予行演習のときから、アンカー勝負だと考えていた。
それも、先頭との差は3メートルくらいまでが限度で、それ以上
の差がついたら、お手上げのように思われた。
運動会のフィナーレをかざるクラス対抗リレーが、1学年からス
タートして、抜きつ抜かれつの熱いレースが続いている。
順番を待ちながら、応援席のかあさんは、どうしているだろうか、
と思った。
出番はまだか、いまかいまかと、はらはらしながら眺めているに
違いない。
3年生のときに、かあちゃんが病気で急死。
そのときは、 涙って、 こんなにもたくさん出るものかと思うほど、
泣いたものだ。
5年生になって、まもなく、かあさんがやってきた。
少し太めのかあさんは、痩せていたかあちゃんとは、似てもにつ
かなかった。
また、料理の味付けは、いま一つで、未だ、かあちゃんにはおよ
ばない。
休憩時間に食べた卵焼も、かあちゃんのそれは、ふんわりとして、
少し甘めだったが、かあさんのものは、固くしまっていて、甘味が
不足していた。
そのうえ、 かあちゃんは、 午後の競技を考えて、弁当の量はひ
かえめにしてくれたが、 かあさんは、重箱に詰められるだけ詰め
て、持ってきた。
多すぎて箸をつけないでいると、 食べて、 食 べてと、しきりにす
すめてくる。
断ってばかりいては、どこか体が悪いのではないかと思われそう
なので、つい、食べ過ぎてしまった。
しかしながら、そんなかあさんを、嫌いにはなれなかった。
6学年がスタートした。
同じクラスの第一走者は、 なんとか二番手につけている。
よし、 その調子だ、それ以上、引き離されるな。そのまま、もって
こい。
アンカーのバトンタッチ位置につく。大きな歓声だ。
しばらく、手を伸ばして、待っていると、早くも隣のランナーがバト
ンを受けて、走っていく。
その背をみつめながら、ふりむくな、待て、待つのだ、と言い聞か
せる。
手にバトンの感触を感じて、走りだす。歓声と、大きな声援が再び
わき起こる。
仲間たちが頑張ったお陰で、先頭のランナーとの差は、予定通り
の5メートルくらい。
なんとか、とらえられる範囲だ。少しずつ、間をつめていって、相
手の速度が落ちた瞬間をねらって、一気に飛び出すのだ。
先をゆくランナーの背中が、少しずつ迫ってくる。よし、並んだぞ。
目の端に、立ち上がって、叫んでいるかあさんの姿が映った。
名前を叫んでいるようだが、歓声のせいで、聞き取れない。
あいかわらず、さん付けで呼んでいるのであろうか。それとも、呼
び捨てにしてくれているのだろうか。
一歩先んじたのを意識しながら、ゴールに向けて、走り続けていく。
[今日の一句]
・運動会御重食み出す卵焼
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