失恋記念日:12 (誓いのキス:鴻上大和) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
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日々の出来事など。

before

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「あー、すげぇ美味そー。」


「焼き立てですから。ね、バケットが必要ってことは、今夜はイタリアン?」


「ああ。前菜からコース並に作ってやる。」


「やった!」


夕方 大和に言われたとおりバケットの焼き上がる時間を見計らいパン屋に行った。焼きたての香ばしい匂いにかぶりつきたい衝動を抑えながらマンションに戻った。


それもこれも、この美味しさを大和と味わいたいからだ。


「まずはなにをすれば良い?」


「ん、アスパラの皮剥き頼む。」


今日は早めに帰るから夕ごはんを作ってやると言われていた。


料理の腕は敵わない。私はアシスタント 指示どおりに動くのみだ。


「ぶう子、アンチョビ用意しておいてくれ。」


「はーい。」


夕暮れのキッチンで、大和はラフなスエット姿 私は楽ちんワンピース


リラックスムードでキッチンに二人で立っていると、本物の夫婦もしくは恋人だと勘違いされそうな絵面だ。


二人の生活も早一ヶ月


「小さい頃を思い出すなぁ。お母さんとよくこうして一緒にごはん作ったの。」


「ぶう子はもっぱら味見役だろ。」


「フフ、当たり。」


私たちは上手くやっている。


・・・・


誠と再会した夜からLIには行っていない。そして大和も一切誠について触れることはなかった。


「そういえば、明日からLIの内装を変えるって。しばらく臨時休業だってさ。」


「…そか。」


遠回しに『今行けばあの男がいる』と教えてくれただけだ。


つまり『行くな』という意味で。


大和は私と誠の常識外れた関係を否定しなかった。でもそれは終止符を打ったという前提があってこそだと思う。


教師だからか持って生まれた性分か、私が再度間違いをおかさないように見守ってくれているよう


きっと誠への気持ちは時間とともに消えていく。大和はそれまでの十分な盾で


ある意味、私にとって必要な人だ。


だけど…大和にとって私がそうだとは限らない。


「大和もよくお母さんのお手伝いしてたんでしょ。料理上手だもん。お母さん料理上手な人なんだね。」


「母親というより、ばあちゃんだな。母親は早くに死んでオレはばあちゃんと暮らしてたから。」


「そうなの…お父さんは仕事だしね。」


「父親とは住んでない。」


「え?」


「父親は存在しねーもんとしてオレは生きてきた。」


目線を上げることもなく淡々と答える大和に 私は返す言葉を失う。


…結構重い話じゃない?


三ヶ月限定のこの関係


分かっていた。下手にお互いを知る必要は無い。けれど冷めた横顔にフッと寂しくなる。


お前には関係ない…そう言われた気がして。


「…そうなんだ。」


変なの 実際関係ないのに。


「ああ。」


チラッと横顔に目を向けた時、


「そういやぶう子、明日の昼暇か?ま、暇に違いねーだろうけど。」


さっきの突き離す風とは打って変わり大和は素知らぬ顔で私と目を合わせた。


「高校に弁当持ってきてくれ。」


「え?」


「ミッション。お前はなんのために偽嫁してんだ?」


悪戯にニカっと歯を見せるニセダンナ様 私は頬をひきつらせる。


「うっかり弁当を忘れた愛するダンナにわざわざ届ける妻の役だ。」


「ちょ、本気?」


「本気も本気。で、そこでオレの嫁って教頭に紹介する。」


大和は随分と楽しそうで、


「そんなの上手くいくの…。」


「いくの?じゃねー。上手くする!今日だって帰り際、ヘタすりゃ押しかけて嫁がいるかどうか確かめそうな勢いだった。その前に先手を打つ。」


拳を握る大和に私は項垂れ、シンクにもたれた。


そうそう、本来はそれが目的で始まった二人での生活でした。いよいよミッションかー…。というか、


「ねー、そもそもそんなに今の高校にこだわる理由ってなんなの?」


この頃から大和のことを知りたいと思っていたんだと思う。


「今どの学校も教員不足でしょ。別に今のとこにこだわらなくても…。大和ならどこの高校も大歓迎だと思うけどな。」


大和が身を起こし私を見つめる。


「…話すとなげーんだけど。」


「ん?」


私は首を傾げ彼の言葉を待った。その時だった。


ピンポーン


「は?」


眉間にシワを寄せ玄関のほうに視線を送る大和


「マジで教頭が来たんじゃねーだろうな。」


慌てて腰に回したエプロンで手を拭く。それを制し、私こそエプロンを取り外した。


「多分宅配。洋服買ったの。」


「服?」


「ご心配なく。自分の貯金崩しましたから。」


「んなこと聞いてねー。」


ヒラヒラと手を振り私は玄関に向かう。ドアスコープを覗くと案の定ダンボールを抱えた男性が立っていた。


ガチャ


「宅配ですよね、ありがとうございます。」


「うおーー。ホントに居た。」


「え?」


「大和の彼女さんだよね?」


なにをどう確認したら良かったんだろう。抱えているダンボールはフタが開いていて、見えたのは夏野菜にお肉に…。


「あ、やっぱりこの前の彼女だ。」


「あ…。」


そして男性の背後からひょこっと顔を出した女性は、いつかパン屋さんで大和に声を掛けたあの人だ。


二人の瞳はキラキラと私を見つめ、口角はニコニコと…いや、ニヤニヤと上がっている。


二人は大和の友だち?少なからず女性のほうに大和はあまり


「ぶう子、どうした?」


接したくなかったような…。


リビングから大和がパタパタとやってくる


「は?勇太…!あ…」


二人を前に目を丸くした大和は案の定


「やーまと。来ちゃった。」


「…アカリ…。」


彼女を目にし息を飲んだ。



next

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