失恋記念日:16 (誓いのキス:鴻上大和) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
吉恋一護 誓い大和 怪盗流輝 スイルム英介 お気に入り
日々の出来事など。

before

******************


「ぶう子!起きろ!」


「ひゃい!」


はじめてだった。大和が朝から慌てている。


「寝過ごした!」


昨夜寝るのが遅かったのと、随分飲んだビールのせいかも。大和が寝坊したのだ。


「ウソ、もうこんな時間?!」


私こそ飛び起きた。


私はいつも大和の身支度の音で目を覚ます。


朝食を作る彼の横で私がすることは、コーヒーを淹れ調理されたものを器に盛ることだけなのだけれど、大事な役目だと自負しているのだ。


「あークソ、勇太のやろー、今度ドツいてやる。」


ブツブツ言いながらネクタイを締め、上着を羽織る


「んじゃな。行ってきま…」


「待って!なにか食べた方が良いよっ。」


リンゴを剥こうなんて手にしたけど、


「時間がねー!あ、今日のミッション無しな、弁当作ってねーから!」


「え…」


「いってきます!」


ガチャバタン!


嵐は瞬く間に過ぎ去った。残された私は、


「…どういうことよ。」


思わず呟いて。


なにに驚いたかって、大和は自分が作ったお弁当を私に持って行かせようとしていたことだ。


そりゃいつも作ってるものね、私用の洋朝食と自分用の和朝食、さらにお弁当。器用だなぁとあくびを堪えながら感心している。


けど、なんていうか、


「私だって作れますけど。」


え、作るけど??


・・・・


「…うわ。」


と、いうわけで、ただの意地でお弁当を作って大和の勤める女子校に持って来たわけだけど、建物を前にし思わず後ずさってしまっていた。


敷地を囲む塀は清きか弱き生徒たちを守るかのように随分高い。その塀をグルッと回りたどり着いたは正門なわけだけど、


アーチ型の門は当然閉じている。けれど柵越し見える光景に目を丸くしたんだ。


「美術館ですか…?」


正門に向かって開けたコの字型の真っ白い校舎は四階建 その校舎中央てっぺん、あれがチャイムの代わりなのだろうか、鐘が吊り下げられていた。


正門と校舎のあいだには随分と広い中庭があり、中央にはビーナス像の立った噴水が設置されている。


まるで宮殿のようだ。あまりの異空間に度肝抜かれて立ち尽くす羽目になったのだ。更に、


「なんでまたもう…。」


今日に限ってなのかどうなのか その噴水を囲んで生徒たちが写生をしていて。


ビーナスは自らの姿を360度キャンパスに描かせているのだ。


「…か、帰ろうかな。」


こっそり職員室に行き、いつも待機しているという曰く付きの教頭先生に挨拶をして、早々に帰ろうとしている私だった。


この状況でなかに入ればとんでもない注目を浴びるだろう。あーー、偽嫁にはハードルが高過ぎた。


「帰ろ…。」


身を翻そうとした時だ。


「当校になにかご用でしょうか?」


ゲ。




・・・・




グーーー…。


「ゴホン!」


腹の虫が鳴く。オレは誤魔化すため同じタイミングで咳払いをした。


昼休憩前の4時限目、オレの空腹は最高潮だ。


ヤベー、すげぇ腹減った…。


教台から見渡す生徒たち。いそいそとオレの作った小テストに勤しんでいる。教室に響くのはペンの音だけで、オレの腹の虫は異様なほどデカく響いていて、


「プッ…。」


前列の生徒には聞こえるんだろう。オレをチラ見しては声に出さずと笑っていた。


もうすぐ昼!…ハァ、っつっても食うもんねーんだよな…。


売店はあるが鐘の音と同時に一斉に駆け出す生徒たちに勝てる気がしない。食堂も基本生徒用だ、買えるのはサイドメニューのたまごドーナツだけ。


夕方までもつか?あと何度腹の虫は鳴くのか。


「ハァ。」


マジで勇太のやろー、覚えとけ。


虫の音とため息をかき消すため、席を立つ。


そして窓際に向かい、気を紛らわせるため真っ青な空に目を向けた。


「…。」


昨日…アカリの奴、なんか様子がおかしかったよな…。


不意に思い出す恋破れた相手


結婚話は上手くいってんだよな?…なーんかダンナの話になると話そらすっつーか…なんか言いたげというか…。


オレがどうこう言うことじゃねーのに気になる。どうこう出来もしねーのに…。


大きく息を吐き、強引にアカリの姿を消した。一度生徒に目を向け、改めて空を見上げる。


「…。」


今夜の晩飯なんだろ…。


***の『美味しい?美味しい?』ってオレの反応を待つ顔が浮かぶ。思わず笑ってしまう。


バカぶう子。今頃なにしてんだか。


今までは、今夜は何を作るか、そればっかだったのに、***と暮らし始めてから毎晩の飯が楽しみになっていた。


アイツ、レトルト使わねーのは偉いよな…。いつかの晩飯、酢豚とか結構美味かった。アレ食いてー。


生春巻きのチリソースも辛み絶妙。あ、でもあの中華スープはねーな、白湯飲んでんのかと思ったっけ。


ブツブツ言うオレに膨れっ面。それでも完食すれば満面の笑み…単純っつーか、素直っつーか、可愛いつーか、


「…。」


って、なに考えてんだオレ。


無意識に***のことを考えていて首を横に振る。時計に目を向けそろそろテストを回収するかと身を翻そうとした時、チラッと異様な光景が視界に入った。


「?…」


4階のこの教室から見下ろす中庭。正門の手前に生徒が集まっている。


写生してたんじゃねーのか?キャンパスはそのまま放置して…なにに集まってんだ。


生徒たちの輪の中にスッと背の高い男…理事長か、あ、教頭も…。まさか不審者?


「…。」


目を凝らしジッと見つめた。


動く輪のなかでスーツでもない制服でもない ワンピースにカーディガンを羽織った女がいる。


え…


それが***だと、分かった時、


「ハァ?!」


キーン…コーン…カーンコーン…


頭上の鐘が鳴った。



next

******************