16.空の上で出会った素敵な天使へ
空の上でのお客様との出会い。私には、忘れられないお客様が一人います。
当時、夜9時頃に出発するアメリカ、サンフランシスコ行きの便がありました。
夜間フライトですから、ほとんどのお客様がお休みになります。
でも、リーディングライトをつけて、ずっと読書をしている外国人男性がいました。
フライト時間も長くなっているのに、一向にお休みになる様子もなく、
起きているのがその人だけになったので、話しかけてみたのです。
「お休みになれませんか?」
そんな質問が最初だったと思います。
「そうですね。明るいと周りに迷惑でしょうか?」
「いいえ、大丈夫です。何を読んでいらっしゃるのですか?」
「百人一首の英訳版です」
「まあ、そんな本があるんですね。日本の文化に興味をお持ちなんですか?」
「ええ、僕は今日本に住んで仕事をしていますから」
「そうですか?ではお里帰りですか?」
「はい、母が危篤との知らせを受けたので」
「まあ、・・・・・」
一瞬言葉を失いました。長いフライトがどれほどもどかしいことでしょう。
本を読むことで、気を紛らわせておられたのです。
ようやくシスコに到着という頃、その人がずっと読んでいた「百人一首の英訳版」を
マザーユウキに下さったのです。
裏表紙には彼の自作の短歌が。そして、
『雲の上で出会った素敵な天使へ ジョージ・C・マーシャルより』
と書かれていました。
横浜で貿易の仕事をしていると言っていたその人。
もちろんその後二度とお会いすることはありませんでしたが、
親が死ぬかも、死に目に会えないかもという悲しい状況の中で、
マザーユウキが声をかけさせてもらったことで、
少しは気持ちも紛れたのかもしれません。
飛行機に乗っているお客様が、決して楽しい旅行客ばかりではない
と肝に銘じた出来事でした。