さて手術の当日を迎えました。朝方”なんとか午後イチで出来そうです
”と担当医が駆け込んできて言いました。不思議なもので、血液のガン
の治療のときのような切迫感がありません。第一、体調は元に戻り痛み
や苦しさを感じません。それに前日の説明を受けたときにも命に別条は
なく補助エンジンを心臓の上に付けるだけ手術であると聞いたこともあ
って、前回の生死が半々という悲壮感というか切迫した空気でないこと
も私を安心させ病棟でもなんとなく、のんびりした空気に包まれていま
した。ベテランらしい看護師が現れて”術後はしばらくトイレに行けま
せん。尿道に管を通して自動的に排尿することになります”と口上した
かと思ったらいきなりオチ0チンをむんずと掴んだかで管をうなだれ縮
こまったオチ0チンに差し込むじゃありませんか。ああも、すうもない
早業でした。まるでウナギのかば焼きのような感じでした。すると自分
の意思とは関係なく、おしっこが出てきました。このように着々と準備
が整ってまいります。すると、また担当医が駆け込んできて”少し遅れ
そうです”といって姿を消しました。1時間遅れで手術用のベッドに乗
せられて病室を出発。かみさんは手術室の手前で手を強く握って私だけ
が開かずのドアを通って大きなライトの下に着きました。エンジ色のユ
ニフォームの看護師が名乗りながらスマイルを投げかけてくれました。
担当医が”リラックスする薬を投与します”といってなにやら注射され
ましたら眠気とともに気持ち良くなってきました。そのうち焼け火箸が
胸に押し付けられるような、なにやら引っ張られるような激痛が襲った
かと思いましたら意識がなくなってしまいました。担当医の”終わりま
したよ”という声で目が覚めて看護師の”お疲れさまでした”というス
マイルにホッとして我に返りました。ドアが開きましたら、かみさんが
立っていました。また手を握ってくれました。前回は抗がん剤を病室で
投与するという治療でしたから、外科手術のようなメリハリがありませ
んでしたが今回はテレビドラマのようなシーンを味わいました。病棟の
ベッドに移ってペースメーカーを装着した左腕を固定して”左手は使わ
ないようにしてください”と言われました。
普段は何気なく使っている左手が急に使えないとなると不自由
ですねえ。翌日、オチ0チンから管をとられ開放感を味わうこ
とができました。 ぐっさんハイ
重病患者だと思い浮かべていましたら”ぐっさん、お迎えが一般病棟か
ら来ましたよ”と声がかかりました。いわれた通り別の車椅子に乗り換
えました。そうして同じフロアーの一般病棟に連れて行かれました。
一番、奥の窓際のベッドに着きそのまま横たわりました。かみさんが”
窓際でよかったわね、今回もツイてるわよ”と慰めの言葉を発しました
しばらくしてベッキー似の小柄な看護師が現れて”Iと申します、ぐっさ
んの担当です”と自己紹介をします。あたしも負けずに、”ぐっさんで
す。私はこの病院の常連です”と返しましたら”聞いたことがあります
”と意味深な言葉が返ってきました。あたしゃ、血液ガン の治療でH
先生と二人三脚で闘った、、”といいかかったところで、かみさんが怖
い顔をしましたので慌てて”これからお世話になります”とフツーの話
題に変えました。いつものように3点セット(脈、体温、血圧)のチェ
ックを受けながらぼんやりしていましたら、私を重篤患者にした担当医
のI先生が飛び込んできて”明日、手術を行います、いま手術をする時間
を調整しているところです、しばらくしたら、また知らせに来ます”と
一方的にまくし立てて消えました。女医も現れて”明日の手術でお手伝
いをするKと申します、よろしくお願いいたします”と、もう戦闘態勢
モードなんです。血液ガンの治療で駆け込んできたときには、七転八倒
の苦しみの最中にベッドが空いていないからと自宅待機となったのに今
回は少し胸の圧迫感があるにせよ、普通の生活には支障がないのにと狐
に包まれたような気持のなか事態は勝手にどんどん進行していきました。
さあ、また、しばらくここで厄介になるのかと思いました。入居した病
室には2人の先客がありました。入り口には昭和ヒト桁生まれのひと、
その奥には若い青年がいましたが部屋にはあまりいませんでした。一般
病棟は集中治療室に比べると看護師ものんびりしています。そりゃそう
ですよ。集中治療室にはいつどんな事態になってもおかしくない患者が
運び込まれて来るんですからね。スタッフだって緊張感が違うと思いま
す。夜勤の人数だって違いますよ。そんなことを思い浮かべていました
ら荒々しくベッドに横たわった青年が帰ってきました。
一番奥ばった病棟ですからテータイを持ったひとたちの外部と
の交信ぶりが聞こえてきます。”あたしがね、82て言うたら
看護師さんがびっくりしよんなった”とおばさんの声が聞こえ
ました。トイレに立った私もおばさんの顔を見てびっくりしま
した。 想像にお任せ。ぐっさんハイ
”ぐっさん脈拍が30どころか20台になったことが何回もありました
よ”との看護師のひと言は帰宅どころか無傷のままシャバには戻れない
という決定的なひと言でした。不安を割り勘にしたい私は友人に”あん
たならどうする”と問いましたら、”モタモタしないで、すっきりした
ほうがいいって奥さんも思っているよ”という返事が帰ってきました。
私もよくぞ今までやれダンスだプールだと、やりまくってなにも起こら
なかったという思いと、このままシャバに戻っても今までみたいに楽し
めないし、家族を心配させ続けることが果たしていいのかと熟慮した結
果、補助エンジン(ペースメーカー)を装着すべきだと決断し、朝イチ
で飛び込んで医師にそう伝えましたら医師は待ってましたとばかりに”
では明日にでも手術をしましょう”とオーム返しにいうじゃありません
か。あたしゃ、かなり深刻な状態であったとこを知りました。相変わら
ずトイレには看護師が車椅子を押しながらついてきます。気の弱い私は
ちびって出るものも出なくなってきましたが、かみさんが来て助かりま
した。手術することになり、看護師に”昼飯からはどんぶりメシにして”
とリクエストして前回のように体力を維持することにしました。部屋中
が訳の分からない機材に囲まれた部屋で過ごさねばならないかと思って
いましたら看護師が来て”午前中に一般病棟に移ります”といわれ別に
整理するようなものもありませんし気持ちのうえでも腹が決まりました
ので、ぼんやりと過ごしました。この病院の特徴のひとつですが診断に
関わった医師をはじめ関連の医師がが前夜から、次々に訪れて脈をとっ
たり問診をして患者の状態やこれからの治療についてテーマを共有して
合議しながら治療をすすめて、ひとりの医師が独断で先走ってしまうと
いう治療ミスはないと安心でしたね。それにしても集中治療室とは風情
とか色気なんかとはまったく縁のない世界なんですねえ。得体のしれな
いマシーンがずらりと並んで電気の差し込みなんかが一杯あって患者が
急変して非常事態に備えた特別な部屋であることがわかります。そんな
ところに連行されて事態の深刻さを思い知らされてしまいました。
集中治療室は24時間体制で患者の急変に備えるところで
対応する看護師も緊張感を感じました。 ぐっさんハイ