困った時、弱った時…何かあった時だけ私に連絡して来るようになった杉原さん。


「信頼出来るのはおまえだけだ」と言われても複雑だった。


杉原さんと美和子の事で私は何度涙をこぼしたことか…


それなのに、何事もなかったかのように接して来る杉原さん。


どうしたらいいの…



当然、坂井さんには話せなかった。

遠距離恋愛ゆえにお互いの行動がわからない。

坂井さんから「今から家にかえるよ」とか「今日は接待でミナミに行くよ」とか「明日はゴルフだよ」と詳しくメールで報告があった。


なのに、杉原さんが入院して病院に行っているとは、私は言えなかった。



病院に行かないとすぐメールが来た。


「CADがわからないから教えに来てほしい」
「花が枯れて来たから買ってきて」
「外出許可をもらったから食事に行こう」


以前のラブラブの時なら素直に「はい」と言って従っただろうが、理由をつけては断ろうとしている私。


でも、はっきりとNOとは言えなかった。


こんな人だけど…私を平気で苦しめる人だけど…
私はまだ杉原さんを完全に切る事が出来ないでいた。

まだ、杉原さんへの愛情があると気付いた。



私は本当にバカだ。




次の日、仕事が終ってから病院に行った。


一応、駐車場からメールで確認。

万が一、奥さんが来ていらっしゃったら…と思っての配慮。


携帯電話でインターネット出来るようにパソコンを設定。
頼まれた果物を渡し、持って来た花を飾った。


「さすがにさぁは気がきくよ。俺の好みをわかってるし。うちの女房なんてまだ一度も来ないよ」


「えっ?本当に?」


「うん。入院の準備も俺が一人でしたよ」


「そうなんだ…でも、こんな旦那じゃ仕方がないかもね。私が言うのも変だけど」


「なぁ、俺、退屈で仕方がないよ。テレビも面白くないし。何か本でも読もうかな。明日、買ってきてよ」


「明日?」


「うん。ゴルフ雑誌と…何がいいかな…」


「絶対読まないと思いますが…それに明日も来るなんて言ってませんから」


「来ないのか?どうして?」


「…」


杉原さんはいきなり私の手を引っ張った。


「あっ!」


キスされた。


逃げようとしたが離してくれなかった。


「さぁ…心細いんだ…」


いつも、誰に対しても強気な杉原さんなのに、病気かどうか不安だったのであろう。


ずるい。


自分が困った時、弱った時は私?


私の心は揺れた。





杉原さんの病室に行った。

個室でビジネスホテルみたいな部屋。


元気そうに
「さぁ、やっと逢えた。元気にしてたか?」と言う。


「あわてて来たのに、ずいぶん元気そうだけど…どうして入院してるの?」


「まぁ、検査みたいなものかな。会社の健康診断で引っ掛かってね。退屈で仕方がないよ」


「そう…それで頼みたい事って何?」


「あぁ、パソコン持って来ているんだけど携帯電話をつないでインターネット出来るようにしてくれないか?出来るだろう?」


「出来るけど…専用のコードみたいなのが必要だし、通話代金が高いしおすすめ出来ないよ。この病院って携帯電話とか許可されているの?」


「さっき、先生が来た時に聞いてみたらOKとは言わなかったけど大丈夫みたいだったよ。俺も入院中でも仕事しないとならないし。メールのチェックもしたいから」


「とりあえずドコモで買って来ます。他には用事はありませんか?」


「あったら連絡するよ。いつも悪いな」


「本当に…都合が悪くなったら私を思い出すみたいね」


「病人をいじめるなよ」


「誰が病人ですか?ところでいつまで?」


「わからないな。俺、縛られるのイヤなんだよ。あっ明日、果物買ってきてくれないか?」


「明日?明日も来るなんて言ってませんが…」


「ドコモに行って来てくれるんだろう?」


「でも、明日来るとは言ってませんから」


「さぁは絶対来てくれるって信じてる」


「それじゃあ、帰りますね」


「ありがとう。頼れるのはさぁしかいないから宜しくね」


何て言ったらいいのか…

私の辛かった日々は何だったの?

わかっていて平気な顔して何度も私に嘘ついて、裏切って…

無視した方が良かったのだろうか…

私の杉原さんへの想いは完全になくなってはいない。
また揺さぶられている。


坂井さんは?

坂井さんに対しては、この人じゃなきゃ…ってほどの感情はない。
ただ、癒されるし学ぶところが多い人。


病院を出て自宅に向いながら考えていた。