失恋記念日:20 (誓いのキス:鴻上大和) | ANOTHER DAYS

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「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
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「誠、関西に転勤になってね。私も明日向かうんだけど、その前にアナタに会ってみたくて。」


…誠の奥さんは綺麗な人だった。細い腕と足がスラリと長い。肩までの黒髪と切れ長の瞳に上品な女性の印象を受ける。


けれど、発する声と言葉は外見とは裏腹に力強く低い。その対照的な印象が奥深い想いを表していた。


確か、誠の大学時代の同級生。


四年間キャンパスを共にしたのに、謝恩会で始めて話をし意気投合したと、付き合う以前聞いたことを思い出す。


「…。」


…この人が誠の…。


「あ、あのさ…!」


ただごとではない雰囲気を私と彼女に感じたんだろう。勇太さんは笑顔を引きつらせながら慌てて立ち上がる。


「マジな話なら改めて場を設けたほうが良いんじゃないかな…ほら、ここには俺たちがいるしさ、」


作り笑いのままアカリさん達に同意を求める。


「そうだね…***ちゃんが仕事終わってからでも…」


アカリさんも同じように戸惑っていて、


「あ、それか私たちが向こうに行こうか!」


大画面を指差し槇村さんの腕を掴んだり…けれど、すかさず彼女が、


「気にしないでください。」


そう言って、止めた。


「込み入った話をするつもりはないので。どんな方なのか会ってみたかっただけだから。」


「…。」


会ってみたかっただけ…か…。


冷静を保っているように見えるけれど、私を真っ直ぐに見つめる瞳は色んな感情を映していた。


怒り悲しみ虚しさ切なさ。隠しきれない口元は僅かに震えている。


こんな日がいつか来るかもしれないと覚悟していた。その時何かしら仕打ちを受けたとしても全て受け入れようと決めていた。


責められるべきは私だから何を言われたって構わない…


…ただ、


「アナタを責めるつもりはないの。どうせ誠から声をかけたんでしょ。アイツ口上手いから。結婚する前から何度かあったのよこういうこと。」


…ただ、大和のことが気になって。


「…。」


チラッと勇太さんたちに視線を向ける。


勇太さんアカリさん槇村さん…。彼らは私を通して大和を見ていた。


戸惑う表情は隠し切れない。勇太さんとアカリさんは眉をひそめ目を合わせ、槇村さんは眉間に皺を寄せ彼女を見つめている。


不倫していたのか

大和はこのこと知ってるの


そんな声が聞こえてきそうだった。


「いやいやいや…。聞いてられないんだけど…。」


案の定、勇太さんはこの場に居られないとばかりに席を離れる。


大和、ごめん…。


友人達に 自分の恋人の恥ずかしくて情けない過去を知られて…なんて女と付き合ってるんだってきっと詰め寄られて…そんな思いをさせてしまうなんて。


「…ハァ…。」


ホントのこと、話そう…。


契約違反だと大和は怒るだろうか。だけど私のせいで大和が恥ずかしい思いをする。嫌な思いをする。


「…。」


それはイヤだ。


「誠と別れてまだ日が浅いのに、まさか結婚されるなんて。本命は別にいたのね。」


勇太さんが席を立ち、彼女の隣が空席になることで、私の視界は彼女だけになったよう。


「誠のことは遊びだったのね。」


真っ直ぐに届く声が随分と大きく聞こえて、


ワーー…


店内のお客さんが一斉に声を上げる。立て続けに何度も歓声が上がる。


そのなかで私だけが灰色に染まった影のようで、


「私ね、お腹に赤ちゃんがいるの。もちろん誠の子よ。言いたいこと分かる?」


お腹を優しく撫でる手が随分と白く見えて、発する言葉が光って思えて


「誠もあなたのことは遊びだったってこと。」


「…っ…」


眩しくて眩しくて…思わず目を瞑った。


「もう会いには来ないわ。私も、誠も。」


勇太さんたちに本当のことを話そうと思った。


「ご結婚おめでとう。お幸せにね。」


偽嫁なんですって…私は大和とは関係ない女ですって話そうと思った。





・・・・





「もう来たのかよ!!」


「今の電話どういう意味だ。」


いよいよLI目前ってとこで店から勇太が飛び出して来る。そしてオレを目にし大袈裟なほど仰け反った。


「今はマズいって!」


「なにが。」


「どうした、勇太。」


佐伯がヒョコヒョコとオレと勇太に割って入る。


「ハッキリ言え。」


ふざけた様子で額を指で跳ねた時だ。


ガチャ


「あ。」


店の内側から開いたドア


歓声とともに女が一人出てきた。そしてオレ達に目もくれずドアを閉めた途端


「…なんだありゃ。」


小走りに消えて。


「ああああ…」


「ああ?」


勇太は一人アタフタとしている。オレはため息混じり肩を掴み


「ジャマ。」


入口前から退かせドアを開けた。


ガチャ

ワーーー!!


カウンターに目を向ければ座っているアカリと目が合う。内側には誰もいないのも視界に入ったから、


***はどこにいんだ?


無意識に***を探し歓声の渦に目を向けた。


「勇太、あの人は?」


「走ってどっか行ったよ。それよりどうなった??」


勇太とアカリがなんやかんやと言いあっているが気にも留めず、


「大和、お前の彼女紹介しろ。」


「お前うるせー。」


佐伯のしつこい攻撃を払い、カウンターのイスに腰掛ける。するとすぐに、


「鴻上さん。」


槇村が…アカリの婚約者が、オレの隣に座り直した。



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