俳句・ショート-ショート       納豆売の少女 | 俳句のとりな

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あれは、純一が、小学校四年生くらいのことてあったであろうか。

 

ある朝、納豆売が通ったようだから、買ってきてくれと母親に言い

つけられた。


下駄を突っ掛けて、 玄関を飛び出し、門の外に出たが、それらし

き姿が見当たらない。

 

10メートルほど先を、 布製の鞄のようなものを肩にかけた少女が

歩いていく。


すると、その少女から「なっとう、なっとう」という売り声が聞こえて

きた。

 

純一は走っていき、少女を呼び止めた。

 

「はい、いくつ、差し上げましょうか」

少女は、純一を真っ直ぐと見つめて、きいた。


 一瞬、どぎまぎとして、 純一は二本の指を突き出すのが精一杯

であった。

 

「有難うございました。また、よろしくお願いいたします」
頭を下げる少女の髪が揺れた。

 

以来、純一は、そのころになると、門のそばで、納豆売の少女を

待つようになった。


少女は、その都度、丁寧に礼を言った。

 

純一と同学年ほどの年齢であったが、 純一の通う小学校では、

見かけたことがなかった。

 

母親にその少女のことを話すと、

 

「子どもを働かさなければならない、なにか、特別な事情がある

のかもしれないわね」
と言った。

 

あるとき、前の日に母親がふかしてくれた薩摩芋を新聞紙に包

んで、手渡そうとしたが、

 

「父に叱られますから」
と、いつものように純一の目を真っ直ぐと見つめて、断った。

 

その少女の姿が、前触れもなく、ぷっつりと見られなくなってしま

ったのは、それから半年ほどしたころのことであった。

 

「その子は働かなくてもよくなったのよ、きっと。よかったじゃない

の」

心配する純一に、母親は、そう言って笑顔を見せた。

 

庭の秋明菊が、あるかなしかの風で、かすかに揺れ動いていた。

 

[今日の一句]


・朝まだき秋明菊の楚々と咲き

 

 

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