まだまだ美和子の話が続きます。


退院して自宅に戻った次の日、美和子はまた睡眠薬をたくさん飲んだ。


旦那さんが睡眠薬を捨てたはずなのに隠し持っていたよう。


また病院に運ばれた。


私はまた病院に行った。


「ごめん、家にいるとまた苦しくなって隠しておいた薬を飲んでしまった。致死量わかってるから考えて飲んだんだ。私、うつ病って思われてるかな?」と美和子は言った。


「何かさ、他に方法ってないの?それと、私は医者じゃないけど、この病院に心療内科あるじゃない?診てもらったらどうかな?」私は答えた。


「他の方法って何だと思う?」


明るく言う美和子。


「あなたには障害のある子がいるよね?でもそれがわかった時、あなた達夫婦はどうした?落ち着いて受け止める事が出来たよね?そしてこの子にしてあげれることを探して色々な所で診察してもらったり相談したりして来て今に至ったけど、その時の気持ちを思い出せない?でも、そればかりが全てではないからストレス発散っていうか自分が楽しむ時間も持って、私も協力するしね」


「あの子の事はすごく可愛い。こんな母親じゃダメだとも思うし。守って行かなきゃってのもわかってる。確かに障害があるってわかった時から毎日一生懸命だった。余計な事なんて考えなかった」


「でしょう?でもね、障害がある子がいるからってその子の為にだけに一生を捧げなさいなんて言ってないよ。あなたには異常なくらいに優しく子供達のお世話をよくしてくれる旦那さんや旦那さんの両親がいる。家族に甘えれる部分は甘えて外に目を向けようよ。そしたら自分の家にいたら苦しいとか狂いそうなんて思わなくなるよ」


あっけらかんと美和子は「ねぇねぇ、何する?何を始める?一緒にしてくれるよね?」と話まくり出した。

「私がしたいのは…やっぱゴルフだね。広大な自然の中で気持ちいいよー。ナイスショットの時の嬉しさ。そんなに上手じゃなくても充分に楽しめるよ。健康的だしね。日中、私が仕事でいない時でも練習場で一人で練習出来るし。後は、今もやってるけどパソコンの勉強。奥が深い世界だよ。色んな事が出来るんだよ。それと書道かなー」


私のしたい事を言った。


美和子は、イキイキとして「パソコンはあなたから教わるから私は勉強しない。書道は私には向かないな。字も下手だし、あなたは上手いからいいけど。そしたらゴルフ?教えてくれる?一緒にコースに行ってくれる?私にも出来るよね?」話す。




タイトルを再々会としたのに、美和子の騒動話が続きます。


次の日も病院に行った。


美和子のお母さんが付き添っていた。


「お母さん、私は面会時間が終わるまで居れますから帰られていいですよ。今日一日付いていらっしゃったのでしょう?」と言って美和子のお母さんには帰ってもらった。


「お母さんと少しは話をしたの?」と聞くと美和子は首を横に振った。


「食べたくないのに、色々持って来て…困ったわ。誰が食べるのこれ」と言った。

「お母さんも少しでも元気になってもらいたくて作って来られたのだから、食べないとね。もう普通に食事出来るんでしょ?」と言うと美和子はお母さんが作って来られた煮物を食べ始めた。

私は取り留めのない話をしながら美和子が食べるのを見ていた。

「退院しても帰る所がない」と美和子が言い出した。


「どうして?」


「だってあの家には戻りたくないから」


「どうしたら家に戻るの?」


「わからない。でも無理だと思う」


「じゃあ、実家は?」


「実家は心が休まらない。うちの母親って外面ばかりいい人だし」


「困ったね。でも、この病院だっていつまでも居れないよ」


「だよね…」


結局、一週間入院していた。私は毎日通った。


退院の日、美和子の旦那さんが「一緒に晩ご飯食べませんか?」と言って来た。

美和子は家に帰りたくないと言い張っているようだった。


美和子が好みそうなホテルの和食のお店で旦那さんと三人で食事をした。


食事しながらも美和子はだんだん口数が少なくなり本当に家に帰るのがイヤな様子だった。


「じゃあ、今日はこのホテルに泊まるよ」と旦那さんが言ったので私は帰った。


結局は美和子は自宅に帰ると言い、一応無事に戻ったようだった。


ところが…

美和子は私を見て「ごめん、来てくれたんだ」と言った。

「どうしたの?最近音沙汰がないなって思っていたら何の騒ぎ?」と私。


優しい言葉というか腫れ物にさわるみたいな事は私は言えないし言わない。
美和子は死のうとして薬を飲んだのではないという確信が私にはあった。


「何に不満があってこんなことしたの?苦しかったでしょ?お母さんとも話をしないって?」と聞くと「あの家にいたら頭がおかしくなりそうだった。何て説明したらいいかわからないけど孤独だと思った」と答えた。


甘い。

美和子の三番目の子供は二番目とは少し離れてから生まれた。知的障害があった。母親としてしっかりしなくちゃならないのに…


「何で孤独なの?三人の子供達がいて、働かないでそれなりの生活が出来て、したい事をやらせてもらえて…私から見たらうらやましい限りだよ」


「そうかもしれない。でもすごい孤独だと思った。誰も私を必要としていないと思った。あの家にいたら狂いそうだった。」


美和子の自宅は美和子の希望通りに建てられた。新築して何年も経たないのに改築を二回もした。改築の度に「ハウスメーカーが悪い、私が言う通りにしてくれなかった」と勝手な事を言っていた。


「家が悪い訳じゃないでしょう?美和子の好きなように建てたんじゃなかった?改築もしたし。孤独っておかしいでしょ?子供達が母親を必要としているのわかるでしょ?今、入院したと聞いてどんな思いでいる事か」


「うん。子供達の事は気になる。でもあの家には戻りたくない」


あの天真爛漫な美和子が壊れていた。


次の日も会いに来ることを約束して病室を出た。


美和子の旦那さんとお母さんが待っていた。
「美和子、何かしゃべりましたか?」

「うん、私が思うには死ぬつもりはなかったみたいだよ。家が嫌だって訳わかんない事を言ってた。あの家にいたら狂いそうだって」

「やっぱり、さぁさんには話はするんだ。」


「ひょっとして、躁鬱じゃないかな?どう思う?自分は孤独だとか言ってたけど」と私は言った。


「三日ほどで退院出来るらしいんで、申し訳ないけどさぁさん…明日も来てもらえませんか?」と美和子の旦那さんとお母さんに頼まれた。

私は「美和子とも約束したので明日も夕方来ますね」と言い病院を後にした。