失恋記念日:19 (誓いのキス:鴻上大和) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
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「このあいだ聞きそびれたけど、***ちゃん、結婚っていつ頃を考えてるの?」


うわ、きた…。


カウンター超しにアカリさんがニコニコと聞いてきた。


「あー…。まだ全然詳しくは話をしていなくて。」


この前の夜の続きの始まりだ。


あの夜は大和がなんだかんだと誤魔化したけど、今は私一人。あーマズい。逃げるにしても持ち場を離れるわけに行かず突っ込まれたら誤魔化しきれない状況で。


「大和、ご両親には挨拶に行ったの?」


「え、いや…。」


「ええ?なにしてんの大和は。」


「…大和忙しいし。時間なくて。」


「時間なんて作るもんでしょ。こりゃ来たら説教だな。」


「ハハ…。」


お願い、これ以上の難問はやめて。


「俺も聞きたいんだけどー。」


ええ?勇太さんまでなに??


思わず構えたけど、


「大和との生活ってぶっちゃけどう?アイツさー、料理とかうるさいじゃん?ダメ出ししてこない?」


その質問は楽勝!助かった!


「そうなんですよ!毎日ダメ出し!」


勇太さんの当たり障りない単純な疑問に身を乗り出した。


「大和は食にうるさいからなー。」


背後に現れ会話に加わる久仁彦おじさん。


「アイツを唸らせる飯を作るとなると大変だろ。」


「ホントそれ。美味しいなんて言われたことないもん。」


「そうなのか?弁当美味いって言ってたぞ?」


「え?」


「聞いたぞ大和から。毎日弁当作ってるらしいな。」


いつかのミッション以降、私は大和にお弁当を作るようになった。朝のキッチンは二人でバタバタと慌ただしい。けれどそれはそれでなんだか楽しくて。


「なかなか美味いって褒めてたけどな。」


「え、ウソ。」


「大和が褒めるとか珍し!」


「好きな子が自分のために作ってるんだもんー、嬉しいんだろうねー。」


勇太さんたちはここぞとばかりに冷やかし始める。


助けてくれるかと思いきや、久仁彦おじさんの登場がこの場に油を注ぐことになるとは、だ。


私は頬が熱くなるのを感じ、


「ホントに美味しいなんて言われたことないんですよ?」


なんて事を振ってくれたんだとニヤケ顔のおじさんの腕をパシッと叩いて。


…いつも残さず食べてくれてるけど。


「鴻上さん照れてるんでしょ。」


「え。」


槇村さんの笑顔の一言は不思議と重みがあり、


「喜んでいると思います。」


「そうなんですか…?」


否定してはならないような。


「***ちゃん、顔真っ赤。」


「耳まで赤いぞ。」


「もう、おじさん!」


「結婚されるんですか?」


ほら、声大きいから!


勇太さんの隣のお客さんにまで冷やかされる羽目になって。


「そうなんですよ、俺たちの仲間と。」


「そうなんだー。」


もう、ホント勘弁してーー…。


「良いなぁ俺も結婚してーー。」


「勇太はまず相手探しでしょ!」


ワイワイガヤガヤと冷やかしは続く。おじさんは冷やかすだけ冷やかしてフロアに戻って行った。


「すいません騒がしくて。」


勇太さんの隣席の女性に頭を下げる。


「全然。そっかー。結婚かーー。おめでとうございます。」


「ハハ…ありがとうございます。」


皆の視線を一身に受けながら熱い頬を仰ぐ。ホント逃げ場が無いなと改めて感じた。


「しかし、ホント大和も佐伯も遅ぇーなー。会議ってそんな長いもんかね。」


勇太さんが入り口に目を向ける。


教頭先生に捕まっちゃったのかな。


視線を追い、私も目を向けた時だった。


「浮気してたりして。」


「え?」


「うわ、すげー縁起でもないこと言うし。」


隣に座る女性の発言に勇太さんが笑う。突拍子もないことを言うなと思った。笑い流そうとしたけれど彼女は真顔で私を見つめている。そして更に


「会議っていうのは職場の女とイチャつくための口実だったらどうする?」


「え…。」


なんて事を言い、場の空気を澱ませたんだ。


なに…。


「アハハ、冗談はほどほどにーー。」


勇太さんが大げさに笑いながら彼女の肩を叩く。アカリさんと槇村さんも彼女の発言に苦笑いし眉をひそめた。


彼女自身この不穏な空気を感じないわけはないだろう。けれど


「想像して欲しいの。」


彼女は揺るがない何かがあるように私を見つめ続けた。


「その大和さん?だっけ。彼が浮気をしたらどうする?」


「っ…。」


威圧感のようなものを感じ心臓が嫌な音を立て始める。


このひと酔ってる?…ううん、注文はジンジャエール…。


「彼が他の女に寝取られたら。アナタはどうする?」


彼女は私を見つめたまま口角を上げた。私は完璧に捕らえられ、目を逸らすことも身動きさえ出来なくなる。


「私はその女に会ってみたいと思う。」


「…。」


ああ…そうか…。


彼女の言う『その女』が私自身だと分かったから。


ガタ


私を見つめたままカウター席から腰を上げる。そして同じ目線の高さで微笑み、


「その節は主人がお世話になりました。はじめまして。五十嵐の妻です。」


…案の定、そう言った。


・・・・


不倫の終わり方なんて、知らない。


ただ、清々しいものとして終わらせてはいけない。


「あ…。」


結末なんてこんなものだ。





・・・・





「なんでああも教頭の話は長ぇんだ…。」


ブツブツ言いながら商店街に向かう。


「予定より一時間も長ぇー…。」


すっかり陽は落ち、飲み屋に立ち寄る仕事帰りのサラリーマンが通りを埋める頃


「大和ーー。」


来た道から声をかけられ振り返った。


昔馴染みの一人、佐伯だ。


「お前も今からLIかよ。」


「そそ。大和今帰りか?遅くないか。」


駆け寄って来た佐伯は、いつものことだがニヤケ顔。多忙なはずだが全く疲れを見せない男だ。


「教頭の話がなげーんだよ。」


「でた、教頭。そんなことより聞いたぞ、同棲してる女がいるって?」


横顔を覗き込まれ 手でシッシッと払いのける。


「最近お前の機嫌が良いって聞いた。」


「誰がなにを言ってやがんだ。」


「癒されてるんだろ。家に惚れた女がいると違うよなー。帰りもダッシュか?お、そのトートバッグの中身は愛妻弁当か!」


「バカ触んな!」


機嫌が良い…自覚は無いが、家に誰かが待ってると思うと帰路へは自然と足早になる。当然だろ。


「お前が同棲とはねー。」


「黙れ。しょーもねーこと言ってねーで急ぐぞ。」


今夜もそうだ。LIでオレを待っているから、オレは急いでいる。


「店にいるんだろ?紹介しろよ。」


***が待ってるから。…って、


「…。」


…いや、別にアイツだからってわけじゃねーか。誰かを待たせるのは好きじゃねーってだけだ。


急ぐ足に自問自答する。隣からガタガタうるせー佐伯を無視しつつLIを目指した。


もうそろそろ店舗が視界に入るだろう辺りまで来たところで、


「…あ?」


携帯が鳴る。見れば、


「勇太だ。」


「勇太?まだかって電話だろ。」


「だろうな。…もしもし、もう着く……は?それどういう……おい。…なんだよ。」


「どうした?」


「切りやがった。」


・・・・


勇太は一言だけ告げすぐに切った。


「『来るな』って。…なんなんだ?」


LIでの賑わいを僅かに耳に残して。



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