mixiショートショート/お金の魔力 | 幼女の王様のブログ

mixiショートショート/お金の魔力

黒い空 見えない雲 木々のざわめき。夏の定番である夜中の樹海の中で、俺は今ひどくハイってやつだ。まともな精神していたらこんな状況耐えられませんよ。ええ。全く。夜中の樹海ってだけで怖さ満点だっていうのに、何ですかあの化け物は。なんか俺のことを食べるとか騒いでますけど。なんかコンクリート壁の残骸のようなもの振り回してるし…。え? 俺食べられちゃうの? いえいえ、まだ私はあなたのディナーになる気はありませんよ。あれ、もう0時回ってるから夜食かな? どうでもいい、とりあえず今はこいつから逃げ切ることが先決ですね。よし、全力疾走。

 草木も眠る真夜中、樹海のなかを二つの影が疾走する。

 

夏休みといえば短期高収入のバイト。今を楽しく生きる大学生にはお金はいくらあっても足りないのだ。7月も終わりの30日、俺はアサセさんの事務所でエアコンの恩恵を全身に受けていた。右手にはパックの牛乳、左手には求人情報誌という検索と体への労りを同時進行。カルシウムは大事だもんね。骨なんとかーにならないために自分の健康を気に掛ける。だって体は資本ですから。

パラパラとページを捲り俺の御眼鏡に適うバイトを探す。目標は短時間で楽、そして高報酬ですよ!そんな典型的な現実を舐めている大学生である俺に見合うバイトなどあるはずもない。あぁそうですね。不景気なご時勢ですもんね。残念! とばかりにパックを片手でぐしゃっと握りつぶした。その様子が滑稽だったのか

「どこもね、安くてよく働く馬車馬がほしいんだよ。こんなご時勢だ。そして、気前のいいバイトはお前のようなやつは雇わんだろ。」

と前置きをし、アサセさんは書類が乱雑にぶちまけられたデスクの上から一枚の依頼書を取り

「どうせならアカリ・・・すこ~しだけきついが、高収入のバイトをしてみないか?」

笑顔でこちらにちらつかせる。アサセさん特有の人を蔑むような笑顔だ。

パックの返り血を浴びた顔をウェットティッシュで拭き取りながら受け取る。どうせアサセさんのところに来る依頼は色々な意味で常識外。だが、高収入といわれたら俺も黙っちゃいられません。俺の心はお金で買えるのです。まずは報酬の欄をチェック。いち じゅう ひゃく せん まん じゅうまん ひゃくまん せんま……。いや、おかしいだろ。こんな金がかかってる依頼なんてまともな内容とは思えない。どうせ人を殺せだとか 偉い人が集まるあの建物を爆破しろだとか…

「人の説得・・・?」

あまりの拍子抜けに脳みその裏側から声が出た…感じがする。

「人を言いくるめるだけでこんなに貰えるのかよ。アサセさん、対象はイエティとか?」

労働と報酬のギャップの意味を問いかける。アサセさんはデスクに腰掛け、タバコを一本取り出し、口に運び

「対象は依頼人の夫らしいな。なんでも一月ほど前から夜中に外出することが多くなったんだと。」

火をつける。一息で3分の1ほどを灰にしてから

「最近は何かと物騒だから夜歩きを止めてほしいらしい。」

面倒くさい、とばかりに煙と共に吐き捨てる。

「そんなこと自分で言えばいいのに、なんでわざわざ大金払ってまでアサセさんに頼むんだ?ドブに捨てるようなものだろ・・・」

依頼内容に対しての素直な感想を述べる。だが、この仕事はおいしい。この報酬が手に入ればもう大学生活を満喫し尽してもしばらくニートを決め込むことができるぜ。あ…やばい…

「当然、自分で説得しても取り合ってもらえなかったから私のところに依頼が着たんだろ…アカリ…?」

アサセさんがものすごくいい笑顔をしている。怖い!怖すぎます!結構本気で怒ってるよ。アサセさんの体がぼやけだしたし…。

「オーケー、冗談です。ごめんなさい。」

両手を前に出し 落ち着け のポーズをとる。ぁぁ、これ逆効果みたいね。頭痛がひどくなってきた。命の危機を感じた俺は振り返り、出口に向かって全力ダッシュ。ドアを開け、シュタっと右手を上げて振り向かずに走り出す。逃げ出すともいうけどね。怖いし。

   

 頭上から振り下ろされる石の塊。それをアカリは右肩をよじるように体をくねらせて、なんとかかわす。無理な避け方だ。当然バランスを崩し、木の根に足をとられた。寸でのところで目標を失った凶器は勢いのまま地面を叩き、超局地的地震を発生させて砕け散った。砕けた塊の中からは鉄の棒が出てきた。なんて一粒で二度おいしいやつ…。

「く…き…きひ…素直に当たっていれば痛みも感じることなくイけるのになぁ…」

口元を醜悪に吊り上げながら、ヤマモトさんは鉄の棒を木にもたれかかってる俺に向ける。

「あのさ…俺、話をしにきたんだけど…。」

 問答無用だった。夜中に家を抜け出すヤマモトさんを尾行して樹海まで来たのだが、彼、木に吊るしてある子供をもりもり食べてた。あぁなるほど。最近の物騒な怪事件はヤマモトさんのプロデュースか。これはアサセさんに一本取られたね。なんて考えながら隠れて見ていたんだけど、ヤマモトさんのあまりの食べっぷりのよさに胸焼けを覚えて嗚咽をついたのが聞こえちゃったみたい。そしてこの状況。自分のお茶目さをこれほど悔やんだことは無いね。

「食事を邪魔したなら謝るよ。」

軽い口調で謝りながら横薙ぎの一閃を僅かに屈んで避ける。脳に微かな痛みが走る。被弾したわけではない。ヤマモトがそういうものだからだ。

「ヤマモトさん、あんたも結構ぼやけてるねぇ…」

半人であるアカリの目は架空を映し出す。それは通常では見えない、人々の理想。人は己の理想と理性の勢力が逆転したときに、妄想に取り込まれる。

「お前の肉はまずそうだなぁ…、でも安心しろ。俺は好き嫌いはしないほうだから-。」

ヤマモトがアカリを目掛けて疾風のごとく飛ぶ。足元の土が爆散する。手にしていた鉄棒は鋭利さには欠ける、が、この速度で突きは放てば人の喉など容易く貫くだろう。この爆発のスピードにアカリは着いていけない。アカリが瞬きするよりも早く、鉄の棒はスピアとなって無防備な喉を――

「ふん、やはりこいつは当たりだったか。」

さらに理不尽な速度で間に割って入ったアサセの一撃によって鉄の棒は空中を舞っていた。ヤマモトの腕ごと-----。

煙草をくわえながら、ヤマモトを品定めするように観察したあとに、いつもの人を蔑むような笑顔を浮かべた。

 突然の出来事にアカリもヤマモトも言葉一つ発することができない。何一つリアクションの取れないオーディエンスに向かってアサセは一人、饒舌に語りだす。

「最近、子供の誘拐事件が多くてねぇ。依頼受けたのはいいんだけど、相手もどうやら私と同種…本物らしくてさ。警戒心が強いんだよね。私が直接出向いて街に逃げ込まれでもしたら厄介だし、――けど、カタリ君の依頼を断るのも偲び無いって言うか――。」

ヤマモトは微かに震えだし、アカリの頭痛はひどくなる。どんどんテンションが上がっているのか。アサセの体が水面のように揺らいでいるのがアカリの目に映る。

「そこにちょうど葱を背負った鴨がバイト探しをしてたのさ。これってさ、いい話だと思わない?アカリは私が雇ったとしてお金が手に入る。私はカタリ君に面子が立つ。」

だろ? と答えを求めてくるアサセ。待て、俺はカタリさんの依頼だなんて聞いてねぇぞ。それはまぁいい。金はきちんと支払ってくれよ? ほんとに死ぬ寸前だったんだから。っていうか、気づけ俺。おっさんの夜歩きを止めるだけで8桁の金を支払う一般家庭なんて在るわけないだろ。自分のお茶目さを再度呪う。

「そんなわけだから、ヤマモトさん。」

さようならの言葉を待たずにヤマモトは顔を恐怖に歪ませながら驚異的な跳躍を見せ、3メートル上空の木の枝に着地。そして獣の動きで木から木へと飛び移り、瞬く間に遠ざかる。

「往生際が悪いねぇ。」

吸いかけの煙草を地面に投げ捨てる。肩をぐるんと回す。アサセの口元が喜びの形に吊り上る。アサセの目が爛々と輝きだし、そして--

 

 目が覚めたらアサセさんの事務所のソファーだった。あれ?どうして俺はここにいるんだっけ?記憶の探索を始める。記憶はヤマモトさんが逃げだしたところで途切れている。ということは・・・また、気を失ったか。

 のそのそと起き上がりデスクの方に目を向ける。アサセさんがコーヒーを啜っている。表情は心なしか満足そうだ。バイトの内容について抗議でもしてやろう、と、ソファから立ち上がると胸元から紙切れがひらりと床に落ちた。目を向けるとマジックで 報酬 と書かれた茶封筒が床に張り付いていた。

 立体感のない茶封筒を拾い上げ、中身を確認してみると…。

「3桁ほど足りないんですが…。」

ちょっと控えめのクレーム。怖いしね。

「結局、説得できなかっただろ?内容違反ということで報酬は1000分の1だ。むしろ、貰えるだけありがたいと思いなさい。」

ふふん。と鼻を鳴らすアサセさん。本当はすごいお金持ってるくせにケチなんだもんなぁ。

 命が奪われる寸前までいって福沢さんが3人。これは死んでも10人いかないんじゃないかなぁ。がっくりと肩を落とす。

「けど、やっぱりその『目』は使えるなぁ。どうだ、本格的に手伝ってくれるなら報酬は2割増しだぞ。」

あぁ、またこの笑顔だ…。人を蔑むような笑顔は美人がやると魅力的だ。もしかして俺ってM気あるのかな……アサセさん男だけど。

「今回の4割り増しでどうですか? しかも俺は『見る』だけだからね。」

決してアサセさんの笑顔に脳が煙を上げたわけではない。なんていったって俺はドノーマルですよ? 異常な世界に興味はないが報酬と命を天秤にかけて報酬が圧勝しただけだから。いや、ほんとに。だって、大学生にはお金はいくらあっても足りないのだもの。