あたらしいReviewが出ていたので久しぶりに記事を書きます。
Melinda S. Y. Tan, Yunxin Chen, Eric L. Smith; Beyond BCMA: newer immune targets in myeloma. Blood Adv 2024; 8 (16): 4433–4446. doi: https://doi.org/10.1182/bloodadvances.2023010856
これからの骨髄腫治療についてまとめられたもので、とても参考になります。
英語ですが、DeepLやChatGPTに放り込むとわかりやすく訳してくれますよ!
抗体薬(Mab)
日本で承認されているもの
抗CD38
-ダラツムマブ
-イサツキシマブ
抗SLUMF7
-エロツムマブ
2重/多重抗体(TCE: T-cell engagers)
日本で承認されているもの
抗BCMA/CD3
-エルラナタマブ
製造販売承認申請済み
抗BCMA/CD3
-テクリスタマブ(2024年5月22日申請)
治験中
抗GPRC5D
-タルケタマブ
-フォルムタミグ(日本での治験はまだ?)
抗FcRH5
-セボスタマブ
CAR-T
日本で承認されているもの
抗BCMA
-アベクマ
-カービクティ
治験中
抗BCMA: いっぱい
抗GPRC5D: 3つ
抗SLUMF7: 1つ
抗CD138: 1つ
開発中のターゲット
CD38
BCMA/GPRC5D
BCMA/CS1
CD38/CD19
CD229
インテグリンβ7
ILT7(Immunoglobulin-like transcript 7)
CEMA4A(Chemokine-like Factor 1, CLF1)
CCR10(ケモカイン CCL27 の受容体)
MUC1(ムチン)
CD46
CD56
CD74
...とまあ山ほどあり、
おまけにこれら主に骨髄腫細胞の表面にいるものだけでなく、細胞の中にいるタンパク質もターゲットにしようという研究も進んでいるようです。
個人的にはCAR-Tだけでなく、抗体薬の開発にももうちょっとリソースを割いて欲しいところ...。
論文ではさらに組み合わせての使用が奏効率を上げる、という話もまとめてあります。
例えばCS1-BCMAバイスペシフィックCAR-Tの第1相臨床試験では、100%の奏効。臨床試験に参加した16名のうち、13人がすでにBCMAの治療を受けていたと言うので、ちょっと驚きの数字です。
そしてさらに三重抗体
CDR101(BCMAxCD3xPD-L1): BCMA、CD3、およびPD-L1をターゲットにする三重特異性抗体です。BCMAは多発性骨髄腫細胞の標的、CD3はT細胞の活性化、PD-L1は免疫チェックポイントの調節に関与しています。この抗体は、がん細胞の攻撃を強化し、免疫逃避機構を克服することを目指しています。
ISB 2001(BCMAxCD38xCD3): BCMA、CD38、CD3を標的にする三重特異性抗体で、がん細胞の認識と攻撃を強化することを目的としています。
ISB 1442(CD38xCD47xCD3): CD38、CD47、CD3をターゲットにする三重特異性抗体です。CD38とCD47はがん細胞の生存や逃避機構に関与し、CD3はT細胞を活性化します。これにより、がん細胞の排除を促進し、免疫逃避を克服することが期待されています。
また、まだまだ研究段階ではあるけれど、同種CAR-T(他の人からT細胞をもらう)やCAR-NK(T細胞の代わりにNK細胞を使う)なども研究されているのだとか。
手練手管を尽くしてやってくれているな、という感じがあります。
でもこんなに色々出てきて、副作用も人それぞれで、お医者さんは大変でしょうね。
骨髄腫だけでなく、白血病やリンパ腫も同様に治療の開発が進んでいるので、眩暈がする情報量だと思います。
では、患者側は何をすればいいのか。
そこで一番響いたのが、
(2) preserve or enhance immune health such that patients can derive optimal benefit from subsequent LOTs.
と言う文章です。
「次の治療法から最大の利益を得られるように、免疫健康を保つことが重要です。」
CAR-Tだって二重抗体だって、結局は自分の細胞が近づいてきた骨髄腫細胞と戦ってやっつける力がないと効果がない。
そこで、重要となってくると考えられるのが、治療の順番です。
あくまでこれは、医療資源が潤沢で、病状も危機一髪ではない状態の話かなと思いますが...。(Mayo clinicのお医者さんが、治療にかかる金額をつぶやいていたことがあります...高いよね)
MonumenTAL-1試験というのがあります。
CAR-T -> CAR-T (ORR: 73.5%)
二重抗体 -> CAR-T (ORR: 47.1%)
同じBCMAを標的としていても、前治療がCAR-Tであるか抗体薬であるかで結果に違いが見られます。
この原因としてCAR-T治療後の無治療期間が功を奏したのではないか、と書かれています。
とはいえCAR-Tも体の中で抗体薬が作られているんだけど、やっぱり持続的なのと時々スパイクが入るのとは体への負担が違うのかなぁ。
わからないですけど。
とはいえCAR-Tは人数も限られてますし、現状投与まで時間がかかります。その点、抗体薬はもうものがそこにあるという変え難い利点があると思います。
どちらも開発が進んで、多発性骨髄腫の患者さんが少しでも長く素敵な時間を過ごせることを、心から願ってます。