナーはミュリエル・ベック。撮影はダン・メイエル。

 内容を簡単に説明すると、親の離婚などで、悲しみの淵にいる少女クレムがルーと名付けたキジトラの子猫と共に成長する話。舞台はパリと別荘のある田舎の森の2か所。田舎の森には隣人の魔女のようなおばあさんが、黒い大きな犬と住んでいる。傷ついた心の少女と魔女のようなおばあさん。おいおい、アニメかい?とでもいうありきたりの設定。

 でも観て損したなんて感覚ではなく、満足のいく出来栄えではあった。しかしそれだけに、作品の批評も加えておきたい。

 まずは、少女の心の成長と、ネコの行動をシンクロさせたいために、幾つか不自然な解釈を観客に強要する。

 少女にとって、悲しみの現況、両親の離婚があろうとも、いつかは自分も家を出て独立する。それでも家族は変わらない。というテーマにきっちりと導くために、ルー(猫)も森で恋をしたり、山猫から逃げたり色々する。そして、最後には猫の自由を求めて・・・。

 この監督、公式HPで猫は自由な生き物だと強調しているが、これがミスリード。確かに猫は犬のように尻尾は振らないし(振らない代わりに嬉しいと尻尾がピンと上を向く)、人間に従属的ではない。しかし、現在の家猫はリビア山猫から飼いならされて数千年の歴史がある。野を自由に駆け巡る捕食者ではない。たまには虫やネズミを捕ることはあっても、人に褒めて欲しいだけだ。「野に逃がして自由をあげる!」なんて虐待以外何物でもない。

 そういったことから、本当に猫の習性を知る人は、腑に落ちない感覚を受けるかも知れない。保護猫活動などをしている方の中には「信じられない!」「去勢くらいしてあげて」という方もいるかも知れない。

 私個人の意見では、ルーは家猫なのだし、森で白い捨て猫ちゃんと仲良くなるなら、二匹とも飼って欲しい。それが、この映画で出来ないのは、強引にテーマとシンクロさせたい企画のせいだ。「一人ぼってのルーと少女クレム」そんな企画どおりのテーマ主義にならなくても、成立する作品だと思うけどなあ。

 2023年9月末公開。