「新くん・・・」
目の前には、新がいた。新が、立っていた。
「新くんの妹だったの?」
あたしは2人の顔を交互に見比べる。
言われてもわからないくらい彼等は似ていない。
「まさか大川がいるなんて思わなかったよ」
新も驚いているようで目を丸くする。
「あたしもビックリしちゃった。電話の声、わからなかったな」
「俺もわかんなかった」
「しりあい?」と目をパチパチさせるアカリちゃん。
「お兄ちゃんのお友達なんだ」
今まで見たことのない優しい顔で、新がアカリちゃんを抱きかかえた。
胸が苦しくなる。
夕日に染まる新は、世界で一番かっこよくて、世界でいい晩優しいお兄ちゃんなんだと思った。
「アカリ、勝手に抜けてきちゃダメだよ。帰ろうな」
新はアカリちゃんに優しくちゅういすると、あたしに「ありがとう」とお礼を言った。
それからくるりと体の向きを変え、2人で歩き出そうとした。
「待って」
まだ、一緒にいたいよ。
アカリちゃんを真ん中に挟み、あたしたちは3人で夕日に向かって歩いている。
アカりちゃんは一生懸命話し、新はそれを静かに聞いている。
優しい時間が流れる。
いつまでもこのままでいたい気持ちになるけど、現実はそうはさせてくれない。
楽しい時間はあっという間に過ぎるものだ。
新が足を止めたのは一軒家でもマンションでもなくて、可愛らしく飾りのされた四角い建物だった。
入口に小さな門のようなものが立ち、そこには文字の剥げた大きな表札がついている。
「ここは?」
「アカリのお家なの」
「え?」
思わず新を見てしまった。
だって、ここは保育園じゃなくて、
施設だよ。
新は黙ったままアカリちゃんを抱きかかえ、施設内に入っていく。
「アカリちゃ~ん」
中から出てきたのは、以前会った南先生だ。
あたしは軽く会釈して、中には入らず門の前で新を待った。
あたしが踏み込んでいい領域ではないと、そう感じたから。
“家庭の事情で学校に来ない”。彼がそう言われていたことを思い出す。
きっと、他人には触れられたくないことがあるだろう。
人の痛みを理解することはできないから。
あたしには、新の苦しみはわからなかったのかもしれない。
それでも
わかりたいと、
力になりたいと、
ひたすらにそう思った。