●年次有給休暇の簡易なまとめ | 尾沼社会保険労務士事務所

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時季指定権

従業員が有給消化する日を指定することです。年間で最低5日以上は従業員が指定した日に有給を与えなければなりません。

 

時季変更権

使用者は従業員の有給申請が業務の正常な運営を妨げる時には、原則として、有給の時季を変更することができます。

 

計画的付与

使用者は労使協定を締結することで、従業員の時季指定権の行使を妨げない範囲(年間で5日を超える部分の日数)について、有給消化させる時季を決めることができます。

 

比例付与

週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の従業員に対してはフルタイムの従業員の有給付与日数に比例した有給休暇を与えることになります。早見表がありますが、計算式は次のとおりです。

比例付与の計算式

<6ヶ月継続勤務のケース>

10日×週所定労働日数/5、2日(フルタイムの週所定労働日数)

 

時間単位年休

従業員の希望がある場合、労使協定を締結することで、年間で5日までを上限に時間単位で有給休暇を取得できます。

 

時季指定付与

【法改正(平成31年4月施行)】

使用者は年間で5日は有給消化させる時季を決めて従業員に与えなければなりません。ただし、従業員がすでに有給を5日以上消化している時、または、計画的付与で5日以上与えている場合は、時季指定付与を行う必要がありません。

 

 

新ルールに関するQ&A

Q1 年間5日間の有給消化をさせないとどうなりますか?

A1 1人あたり30万円の罰金が課されます。『働き方改革』の大きな柱の1つに「法令遵守の徹底」があります。労働基準法について言えば制定されてから70年が経過しましたが、国は、現在、国家予算を付けてまでこの法律の啓蒙活動を行っています。これは戦後これまでになかったことです。この周知徹底のあとは労働法制全般の扱いが厳しくなることが容易に予想されます。「知らなかった」は通用しなくなるでしょう。

Q2 「半日」単位で有給を付与した場合、その半日は有給消化の5日間にカウントしていいのでしょうか?

A2 半日単位の有給付与は5日間の有給消化にカウントして大丈夫です。この場合「0.5」日とカウントすることになります。

Q3 「時間」単位で有給を付与した場合、その時間は有給消化の5日間にカウントしていいのでしょうか?

A3 時間単位の有給付与は5日間の有給消化にカウントすることができません。40時間(=8時間×5日)の有給を付与したとしても5日間にカウントできないことになります。

Q4 フルタイムではないパートタイマーやアルバイトでも5日間の有給消化をさせないといけないのですか?

A4 有給休暇の比例付与により手持ちの有給休暇が10日未満であれば5日間の有給消化をさせる必要はありません。たとえば7日しか有給が付与されない場合は有給を消化させる義務は生じません。ただし有給休暇の時効は2年間であり、前年度の持越しとあわせ10日以上あるときは5日間の有給消化をさせないといけないことになります。前年度の持越しと合わせて10日以上あるケースでも5日間の有給消化をさせる必要がないことになります(令和2年11月24日一部訂正)。

Q5 「有給の買取り」により有給休暇を買取った場合、有給消化の5日間にカウントしていいのでしょうか?

A5 有給の買取りでは従業員に「休み」を実際に取らせてないので5日間の有給消化にカウントすることはできません。

Q6 当社では法定の有給休暇のほかに独自で「リフレッシュ休暇」という特別休暇を従業員に与えています。この特別休暇は、有給休暇に準ずる扱いで、有給と違うところは1年で権利が消滅してしまうことのみで、その他は有給とすべて同じです。なので従業員には先ず1年で消滅する特別休暇を消化させ次に2年で消滅する有給休暇を消化することを推奨してきました。この特別休暇は有給消化の5日間にカウントしていいのでしょうか?

A6 有給休暇に準ずる自社独自の特別休暇の消化は5日間の有給消化にカウントできない扱いになっています。特別休暇とは別に法定の有給休暇を5日間消化させないといけないことになります。

Q7 当社では有給休暇は病欠であっても事後申請は原則として認めず事前申請のみ認める扱いをしてます。

A7 事後申請であっても有給消化の5日間にカウントできるので有給を認めてあげてもいいのではないでしょうか。今の社会情勢は激変しており、一部の会社を除き、人手不足が非常に多くなっており、どこも人を集めることに必死になっています。「代わりはいくらでもいる」という認識のままで既存の従業員に厳しく接していると、むしろ従業員の離職が進む一方で新規の募集を掛けても人が集まらなくなる強い懸念があります。

Q8 台風などの天候により屋外での作業ができなくなり休みとせざるを得ない時に給与の補填として有給消化をさせることはできますか?

A8 天候を理由として休業するケースは2つに分けて考える必要があります。1つは屋外での作業が困難(≒危険)ではないケースで、もう1つは屋外での作業が困難なケースです。前者のケースでは「使用者の落ち度で休業した(つまり使用者側の職場提供義務の不履行により従業員側の反対給付である労働力提供義務も果たせなかった)扱いになる」ので、使用者は従業員に対して賃金に代わる「休業手当」を支払わなければなりません。つまり従業員に有給消化をさせる余地がありません。後者のケースでは「使用者の落ち度で休業した扱いにならない」ので、使用者は「休業手当」を支払う必要がありません。よって従業員が有給消化にあてる余地があることになります。

Q9 1人1人、入社日のちがう従業員の有給の発生と消化を管理することはとても煩雑です。たとえば毎年4月1日や5月1日に従業員全員を対象に一斉に有給を与えることはできないのですか?

A9 入社日のそれぞれちがう従業員に基準日を定めて一斉に有給を発生させることは可能です。もし有給休暇の一斉付与に切替えるのであれば、最初の年度には①各従業員の有給の付与日数が労働基準法の最低基準をクリアしてることと②4月1日入社と中途入社の従業員がいるのであれば付与日数に不公平感が生じないよう配慮が求められるでしょう。たとえば有給休暇を前倒して入社3ヶ月後に与える会社であれば、「4/1入社で7/1に有給が10日発生」したAさんと「11/1中途入社で翌年2/1に有給が10日発生」したBさんにそれぞれ翌年4/1一斉に有給休暇を11日新たに与えたとすると「Bさんの方が得してる」といったケースが考えられます。

Q10 5日間の有給消化は国への報告義務があるのですか?

A10 国への報告義務はありません。ただし『年次有給休暇管理簿』なるものを作成し3年間保存しなければならなくなりました。書式は自由であり『労働者名簿』や『賃金台帳』の余白に併記することも認められています。

Q11 当社には残業が多い従業員とそうでない従業員がいます。仕事ができる従業員にどうしても仕事が集中する傾向があり、本人と面談もして他の従業員に仕事を振るよう話してますがなかなか上手くいきません。また仕事が集中してる従業員は有給休暇を取りたがりません。悩ましいところです。

A11 年間5日間の有給消化の未達には1人あたり30万円の罰金が事業主に課されることをご本人に説明して理解してもらうしかありません。ただ、事業主さんご自身が解決しなければならない課題もあり、ご本人が有給消化しにくい事情もあると思います。根本的な解決ではありませんが他社のケースでは「第5土曜日」は有給を必ず取ると決めた従業員さんもいます。また、半日単位の有給消化なら「0.5」日とカウントできるので1日まるまる取るよりはご本人の仕事への影響も軽減できるのではないでしょうか。

Q12 管理監督者にも有給消化させないといけないのでしょうか?

A12 明確に経営者であると言えない限り、部長などの職位にある人でも年間5日間の有給消化は必要です。

 

 

※なお、年次有給休暇について法律上より詳しく専門的に知りたい方はこちらをご覧ください。

『紛争解決手続代理業務試験合格への手引き』尾沼昌明

【実践編12】年次有給休暇1/3

【実践編12】年次有給休暇2/3

【実践編12】年次有給休暇3/3

 

特定社会保険労務士 尾沼昌明

 

 

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