幼女の王様のブログ
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加速衝動(1)

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人の肉の味は、羊の肉の味に似ている。

 正気に戻って、最初の感想がコレだった。

 お世辞にも都会とは言えない佐野。いや、はっきり言おう。ど田舎だ。

 夜の九時を過ぎると人影は全く見当たらなく、国道沿いに点々と設置された外灯のおかげで多少の灯りはあるが、建物による灯りが無いため、黒い紙に外灯を貼り付けたような、どこか非現実を思わせる。 

 田舎には当然の光景だ。

 そんな異様な道なのだから、当然、人は滅多に歩かない。歩きたがらない。このようなほぼ真っ暗闇の道を歩いて、もし何か良くない事が起きても誰も助けてはくれないから。

 そう、この元女性のように。

 運悪くも、この暗い人通りの皆無な道路で俺に遭遇してしまった肉。

 今は二の腕、ふくらはぎ、乳房などおいしい部分が食いちぎられた残飯。

 顔は食べられる部分が少なそうなので手付かずのままだ。ただし、右目の泣きボクロがチャーミングだったので、そこだけは食いちぎった。

 ――あぁ、おいしかったなぁ。

 だいぶ叫ばれたが、辺りは無人、誰も助けにこない。

 だいぶ叫ばれたが、喉を食い破ってあげて、静かになった。

 女性を犯す。人を殺す。この二つの背徳感のスパイスがかけられた食事は、俺に腹が膨れる以上の満足を与えた。最中なんかは背中がぞくぞくしっぱなしで、思考は焼き尽くされ、ただただ興奮していた。

 「これは病み付きになるな……」

 口周りにべっとりと付いたソースを、舌で舐めとり、次の食事を探しに移動する。

 お腹はもう張っている。正直もう満腹だ。だが、そんなのは関係ない。

 俺は食べたいんだ。

 息は荒く、目は血走っているのが分かる。

 次の食事はどこだ。

幸福の幻想

 幸福の幻想/

 家族は私が守る。

 

朝は四時半に起床。 

 五時に家を出て六時から仕事を開始する。夜は遅く、日ごとに量を増す仕事を少しでも減らすために終電ぎりぎりまで粘る。家に着いたら食事をして即就寝。

いままではこのように、鬼のようなスケジュールではなかった。

 今年の初め、どこかの国で起こった金融危機の煽りをもろに受けた勤め先は倒産寸前に追い込まれた。逆に、ばったばったと他社が倒産していく中でよく持ちこたえたというべきだろう。

 だが、提携していた、または取引先であった会社が倒産し、私の会社も食い扶持に困ることとなった。会社を存続させるためには、労働と報酬が見合わないようなおいしくない仕事を多くこなしていくしかない。

 コスト削減。人員に割り振られていた予算は大幅にカットされ、リストラされる者や、やっていけない、と自発的に去る者が続出した。もうオフィスには以前のような活気は無く、首を括るのを秒読みしている社長と、疲れきった残った者たちの牢獄のようだ。

家族のためにも職を失うわけにはいかない。私を会社に縛り付けたのはこの想いだけであった。優しい妻は私がどんなに残業で遅くなろうとも、起きていてくれ、しっかりと夕飯を振舞ってくれる。子供はやっと言葉が上手に喋れるようになったばかり。私より妻に甘えているが、私とお話がしたい、と、夜遅くまで起きていることがしばしばあるそうだ。――失いたくない。 

 

   

いつものように残業に見切りをつけ、会社から駅まで走り電車に駆け込む。なんだか今日は疲れた。日ごろの疲れも溜まっているのか?

私は頭痛と強烈な眠気に襲われ、抗うことなく瞼を閉じた。

 

 

朝四時四十五分。しまった、寝坊した。

十五分ほどの寝坊が家族の生活を変えてしまう。私は必死になって身支度を開始する。

いつもより素早く、そして雑に身支度を終え、壁の時計に目を向けると時計の針は四時四十五分を指していた。疑問を抱き、腕時計を見てみるが同じだった。

間に合ったな。ホッと胸を撫で下ろし、コーヒーでも飲んで一息つこう、とキッチンに向かったとき妻が起きてきた。子供も一緒だ。今日は随分と早起きだ。

コーヒーは妻が淹れてくれた。子供は久しぶりに見る私に、眠気を吹き飛ばして抱っこを要求してくる。たった十五分とはいえ、久しぶりに過ごす家族団欒の時間。私が身を粉にして守り、忘れそうになっていた家族との大切な時間。これからも守ろう。そう固く、再び心に誓い、時計に目を向ける。

時計の針は四時四十五分を指していた。

おかしい。そう思い、電話で時報を確認してみる。抑揚のない人工の声が四十五分ちょうどをお知らせした。

疑問を胸に残しながらも時間の確認が取れた私は、まだこの幸せな団欒が続くのだと喜び、家族に悟られないように目を涙で滲ませた。今はこの時間を噛み締めよう。

子供は半年以上振りに会う私をもう放さない、といった感じで抱っこを止めるのを拒み続ける。これは困ったなどと口では言いつつ子供を抱く腕に自然と力が入る。本当に幸せだ。妻は今まで朝食を用意できなくてごめんなさいと言いながら、いそいそと朝食を作っている。結婚してよかった。

トーストとハムエッグ、お決まりとも言うべき一般家庭の朝のメニューだが、一年ぶりの家族揃っての食事は楽しいものだった。ちらちらと時計を伺っていたが時間が進むことはない。これは家族を守り続けた私に神様が与えてくれた時間なんだと思い込み、信仰したことのない神様に感謝をした。

私はこの時間を堪能し尽した。子供とお絵かきをし、妻と愛の言葉を交し合い、家族旅行などの計画をたてたりもした。時間が進むことは無い。もうこの事に何の疑問も抱かなくなっていた。

強く、名前を呼ばれた気がした。が、妻も子供も特に大声を出してはいない。最近は働き詰めだったからな。疲れが溜まって幻聴でも起こしたのだろう。昨日も疲れて電車の中で眠ってしまったし、年末くらい、少し休みを交渉してみるか。

電車の中で眠ってしまった?

それならどうやって私はここに帰ってきたのだろう。全く記憶が無い。妻に尋ねてみるが、いつも通りに夜中帰ってきて変わったことは無かったよ、と返答された。なるほど、もう体に習慣として染み付いているのかもしれないな。事実、私は今、私の家族がいる私の家にいる。

永遠とも思える十五分を過ごし、家族との団欒に満足した私は、今度は家族と外出をしたいという願望を持った。妻に提案してみるが、そんな時間ないでしょう、と断られる。時間ならあるんだ。時計はずっと四時四十五分を示している。この事に気づいているのは私だけなのかも知れないな。

教えてあげないと。時間ならたくさんある、と。

「大丈夫、時計を見てごらん。さっきからずっと四十五分だ。」

 その言葉は発した途端、家族の表情が消えた。今まできゃっきゃと笑っていた子供も、やさしい笑顔を浮かべていた妻も無表情だ。本当に時が止まってしまったようだ。

 カチ――今まで時を刻まなかった時計の針が、時が止まると共に四十六分を指した。そして強烈な眠気に再び襲われ、私は抗いながら瞼を閉じた。

 

 

 目を覚ますと私は病室にいた。

 ベッドの隣には涙を流しながら、私が起きたことに安堵する妻。どうやら過労で倒れたらしい。

 

私は転職をすることにした。給料は若干下がるのだが、前の会社の鬼のような仕事量はない。休みもある。家族との時間を確保できるのだ。

 偽りの十五分の中で時計の針が進まなかったら私はどうなっていたのだろう。もしかしたら今もまだ幸福の幻想に囚われたまま、現実には戻らなかったかも知れない。次、もう一度あの幸福な時間に囚われたら、再び時計の針が進む保障はどこにもない。

 

私は家族を守る。そのための転職だ。

                            /幸福の幻想 了


mixiショートショート/お金の魔力

黒い空 見えない雲 木々のざわめき。夏の定番である夜中の樹海の中で、俺は今ひどくハイってやつだ。まともな精神していたらこんな状況耐えられませんよ。ええ。全く。夜中の樹海ってだけで怖さ満点だっていうのに、何ですかあの化け物は。なんか俺のことを食べるとか騒いでますけど。なんかコンクリート壁の残骸のようなもの振り回してるし…。え? 俺食べられちゃうの? いえいえ、まだ私はあなたのディナーになる気はありませんよ。あれ、もう0時回ってるから夜食かな? どうでもいい、とりあえず今はこいつから逃げ切ることが先決ですね。よし、全力疾走。

 草木も眠る真夜中、樹海のなかを二つの影が疾走する。

 

夏休みといえば短期高収入のバイト。今を楽しく生きる大学生にはお金はいくらあっても足りないのだ。7月も終わりの30日、俺はアサセさんの事務所でエアコンの恩恵を全身に受けていた。右手にはパックの牛乳、左手には求人情報誌という検索と体への労りを同時進行。カルシウムは大事だもんね。骨なんとかーにならないために自分の健康を気に掛ける。だって体は資本ですから。

パラパラとページを捲り俺の御眼鏡に適うバイトを探す。目標は短時間で楽、そして高報酬ですよ!そんな典型的な現実を舐めている大学生である俺に見合うバイトなどあるはずもない。あぁそうですね。不景気なご時勢ですもんね。残念! とばかりにパックを片手でぐしゃっと握りつぶした。その様子が滑稽だったのか

「どこもね、安くてよく働く馬車馬がほしいんだよ。こんなご時勢だ。そして、気前のいいバイトはお前のようなやつは雇わんだろ。」

と前置きをし、アサセさんは書類が乱雑にぶちまけられたデスクの上から一枚の依頼書を取り

「どうせならアカリ・・・すこ~しだけきついが、高収入のバイトをしてみないか?」

笑顔でこちらにちらつかせる。アサセさん特有の人を蔑むような笑顔だ。

パックの返り血を浴びた顔をウェットティッシュで拭き取りながら受け取る。どうせアサセさんのところに来る依頼は色々な意味で常識外。だが、高収入といわれたら俺も黙っちゃいられません。俺の心はお金で買えるのです。まずは報酬の欄をチェック。いち じゅう ひゃく せん まん じゅうまん ひゃくまん せんま……。いや、おかしいだろ。こんな金がかかってる依頼なんてまともな内容とは思えない。どうせ人を殺せだとか 偉い人が集まるあの建物を爆破しろだとか…

「人の説得・・・?」

あまりの拍子抜けに脳みその裏側から声が出た…感じがする。

「人を言いくるめるだけでこんなに貰えるのかよ。アサセさん、対象はイエティとか?」

労働と報酬のギャップの意味を問いかける。アサセさんはデスクに腰掛け、タバコを一本取り出し、口に運び

「対象は依頼人の夫らしいな。なんでも一月ほど前から夜中に外出することが多くなったんだと。」

火をつける。一息で3分の1ほどを灰にしてから

「最近は何かと物騒だから夜歩きを止めてほしいらしい。」

面倒くさい、とばかりに煙と共に吐き捨てる。

「そんなこと自分で言えばいいのに、なんでわざわざ大金払ってまでアサセさんに頼むんだ?ドブに捨てるようなものだろ・・・」

依頼内容に対しての素直な感想を述べる。だが、この仕事はおいしい。この報酬が手に入ればもう大学生活を満喫し尽してもしばらくニートを決め込むことができるぜ。あ…やばい…

「当然、自分で説得しても取り合ってもらえなかったから私のところに依頼が着たんだろ…アカリ…?」

アサセさんがものすごくいい笑顔をしている。怖い!怖すぎます!結構本気で怒ってるよ。アサセさんの体がぼやけだしたし…。

「オーケー、冗談です。ごめんなさい。」

両手を前に出し 落ち着け のポーズをとる。ぁぁ、これ逆効果みたいね。頭痛がひどくなってきた。命の危機を感じた俺は振り返り、出口に向かって全力ダッシュ。ドアを開け、シュタっと右手を上げて振り向かずに走り出す。逃げ出すともいうけどね。怖いし。

   

 頭上から振り下ろされる石の塊。それをアカリは右肩をよじるように体をくねらせて、なんとかかわす。無理な避け方だ。当然バランスを崩し、木の根に足をとられた。寸でのところで目標を失った凶器は勢いのまま地面を叩き、超局地的地震を発生させて砕け散った。砕けた塊の中からは鉄の棒が出てきた。なんて一粒で二度おいしいやつ…。

「く…き…きひ…素直に当たっていれば痛みも感じることなくイけるのになぁ…」

口元を醜悪に吊り上げながら、ヤマモトさんは鉄の棒を木にもたれかかってる俺に向ける。

「あのさ…俺、話をしにきたんだけど…。」

 問答無用だった。夜中に家を抜け出すヤマモトさんを尾行して樹海まで来たのだが、彼、木に吊るしてある子供をもりもり食べてた。あぁなるほど。最近の物騒な怪事件はヤマモトさんのプロデュースか。これはアサセさんに一本取られたね。なんて考えながら隠れて見ていたんだけど、ヤマモトさんのあまりの食べっぷりのよさに胸焼けを覚えて嗚咽をついたのが聞こえちゃったみたい。そしてこの状況。自分のお茶目さをこれほど悔やんだことは無いね。

「食事を邪魔したなら謝るよ。」

軽い口調で謝りながら横薙ぎの一閃を僅かに屈んで避ける。脳に微かな痛みが走る。被弾したわけではない。ヤマモトがそういうものだからだ。

「ヤマモトさん、あんたも結構ぼやけてるねぇ…」

半人であるアカリの目は架空を映し出す。それは通常では見えない、人々の理想。人は己の理想と理性の勢力が逆転したときに、妄想に取り込まれる。

「お前の肉はまずそうだなぁ…、でも安心しろ。俺は好き嫌いはしないほうだから-。」

ヤマモトがアカリを目掛けて疾風のごとく飛ぶ。足元の土が爆散する。手にしていた鉄棒は鋭利さには欠ける、が、この速度で突きは放てば人の喉など容易く貫くだろう。この爆発のスピードにアカリは着いていけない。アカリが瞬きするよりも早く、鉄の棒はスピアとなって無防備な喉を――

「ふん、やはりこいつは当たりだったか。」

さらに理不尽な速度で間に割って入ったアサセの一撃によって鉄の棒は空中を舞っていた。ヤマモトの腕ごと-----。

煙草をくわえながら、ヤマモトを品定めするように観察したあとに、いつもの人を蔑むような笑顔を浮かべた。

 突然の出来事にアカリもヤマモトも言葉一つ発することができない。何一つリアクションの取れないオーディエンスに向かってアサセは一人、饒舌に語りだす。

「最近、子供の誘拐事件が多くてねぇ。依頼受けたのはいいんだけど、相手もどうやら私と同種…本物らしくてさ。警戒心が強いんだよね。私が直接出向いて街に逃げ込まれでもしたら厄介だし、――けど、カタリ君の依頼を断るのも偲び無いって言うか――。」

ヤマモトは微かに震えだし、アカリの頭痛はひどくなる。どんどんテンションが上がっているのか。アサセの体が水面のように揺らいでいるのがアカリの目に映る。

「そこにちょうど葱を背負った鴨がバイト探しをしてたのさ。これってさ、いい話だと思わない?アカリは私が雇ったとしてお金が手に入る。私はカタリ君に面子が立つ。」

だろ? と答えを求めてくるアサセ。待て、俺はカタリさんの依頼だなんて聞いてねぇぞ。それはまぁいい。金はきちんと支払ってくれよ? ほんとに死ぬ寸前だったんだから。っていうか、気づけ俺。おっさんの夜歩きを止めるだけで8桁の金を支払う一般家庭なんて在るわけないだろ。自分のお茶目さを再度呪う。

「そんなわけだから、ヤマモトさん。」

さようならの言葉を待たずにヤマモトは顔を恐怖に歪ませながら驚異的な跳躍を見せ、3メートル上空の木の枝に着地。そして獣の動きで木から木へと飛び移り、瞬く間に遠ざかる。

「往生際が悪いねぇ。」

吸いかけの煙草を地面に投げ捨てる。肩をぐるんと回す。アサセの口元が喜びの形に吊り上る。アサセの目が爛々と輝きだし、そして--

 

 目が覚めたらアサセさんの事務所のソファーだった。あれ?どうして俺はここにいるんだっけ?記憶の探索を始める。記憶はヤマモトさんが逃げだしたところで途切れている。ということは・・・また、気を失ったか。

 のそのそと起き上がりデスクの方に目を向ける。アサセさんがコーヒーを啜っている。表情は心なしか満足そうだ。バイトの内容について抗議でもしてやろう、と、ソファから立ち上がると胸元から紙切れがひらりと床に落ちた。目を向けるとマジックで 報酬 と書かれた茶封筒が床に張り付いていた。

 立体感のない茶封筒を拾い上げ、中身を確認してみると…。

「3桁ほど足りないんですが…。」

ちょっと控えめのクレーム。怖いしね。

「結局、説得できなかっただろ?内容違反ということで報酬は1000分の1だ。むしろ、貰えるだけありがたいと思いなさい。」

ふふん。と鼻を鳴らすアサセさん。本当はすごいお金持ってるくせにケチなんだもんなぁ。

 命が奪われる寸前までいって福沢さんが3人。これは死んでも10人いかないんじゃないかなぁ。がっくりと肩を落とす。

「けど、やっぱりその『目』は使えるなぁ。どうだ、本格的に手伝ってくれるなら報酬は2割増しだぞ。」

あぁ、またこの笑顔だ…。人を蔑むような笑顔は美人がやると魅力的だ。もしかして俺ってM気あるのかな……アサセさん男だけど。

「今回の4割り増しでどうですか? しかも俺は『見る』だけだからね。」

決してアサセさんの笑顔に脳が煙を上げたわけではない。なんていったって俺はドノーマルですよ? 異常な世界に興味はないが報酬と命を天秤にかけて報酬が圧勝しただけだから。いや、ほんとに。だって、大学生にはお金はいくらあっても足りないのだもの。