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「なんで黙ってたんだよ。」
店内リフォームのため、明日から臨時休業
んな貼り紙に目を通し、仕事帰りLIに寄ると勇太がいた。
「最近付き合い悪いじゃん。忙しいんだろうなぁって思ってたんだけど、まさか!」
勇太はすかさずオレの腕を掴み隣に座らせる。そして横顔めがけて一気に捲し立てた。
「彼女がいるなんてさ!しかも一緒に暮らしてるってどうよ?!」
「うるせーうるせー。なんの話だ。」
シッシッと手の甲で払うオレに膨れっ面だ。
「惚けんなって!しかも久仁さんの親戚らしいじゃん!」
カウンターの内側で久仁さんは苦笑っている。その表情を見て誤魔化しようが無かったらしいと観念した。
「なんで教えてくれなかったんだよ!」
「二人だけの空間を大事にしたいタイプなんで。」
「そんなの初めて聞いたし!勿体ぶってなんだよ、ツレねーな!」
「あーー、マジでうるせー!」
オレと***の付き合いは三ヶ月限定だということ。
勇太に限らず仲間皆には、偽装だということは黙っておいて欲しいと久仁さんに頼んでいた。
こいつらへの***の説明は、単純に惚れたから付き合う、合わなかったから別れた、それで良いと思っている。
理由だなんだと面倒な説明は勘弁だ。
「会わせろよ!ダメだって言っても押しかける!」
「ハァ。」
それでなくてもこんなにもめんどくせーから。
オレはため息混じり肩を掴んだままの勇太の手を払う。
「情報源は誰だ。」
マジでめんどくさい。…も、だし、
「アカリだよ。朝っぱらから二人でパン屋にいたって。」
「…。」
女がいるほうが、なにかと都合が良い。
「なんだよ結婚ラッシュかよ。アカリといい、大和といいさ。」
もうすぐ結婚しちまう、惚れた女への未練を断ち切るためには。
・・・・
『花屋?』
『らしいよ。商店街で花屋継いでるって。』
アカリの男と初対面というわけじゃない。何度か二人でLIに来ていたから、打ち解けるほどではないにしても世間話くらいはする、その程度の付き合いはオレを含め皆あった。
『はじめまして。』
『…どうも。』
背は高いが猫背ぎみなせいで随分と控えめな男に映る。日焼けのない肌に銀色の縁のメガネ…気難しい印象も受ける。
だが、目尻のシワと嫌味のない笑顔は自然と周囲を穏やかにした。
自らズカズカと会話を進めるタイプじゃない。聞き上手な合槌が心地良い嫌味のないニコニコくん…。
アカリらしからぬと言えば語弊があるか
どちらかといえば金回りの良い派手な相手ばかりのアカリだったのに、あの男は違った。
『私、結婚します!』
え…。
いつかのLIで、アカリはオレ達仲間に満面の笑みで告げた。未来のダンナはアイツの隣で照れくさそうに口角を上げている…そして、
『じつは、お腹に子どもがいます。』
デレデレの笑顔でアカリのお腹を撫でた…すげー嬉しかったこそだろう。
『え…それ言うの…。』
アカリが戸惑うくらいだ。そしてオレは、
『っ…。』
オレは…。
・・・・
拍手喝采、笑顔が溢れている。だがオレはグラッと視界が揺れるような衝撃を受けていた。
心臓が激しく動悸する みぞうちを打たれたかのように呼吸さえ出来なくなる。
ウソだろ…。
その時に自覚したんだよな。
『プッ。大和ったら目丸くしてる。おめでとう、は?』
ああ…オレ、アカリに惚れていたんだって。
気づかないふりをしていた。実際付き合う男一人一人に嫉妬することはなかったし、オレもそれなりに付き合っている女もいたし。
それなのに、
『…おめでとう。』
失恋した瞬間に惚れていたと認める羽目になるなんて。
やっとの思いで口にした言葉はらしくなくどもっていて、
『…あ、オレそろそろ行くわ。人待たせてんだ。』
『まーさーか、彼女とか?』
『どうだろうな。』
幸せそうな二人を見ていられない。アテもないくせに店を出て。
・・・・
「おい大和!今度紹介しろよ!」
「…。」
…そういえば、あの夜か。***と出会ったのって。
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