「お久しぶりです」
私は杉原さんの車の助手席に乗った。


「さぁ、元気にしていたか?」


「まあまあです」
うつむきながら答えた。


「そうか。何が食べたい?さぁの好きなものにしよう」


「食事してないの?」


「俺?お通夜終わって急いで戻って着替えてすぐ来たから食べてないよ」


「そう。お腹すいたね」


会話しながらも、私の言葉や言い方は素っ気なく、可愛げのない女そのもの。


そして杉原さんの顔も見ていなかった。
見れなかった。


「焼き肉にしようか。いい?」


「はい、久しぶりだな、ここに来るの」


私の家からすぐの焼き肉屋さんに行った。


席に通されても杉原さんの顔を見れなかった。


うつむいたままの私。


杉原さんが注文した特選カルビ等を食べながら静かに会話をした。


ようやく顔を上げて杉原さんの顔を見た。


「さぁ、お前は変わらないなぁ。18の頃からすごく綺麗だった」


「はぁ?私が今いくつだと?杉原さんの年マイナス15だよ」


「え?お前、そんなになるのか…見えないな」


「私は顔にシワとかないからね。でもお風呂入ったから今すっぴんだよ」


「俺は?どうだ?」


「う~ん。どうだろ?……まぁ、じじいでしょ」


「じじいだよなぁ」


「うん。孫もいるんでしょ?皆さんお元気?」


等とたわいもない会話だった。



久しぶりの焼き肉だったが余り箸が進まなかった。
緊張していたのかな?



お互いの近況や会社の話をしながらの食事。



「さぁ、行こうか」
と杉原さんが言った。


「私、近いから歩いて帰ります」


「ダメ。もう少し一緒にいよう」


杉原さんが先に席を立った。



お風呂から出て、脱衣場で服を来ていると携帯の着信音が鳴り響いた。


しまった、マナーモードにしていなかった。


誰かな?
会社を出ても部下達から電話が入るのはしょっちゅう。


杉原さんだった。


以前なら、杉原さんから電話やメールが来るとわかるように着信音とイルミネーションを別に設定していたが、今は皆と同じ。
数人しか設定していない。


脱衣場で他にもお客さんがたくさん。


電話に出た。


「はい、今スーパー銭湯の脱衣場なの」


杉原さんは、
「そうか。俺、お通夜が終わって帰っているから食事しよう。さぁの家に迎えに行くから待ってろ」と言う。


「もう遅いから日を改めませんか?」と言ってもムダだった。


私は自宅に戻り杉原さんを待った。


エクセルを教えるだけで食事するつもりはなかったのに。
しかも、雪が降っているし、時間も遅い。
確かに、私は食事していなくてお腹はすいているけど。


私の家は忘れていなかったんだ…


電話がなって外を見ると白い国産高級車が停まっていた。


「今すぐ行きます」と言い、私は呼吸を整えた。


この車に乗るのははじめて。


久々の杉原さんにドキドキしながら助手席のドアを開けた。


「お久しぶりです」






エクセルを教えてほしい…表計算の事か…
関数とか杉原さんに覚えれるかな…

パソコンを杉原さんに教え込んだのは私。

何をしたいのか聞いてみようか。


仕事が早く終わりそうな日に杉原さんにメールをした。

「今日は早く帰れるので会社に寄りましょうか?」

すると、
「今日の夜はお通夜に○○市まで行かなくてはならない」と返事が来た。

私は、
「それでは次回ということで」と送り返した。


何だかホッとした。


何度か見掛けた事はあったものの、久々の二人っきり。
正直、逢いたいという想いもなかった。


あれだけのケンカをし、振り回され、裏切られ、嘘をつかれ…


どれだけの辛い想いをし、涙を流したか…


電話があっても無視し続けていた私にまた連絡して来る杉原さん。



仕事が早く終ったし、雪が降って寒いし、スーパー銭湯に行って暖まって来ようと思った。


一度帰宅し、スーパー銭湯へ行く準備をしていた。


杉原さんからメールが来た。
「お通夜が終ったら急いで帰るから食事どうですか?」


私は、
「スーパー銭湯に行って来ます」とだけ返信した。