失恋記念日:35(誓いのキス:鴻上大和) | ANOTHER DAYS

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「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
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before

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「悪い。遅くなった。」

「ううん、大丈夫…。」

ふんわりとお線香の匂いがしたのは気のせいだろうか。

大和は予定より随分と遅くに帰宅した。リビングで足を止めることなくすぐに寝室に向かう。

ガチャパタン

着替えるみたい…花火は観に行くのだと少しホッとしたけど、

「…どうなったんだろ。」

全然私の顔見ないし…。気まず…。

ピリッとした空気を感じたりして。

大和を待つ間 私は今更だけど反省した。

よくよく考えれば他人が口をだすような事ではない。

大和は大和なりに理事長さんに打ち明けるタイミングを計っていたのかもしれない。そうだとしたら、私のしたお節介は随分と迷惑この上なかったと思う。

良かれと思い背を押したけど…果たして結果は吉とでたか凶とでたのか。…いや、今はそれより、

ガチャ

「***、座れ。」

きたきた…。

まずはお説教だ。

着替え終わった大和はソファの中央にドンと腰を下ろし胸の前で腕を組む。

「座れよ。」

「はい…。」

こうなるだろうと覚悟はしていた。

足取り重くスツールにちょこんと座れば、

「オレの言いたいことは分かるよな。」

案の定な展開となった。

「第三者が当人の都合も考えず強引に段取りを付ける…許可も得ずだ。自己満足以外の何ものでもねー。」

「…。」

厳しい指摘が突き刺さる。ここぞとばかりは教師らしいと思う…。

「良かれと思ってしたことでも相手にとれば……ハァ、人の話を聞く時は相手の目を見る!」

「はい!」

呆れたような口調はなかなかに厳しい。

「思いやりとお節介は紙一重だってことを忘れんじゃねー。まず相手の気持ちを最優先に考えて行動しろ。」

「…はい。」

背筋を伸ばしはしたが、またすぐに俯いてしまう。

まさにやらかした生徒とそれを叱る教師の図

「…。」

なかなかしんどい…。

大和はへこんでいる私を前に大きくため息をついた。

「お前が今回した事は小さな親切大きなお世話に違いねーんだからな。」

まさにそのとおり…なんだけど、

「結果オーライだとしても、だ。」

「はい…。え…」

結果オーライ?

ハッと顔を上げれば 相変わらずの厳しい表情冷たい目つき

けれど徐々に目元が優しくなる 口角が上がっていく

「親父には打ち明けた。二人で母親の墓参りに行った。」

理事長ではなく親父…二人でお墓参り…え、それって…

「っ!」

声をあげてしまいそうで思わず両手で口を塞いだ。けれど見開いた目は閉じれなかった。

そんな私に大和の頬がふっと緩んだ。

「話は以上。」

腰を上げながらポンと頭を叩かれた時には

「よし、花火行くか。」

あ…

私まで笑顔になるくらいの笑顔で。

「…うん!」

「お前覚えとけよ。」

「え。」

意地悪な、大好きな笑顔で。

・・・・

「うわ、混んでるー。」

電車に乗り花火の上がる最寄り駅に着いた時にはすっかり陽は落ち空には月のみ光る。

けれど露店で賑わう駅前の通りは光りと賑わいに溢れていて、

「河川敷は無理だな。脇道逸れようぜ。」

ゾロゾロ歩く流れから抜け出しある程度のスペース空く通りを目指した。そのあいだ中、理事長さんとのやり取りを話し聞いた。

「え、まさかの槇村さんの花屋さん?」

「まさかのそれ。槇村が『どういうお知り合いですか』なんて聞いてきてさ、親父と顔を見合わせちまった。」

「そこはもう『親子です』じゃん!」

「んな簡単に言えねー。二人してしどろもどろだ。」

大和は照れくさそうに笑う。嬉しそうだった。話を聞きながら胸のなかがあたたかくなる。

「親父のほうが固まっちまってそれに焦ってオレまでさ……」

横顔を見ながら感慨深くなる。

「…良かった。」

良かった…良かったね。ホント良かった…。

「お前のおかげだ。」

「え?」

ニカっと見せた笑顔には

「やるじゃねーか、奥さん。」

「…まあねー。」

フフンなんて笑い返したけど…。

「…。」

偽装結婚の目的を果たしたことへの賞賛…そんな風に捉えてしまう私は

「もう花火上がるぞ。この辺りで観ねーか。」

「うん。」

私は役に立てたんだよね 私と過ごした日々は大和にとって無駄じゃなかったよね…。

なんてしんみり思う。

今後のことを話さなければならないと分かっていながら 偽装結婚がずっと続けばいいと思っている。

いやだな…ハッキリさせるのがこわい。もうこのままがいい…。

「お!」

裏道にも人は多い。一斉に立ち止まり見上げる空にたった今大輪の花が咲いた。


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