俳句・ショート-ショート      秋蝶の影のゆらめき     | 俳句のとりな

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俳句を愛するかたとともに

 

 

健三は、社会人になってからも、昼休みなど、暇をみつけては

古本屋を覗いた。


会社の近くにも二軒ほどあって、ぎっしりと詰まった書棚を、少

しずつ見ていくのが好きだった。

 

気になる書籍は、手に取り、ぱらぱらと頁をめくって、書き込み

がないかや、発行年を確かめたりする。


最後に売価を確認するが、思わぬ値がついていたりして、手に

届かないこともあった。

 

あるとき、 そうした手順を省き、タイトルだけで選んだのは、健

三の手にしたものが、 安価なワゴンセールに並んだ1冊だった

からだ。

 

中原中也の詩集で、 早速、 その晩、自宅で開いてみたが、か

なり古ぼけており、若干背割れをしていた。


その部分を確かめようとしたとき、そこに一枚の絵葉書が挟ま

っているのに気づいた。

 

多分、まえの持主が栞として使ったたものと思われた。

 

何気なしに見てみると、ナイアガラの絵柄で、アメリカに赴任し

ている男性から日本にいる、山田みちこという女性にあてたも

ののようであった。

 

文面から推察すると、 二人は親密な関係にあったが、女性は

病弱のようであった。


葉書の末尾には、 早く任期を終えて、女性に会いたいという旨

の記述がなされていた。

 

健三には、 その絵葉書が、 二人にとって、とても大切なものの

ように思われた。


そこで、 お節介とも思われたが、女性の住所あてに、簡単な経

緯を記して、その絵葉書を送った。

 

数日後、厚めの角封筒が、健三のもとに届いた。

 

女性の母親からのもので、絵葉書の礼を述べたあと、娘は昨年

亡くなったこと、つい1か月ほどまえに1周忌を終え、娘の持ち物

を整理したことなどが、事細かに認めてあった。

 

手紙を読み終えた健三は、あらためて、中原中也の詩集の絵葉

書が挟まっていたあたりをくってみた。

 

背割れに気を取られて、 最初は気がつかなかったが、 そこは、

「みちこ」という詩が載っている頁だった。


[今日の一句]


・焼きすつる手紙のうへを秋の蝶

 

 

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