失恋記念日:36(誓いのキス:鴻上大和) | ANOTHER DAYS

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「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
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before

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「すっげー。」
 
この辺りは全て車両通行止めで 花火見物客は躊躇なくアスファルトに腰を下ろしていた。
 
私たちもそう。二車線の道路に腰を下ろし空を見上げる。…いや、私に限っては観ているふりだ。
 
「…。」
 
…言うか。
 
大和の気持ちを確かめようとしている…心中穏やかでないわけだから。
 
…話さなきゃ。…よし。
 
視界に花火を映したまま、体育座りの膝をグッと抱き寄せた。
 
「…ねぇ大和。」
 
「んー。」
 
「偽装結婚の目的ってさ…理事長さんとのことだったんでしょ?」
 
きちんとそう説明されたわけじゃない。だけどそうに違いない。
 
「あ?ああ、そうだな。」
 
大和は私に目を向けたけど私は視線を花火から移すことはしなかった。
 
「解決したね。」
 
もうこの時には大和の顔をまともに見ることが出来なかったんだ。
 
「ってことはさ、偽装結婚はさ…」
 
「ん?ああ。」
 
「…もう…」
 
…私は必要ないのかな。
 
意気地なしだと思う。自分の気持ちは告げず大和にそれを答えさせるなんて。
 
「…ほら、そろそろ三ヶ月くるじゃない。」
 
大和が私の横顔を見つめていることは分かった。それでも私は花火から目を逸らさなかった。
 
なんでもないふりをし続けたかった。終了だと言われても狼狽えることのないように。…だけど実際に、
 
「ああ。契約終了だ。」
 
「…っ…」
 
…そう答えられたら。
 
「アカリの結婚式まではと思ったが…。どうしたい?別に今日終了でもかまわねーけどな。」
 
今日?なにそれ、今ここで終了ってこと…?
 
胸がズキっと痛むと同時に目の前が真っ暗になる。
 
これっきり?私ってその程度なの…
 
「お前がそうしたいならオレは別に…。おい、花火観ねーのかよ。」
 
観れるわけないでしょ…。
 
無意識に膝に顔を埋めていた。もう泣きそうで。でも泣くわけにはいかなくて。
 
偽装夫婦なんて 契約終了すればただの他人
 
大和はきちんと割り切っていた。さすが大和、私みたいに気持ちを揺さぶられることもなく…
 
「…。…」
 
ハァ…。揺れるような女でもないか。
 
「…観ます。」
 
ガバッと顔を上げ花火に笑顔を向ける私は最高に意地っ張りで
 
「そういえばさ、アカリさんのこと良かったの?」
 
最高にかわいくない女だ。
 
「アカリのこと?なんだ?」
 
もう終わりならいっそ全部聞いてやろうと思った。
 
「こないだのゴタゴタ。大和、敗者復活のチャンスだったんじゃなかったかなーって思って。」
 
横顔を見つめる視線に未だ答えられない。花火に楽しんでいるふりをし 何気ない単純な疑問を持っただけのふりをする。
 
「良いも悪ぃも…んな気持ちとっくにねー。それにだ、失恋してへこんでる女を口説くわけがねーだろ。」
 
「そかそか。」
 
ちょっと怒ったね。声で分かる。そりゃそうだね、今の私は生意気で意地悪だ。

「お前こそどうなんだ。」

「なに。」

「あの男だ。連絡があってもブレねーか。」

どうでもいいくせに、聞き返したりして。

この時やっと私は大和のほうを向いた。久しぶりに目を合わせた気がした。

「さぁ。どうかな、分からない。」

なんかもう、一緒にいるのもツラい。
 
・・・・

それからしばらく無言のまま花火を観続けた。連打だろうと珍しい形の花火だろうとただぼぅと。

これから花火を観るたびにこの夜を思い出すんだろう。少しだけ期待していた自分を惨めに思うんだろう。

「もう帰らない?帰りがきっと混むでしょ。」

こんな思い出なんて欲しくなかった。

返事を待たず立ち上がる。大和はゆっくりと腰を上げた。

「綺麗だったね。」

名残惜しいふりをしながら花火に背を向け歩き出す。隣に並んではいるけれど会話もせずに。

けれど、交差点に入り赤信号で立ち止まった時、

「…駅こっちだよ?」

大和が青信号側 帰路とは反対方向に向かう。私は眉をひそめた。

「なに?コンビニ?コンビニなら駅にもあ…」

「今日は帰らねー。」

「え?ちょっと待って、なに…」

なにか怒っている。引き止めようとする私に振り返った。

「契約終了だ。」

え…

「オレたちはたった今から赤の他人だ。」

ウソ…

突然の終了宣言に思わず押し黙る。目を逸らすこともできなくなった。

ホントに今なんだ…?

真剣な眼差しに捕らえられ笑いごまかすことさえできなかった。ただ悲しみに打ちひしがれもうこの場にしゃがみ込みそうになった。

「だから、」

「…。…」

呆然と立ち尽くす私に大和は言った。

「やり直さねーか。」

…え…?

真っ直ぐに見つめる目には揺るがないなにかを感じる。それは、

「失恋記念日。」

あ…

思いもしなかった…私とは違う契約終了の意味

それでも私は、

「ただの男と女で、あの夜から始めたい。」

「え…」

 グッと掴まれた手を振り払う気はなかった。


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