スパ☆太郎の日本一周!3000温泉の旅 -3ページ目

「温泉ワーケーション」の定義について考えた

温泉に入りながら仕事もこなす。

そんな「温泉ワーケーション」について発信しているが、

イメージ先行で、明確な定義が一般に定着しているわけではない。

そこで、私なりにあらためて定義しておきたい。

 

近年「ワーケーション」という言葉を、

さまざまなメディアで見聞きするようになった。

ご存じのとおり、ワーケーションとは、

英語のワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語である。

 

『デジタル大辞泉』では次のように定義している。

休暇中、特に旅行先でテレワークを行うこと。
 

なるほど、シンプルな説明である。

だが、「テレワークを行うこと」と限定するのには違和感を覚える。

もちろん、会社の制度の一環でワーケーションを行うのであれば、

ネット環境が整った場所でテレワークを行うことになるだろう。

だが、私のようなフリーランスだと、

あえてPCが使いにくい環境を求めてワーケーションに出かけることもある。

情報過多の日常から離れて思考する時間を確保するのに、

温泉地はうってつけだからである。

私の知り合いの経営者は、

スマホやPCの電源を切る時間をあえてつくって、

将来の戦略を練ったり、課題解決に取り組んだりするという。

ネットから距離を置き、非日常の環境に身を置くことも、

温泉地でのワーケーションのひとつの形ではないだろうか。

百科事典の『知恵蔵』では、このように定義している。

こちらのほうが私にはしっくりくる。

「ワーク」(仕事)と「バケーション」(休暇)を組み合わせた造語で、

会社員などが、休暇などで滞在している観光地や帰省先などで働くこと。

仕事と休暇を両立させる働き方として注目されている。
 

では、「温泉ワーケション」の定義はどうなるだろう。

上記の定義を踏まえれば、

「会社員などが、休暇などで滞在している温泉地などで働くこと」

ということになる。

ざっくりと説明するなら、これで十分かもしれないが

、私のイメージする温泉ワーケーションの定義と照らし合わせると、

こぼれ落ちているものが多い。

まず、「会社員」に限定する必要はない。

ワーケーションは、一般的に所属する会社に

それらの制度が整っている会社員を想定したコンセプトだが、

私のようなフリーランスや自営業者、

そして比較的自由のきく経営者や起業家、投資家なども

当然、ワーケーションの実践者になり得る。

現実には、会社員よりもしがらみの少ないフリーランスや経営者のほうが

ワーケーションは実行に移しやすい。

そういう意味では、ビジネスに関わる人すべてが、

温泉ワーケーションの対象となるだろう。

また、先の定義では「休暇などで滞在している温泉地などで働くこと」

としているが、字面だけを追うと、仕事がメインで、

温泉はおまけのような印象を受ける。

「仕事の息抜きに温泉に入る」というイメージだろうか。

だが、私のイメージする「温泉ワーケーション」は、

仕事と温泉は同等の扱いである。

むしろ目的によっては、仕事よりも温泉がメインになってもいいと考えている。

温泉ワーケーションでは、温泉をテコにして、

日常から離れた着想を得たり、

心身をリフレッシュさせることを目的とする。

その結果、仕事の生産性も上がる。

だから、温泉ワーケーションでは、レジャーを楽しむという側面より、

湯とじっくり向き合うイメージが強い。

言い方を換えれば、「湯治」である。

温泉地に長期間(少なくとも1週間以上)滞留して

特定の疾病の温泉療養を行う行為である。

日帰りや数泊で疲労回復の目的や物見遊山的に行う温泉旅行とは、

本来区別すべきである(Wikipediaより)
 

本来、温泉は現在のようなレジャーではなく、湯治の側面が強かった。

物見遊山の観光は一部にすぎず、

温泉地に長期間(少なくとも1週間以上)逗留して温泉療養を行うのが

おもな目的だった。

百姓や漁師など日頃、重労働で肉体を酷使している人たちは、

農閑期などに温泉地で心身を休めた。

しかも数週間、あるいは月単位で逗留するのが通例だった。

湯治に訪れた人にとって温泉といえば、

ひたすら湯と向き合うことによって、

心身を回復させ、英気を養う場であった。

湯治では、日がな一日温泉にただつかって休むこと、

それが主要な目的だったのである。

もちろん、ワーケションで温泉地に行くなら仕事も重要だ。

「温泉だけ入っていればいい」というわけにもいかない。

だが、仕事をしているとき以外は、

できるかぎり温泉で骨を休めることに時間を使いたい

(もちろん、温泉以外のレジャーを否定するものではない)。

温泉地という非日常の場で、非日常的な過ごし方を満喫できるのが、

温泉ワーケーションの魅力のひとつであると考えている。

温泉地に着いたら、湯とじっくり向き合う。

そのニュアンスを伝えためにも、あえて「湯治」という言葉を使いたい。

湯治である以上、期間的には連泊がふさわしい。

日帰りや一泊二日の滞在では、ほぼ移動で終わってしまう。

仕事と温泉、両方とも中途半端に終わるのであれば

ワーケーションをする意味がない。

「移動中も仕事ばかりで疲れて帰ってきただけ」ということになりかねない。

そういう意味では、温泉ワーケーションは連泊が最低条件となる。

理想は1週間以上、できれば3~4泊以上は滞在したい。

最後に付け加えておきたいのは、温泉ワーケーションを行う以上は、

「自律的」であることが重要だ。

Airbnb Japanの執行役員である長田英和氏は、

『ワーケーションの教科書』という著書の中で、

「ワーケーションの3つの特性」について述べている。

 

①場所的特性(非日常の場にあること)、

②時間的特性(勤務時間中に滞在すること)とともに、

③心理的特性(社員が自発的に選択すること)を挙げている。

とくに注目したいのが、③心理的特性である。

長田氏は次のように述べている。

企業によってはワーケーションを認める一方、行き先やコワーキングオフィスをあらかじめ指定して、その場所以外でのワーケションを認めないとする場合もあります。しかし、会社の命令でパリに出張したとしても休暇とは言えないように、会社に指定されたワーケーション先に行くことが、本人の自発的意思によるものではないならば、それは出張に類するものと考えるべきです。


自分の自由意思の働かないワーケーションには、

バケーション(余暇)の要素がほとんどない。

社員旅行が経営幹部の自己満足で終わってしまいがちなのと同様に、

ワーケーションも会社の自己満足のツールにすぎなくなってしまう。

自分自身の選択権がない状態で温泉地に行っても、

「やらされている感」はぬぐえず、

仕事も余暇も満足いくものとはならないだろう。

温泉ワーケーションでは、個人が自発的、

そして自律的に実践することが重要である。

ワーケーションの目的を踏まえて、自分と相性のよい温泉地を選ぶ。

それが担保されて初めて、

温泉ワーケーションはプラスの効果をもたらすのではないだろうか。

以上をまとめると、温泉ワーケーションの定義はこうなる。

「ビジネスに関わる人が、非日常の温泉地で、

自律的に連泊して仕事と湯治に励むこと」

まだ私自身、温泉ワーケーションのコンセプトについて

煮詰まっていない部分もあるが、

「温泉ワーケーションとは何か?」という問いに対する、

現時点での私の回答である。

 

「温泉ワーケーション」の原点は10年前の鳴子にあった

昨年、「ワーケーション」という言葉を盛んに聞くようになったとき、

私はこう思った。

「これって10年前から自分がしてきたことじゃないか!」

私はワーケーションという言葉が流行する前から、

温泉を楽しみながら同時に仕事をすること

(すなわち「温泉ワーケーション」)を実践してきた。

今回は、温泉ワーケーションの原点となった温泉宿の話をしよう。

 

初めて本格的な温泉ワーケーションを敢行した地は、

宮城県の鳴子温泉郷である。5つの温泉郷の中でも田園風景が広がり、

とりわけ静かな温泉地が川渡(かわたび)温泉がその舞台。

川渡温泉は「湯治」の文化が息づいた温泉地。

湯治とは、温泉地に長期間滞在して、

温泉療養を行う日本独自の温泉文化のこと。

温泉宿に滞在し、日頃の重労働で蓄積された疲れを癒していたという。

現代のように医学が発達していなかった時代は、

温泉が医療の役割の一部を果たしていた。

温泉に入浴したり、飲泉をしたりすることで、

心身の回復を図ってきたわけである。

江戸時代以降は農民や漁師など一般人の間でも

湯治が盛んに行われるようになり、

農閑期などに温泉地に滞在し、

日頃の重労働で蓄積された疲れを癒していたという。

農民や漁師だけではない。

天下を治めた徳川家康も熱海の温泉を愛し、

7日間におよぶ湯治をしていた。

 

豊臣秀吉も有馬温泉(兵庫県)を頻繁に湯治に訪れたという

記録が残っている。

鳴子温泉郷は近隣の農民のほか、

岩手や宮城の漁師などが定期的に通う湯治場としての歴史をもつ。

観光地化された鳴子温泉の中心地とは異なり、

川渡温泉はいまだに湯治客が多い、落ち着いた温泉地である。

そんな川渡温泉の宿に、私は1週間ほど滞在することを決めた。

当時はもちろん、「ワーケーション」という言葉も概念もなかった。

「大きな仕事が立て込んでいてしんどい。

大好きな温泉に何度もつかりながら仕事をすれば少しは捗るかもしれない。文豪と言われる小説家も昔は温泉宿にこもって執筆していたそうだし・・・」

正直にいえば、現実逃避をしたかったのかもしれない。

当時、私はすでにフリーランスとして独立し、

書籍の編集や執筆を生業としていた。

極端なことをいうと、パソコン1台あれば、どこでもオフィスになってしまう。

そのとき抱えていた編集・執筆の仕事は、丸ごと1冊分の分量。

通常であれば、集中しても2~3週間はかかる仕事である。

それが行き詰まっていたので、藁にもすがる思いだった。

「温泉ワーケーション」の舞台となったのは川渡温泉の高東旅館。

じつはそれ以前に2回宿泊している。

「長期間滞在して仕事をするなら高東旅館」と

瞬時にひらめいたのだ。

全国の温泉をめぐって、さまざまな湯治宿を訪れたが、

高東旅館ほど相性のよい湯治宿はなかったからだ。

 

20070922鳴子温泉 104を拡大表示

 

湯治宿は、おもに湯治をする人を受け入れる宿で、素泊まりが基本。

自炊できる設備があり、湯治客は自分で料理をしながら、

まさに暮らすように温泉地で過ごしていた。

高東旅館も自炊が基本。

炊事場や調理器具、食器も備わっている。

湯治宿では、基本的に食事も提供されず、サービスは最低限である。

そのため、宿泊料金も安い。

高東旅館は素泊まりで1泊4000円台から

(当時は自分で布団を持ち込んだので1泊2000円台後半だったはず。

また2食付きのプランもある)。

建物や畳敷きの部屋も悪くない。

部屋にこもって仕事をするには十分。

湯治宿の中には、相部屋が基本だったり、

ほとんどプライバシーのないところもあるが、立派な個室である。

 

20070922鳴子温泉 112を拡大表示

 

宿のまわりは田畑に囲まれ、温泉以外の娯楽はない。

当時はテレビもコイン式だったので観なかった。

仕事が捗ってしかたない環境だ。

仕事に疲れたら温泉が待っている。

川渡温泉の湯は、緑色に美しく輝く色が特徴で、

しっかりと硫化水素の香りもする。

存在感のある泉質であるにもかかわらず、温泉の成分が濃すぎず、

何度入っても湯あたりしにくいのがうれしい。温泉との相性も重要である。

2~3週間はかかる仕事量だったが、

驚いたことに滞在中の1週間で仕事を完了することができた。

家で仕事をしているときよりも、3倍は仕事の効率が高まった感覚である。

仕事で疲れて、集中力が途切れてきたり筆が進まなくなったりしたら、

温泉に入る。

1日に5回くらい温泉に入っていただろうか。

ワークとバケーション(温泉)の割合は7:3くらいだったと思う。

温泉に入るたびに、脳がリフレッシュされる悦び。

仕事に対する集中力も研ぎ澄まされていった。

 

1日1回、外に散歩にも出かけた。

青々とした田園風景を見ながら散歩をするだけで、

心身が癒やされる感覚を覚えたものだ。

湯治宿ならではの交流もある。

ある日、部屋に閉じこもって仕事をしていたら、

戸をノックする音が聞こえた。

 

ノックの主は隣の部屋で1カ月間、

湯治生活を送っているという常連のおばあさん。

「おかずをつくりすぎたから、一緒に食べよう」

どうやら見慣れない男が一日中、

部屋にこもっているのを心配してくれたようだ。
 
事情を話すと安心してくれて、

その日以来、毎晩のように一緒にご飯を食べるようになった。

祖母と同世代のおばあさんと一緒にとる食事は、

束の間の癒しの時間となった。

このような思いもよらぬ交流も湯治宿の魅力だ。

温泉宿でのワーケーション体験に味をしめた私は、

大きな仕事を集中して終わらせたいときは、

温泉地に長期滞在するようになった。

7~10日間ほど湯治宿に滞在し、温泉に入りながら仕事をする。

ちなみに、高東旅館には5回ほど逗留したが、

新規開拓をしたかったのと、Wi-Fi環境がなかったため、

しばらく足が遠のいていた。

だが、最近Wi-Fiも導入され、

さらにワーケーションが捗る環境になっているようだ。

 

昔から湯治は7日以上続けて行うと効果があるといわれている。

このような言葉がある。

「七日一回り、三回りを要す」

つまり、湯治は1週間を3回、21日という長期間にわたって

滞在するのが常識であった。

湯治は働かずにひたすら体を休めるのが目的ではあるが、

長期間にわたってバケーション(温泉)を楽しむという点においては、

温泉ワーケーションと共通している。

現在も湯治を習慣にしている人は、おもにお年寄りにかぎられる。

だが、せっかくの湯治文化がこのまま廃れていくのはもったないない。

ビジネスパーソンも温泉ワーケーションを通じて湯治を習慣にすれば、

心身を回復させることができるではないだろうか。

実際、一日に数回、温泉に浸かる生活を10日間も続けていると、

疲れていた体の各部位が本来の機能をだんだんと取り戻し、

それにつれて気力も充実してくるのを実感できる。

1泊2日の物見遊山の温泉旅行では効果がないとはいわないが、

温泉の本当の効能というのは、

1週間以上連続で入り続けてようやくあらわれるものだと思う。

湯治文化は、ライフスタイルの変化や

大型日帰り温泉施設の急増によってだんだんと廃れつつあるが、

ワーケーションによって再び脚光を浴びるのではないか。

私はそんな期待を抱いている。

 

新聞記事掲載

連載中の「しんぶん赤旗」に記事が掲載されました。

 

今回は北海道のトムラウシ温泉。

北海道のほぼ中央に位置する温泉地で、

百名山であるトムラウシ山の登山拠点です。

 

圧倒的な大自然と、森と川に包まれる露天風呂。

最高です。

冬も通年営業をしているので、

降り積もる雪の中、おこもりするのもおすすめ。

 

 

 

【卯の花温泉】夏の山形で「温泉ワーケーション」#後編

これまで訪ねてみたことのなかった

山形県南部の長井市に卯の花温泉。

私好みの温泉か半信半疑のまま向かいましたが、

予想以上にすばらしい源泉と施設でした。

 

今回訪ねたのは、卯の花温泉「はぎ乃湯」です。

正式には「はぎ苑」という複合施設のひとつを構成している温泉施設で、

はぎ苑には宿泊施設のほか、宴会場やレストラン、焼き肉店なども

敷地内に併設されており、冠婚葬祭などの食事会やイベントも

行われているようです。

 

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はぎ乃湯は宿泊者も利用しますが、

このエリアの日帰り入浴施設として

ひっきりなしに入浴客がやってきていました。

チェックインを済ませると、部屋へ案内されました。

はぎ苑の宿泊施設は、観光客向けの旅館(本館)と、

ビジネス客向けのアパートメントホテル(別館)の2つに分かれています。

私が宿泊したのは、ビジネス向けの「The H」。

「温泉付きビジネスアパートメントホテル」として

2020年4月にオープンしたそうです。

 

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短期・中期の出張のビジネス客をターゲットにしているようですが、

リフォームされた館内や部屋は、なかなかにキレイで、

全館Wi-Fiも飛んでいます。

今回は1LDKの部屋を予約しましたが、

38.5㎡の広々とした空間。

まるで一人暮らしの部屋に戻ってきたような雰囲気です。

 

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食器や調理器具はついていませんが、

キッチンや電子レンジもあるので、

使い方しだいでは湯治宿としても使えそうです。

ふとんではなく、ベッドなのもポイント高いです。

 

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宿泊料金は1泊1名6500円(シングルルームは6000円)。

1週間滞在だと5850円(5400円)となり、

2週間滞在だとさらに安くなります。朝食は500円で付けられます。

決して格安とはいえませんが、

ビジネスホテルに泊まるよりは、部屋が広くて、

しかも温泉に入り放題なので、温泉ワーケーションの拠点としても

十分に活用できそうです。

食事も不自由はしなさそうです。

徒歩5分の距離にはスーパーマーケットもありますし、

今回は散策できませんでしたが、探せば飲食店もありそうです。

敷地内にはオシャレなレストランも併設されているので、

そこで食事をとってもいいでしょう。

さて、肝心な温泉は、いわゆる中型の日帰り温泉施設といった感じですが、

木と石をふんだんに使った浴室と露天風呂は、

ゴージャス感もあり、なかなか居心地のよい空間です。

内湯は30人くらいがつかれそうな大きな湯船に

黄色に濁った源泉が満たされていました。

加温・循環ろ過・塩素消毒されているものの湯の個性は残っています。

泉質はナトリウム‐塩化物・炭酸水素塩泉。

露天風呂も20人くらいは入れそうなサイズ。

こちらも加温・循環ろ過・塩素消毒ありですが、

内湯よりも湯の輪郭がはっきりとしていて、かけ流しと言われたら、

そう信じてしまいそう。

大きな湯船のわりに、巧みな湯使いといえるでしょう。

 

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出典:卯の花温泉はぎ苑公式HP

 

ここまでであれば、よくある日帰り温泉という評価になりますが、

白眉は黒獅子を象った露天風呂。

3人くらいが浸かれるサイズ感の湯船は、

重さ30トンの御影石をくりぬいてつくった特注品だとか。

これまでいろいろな湯口を見てきましたが、

その個性は記憶に焼きつくレベル。

 

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出典:卯の花温泉はぎ苑公式HP

 

黒獅子の露天風呂は、42℃の源泉が100%かけ流し。

内湯と大露天風呂とはあきらかに違う、

湯の個性がイキイキと感じられます。

特徴的なのは草のような植物系の香り。

いわゆるモール泉の一種でしょう。

山形では東根温泉や寒河江温泉などでもモール泉が湧出していますが、

ここでもモール泉に出会えるとは思いませんでした。

湯船に身を預けていると、心地よい香りに包まれ、夢見心地となります。

泉温がぬるめだからか、東根や寒河江よりも、やわらかく、

やさしい印象をもちました。

控えめに言って、最高です。

湯上がりに部屋に帰って、PCでひと仕事をして、夜も温泉へ。

宿泊客は日帰り入浴が終わった夜の時間帯や早朝にも入浴できます。

日帰り入浴客がいないので、ほぼ独占浴。

黒獅子の露天風呂も思う存分楽しみました。

今回、私は1日しか滞在しませんでしたが、

温泉ワーケーションをするには適した施設という印象をもちました。

温泉の質はもちろん、Wi-Fi環境がばっちりのビジネス用途の部屋は、

ワーケーションをするうえでポイントが高いといえるでしょう。

どのエリアからも少しアクセスがよくないので、1泊だけでなく、

連泊して仕事と温泉にゆっくり専念するのが理想的です。

宿でもらった長井市の観光パンフレットを見ていたら、

長井市には、はぎ乃湯のほかにもうひとつ温泉施設があることを知りました。

その名も、長井あやめ温泉・ニューさくら湯。

小高い丘の上にある日帰り温泉施設です。

昭和のバブル時代、「ニュー〇〇」というネーミングが

大流行りしていたこともあり、どこかレトロな印象を受けますが、

なんと2020年7月にリニューアルオープンしたばかりとのこと。

2015年に機械の故障などの理由から休業していましたが、

経営者が代わって、再オープンにこぎつけたようです。

最初から「ニュー」がついていたのか、

リニューアルを機にに「ニュー」をつけたのかはわかりませんが、

「ニューさくら湯」というネーミングセンス、嫌いじゃありません。

 

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「おはようございます!」元気な番台の女性に迎えられ、浴室へ。

番台のスタッフの感じがいい温泉施設では、

湯に対する期待も自然と高まります。

湯船は岩づくりの湯船のみ。

4人くらいでいっぱいになるサイズ。

カランは3つほどありますが、シャワーのしずくが飛んでくるくらい、

コンパクトな空間です。

しかし、天井が高く、窓ガラスも大きめにとられているので、

圧迫感はありません。

源泉は茶褐色の濁り湯。

足先まで見えるので、透明度はそれなりにあります。

泉温13.7℃のナトリウム-硫酸塩・塩化物冷鉱泉のため沸かしていますが、

うれしいことに源泉かけ流しです。

ほぼ事前調査なしで訪れたので、意外な展開に心が躍りました。

冷鉱泉の場合、たいていは加温したうえに、

循環ろ過してしまうものですが、

かけ流しは新オーナーのこだわりなのかもしれません。

こういう湯に出会うと、いつも以上に温泉がありがたく、

満足度の高い湯浴みとなります。

ちなみに、2回には食事処もあり、山形ラーメンなどが食べられるそうです。

食事したばかりだったのでパスしましたが、

山形ラーメンは大好物なので、かなり心惹かれました。

次回の宿題としましょう。

              *  *  *

期待と不安が入り交じった中、長井市を訪れましたが、

すばらしい温泉に出会えました。

全国各地に、このような私がまだ知らない「空白の温泉地帯」が

存在することでしょう。

まだまだ温泉めぐりはやめられません。

 

【卯の花温泉】夏の山形で「温泉ワーケーション」#前編

源泉かけ流しの名湯が目白押しの山形県。

初めて訪れた山形県長井市で、

これまでノーマークだった温泉施設に立ち寄ったところ、

思いのほかすばらしい湯だったので、レポートします。

 

温泉が豊かな都道府県といえば、

「おんせん県」を名乗る大分県、草津温泉などの

圧倒的な名湯をもつ群馬県、

日本一の温泉地数を誇る北海道などのイメージが強いかもしれません。

しかし、私の中では山形県がトップレベルの温泉王国として

上位にランクインしています。

山形県で一般に名の知れた温泉地といえば、

スキーリゾートとして有名な「蔵王温泉」や

大正ロマンの街並みがインスタ映えする「銀山温泉」などでしょう。

もちろん、どちらもすばらしい温泉ですが、

これ以外にも山形には源泉自慢の温泉地がそろっています。

山形新幹線沿線(山側)には、蔵王温泉と銀山温泉のほかに、

小野川温泉、白布温泉、赤湯温泉、上山温泉、東根温泉、天童温泉、

肘折温泉、赤倉温泉、瀬見温泉などが存在します。

一方、日本海側(海側)には、湯野浜温泉、湯田川温泉、温海温泉などが

並びます。

どの温泉地も基本的に源泉かけ流しで、湯量も豊富。

派手さはないけれど、昔ながらの風情をもつ温泉街も少なくありません。

バリエーションも豊富です。

新高湯温泉、滑川温泉、姥湯温泉、広河原温泉(休業中)といった

秘湯系の宿もたくさんありますし、

センター系の日帰り施設の多くは源泉かけ流しで、湯そのものも個性的です。

たとえば、寒河江花咲か温泉「ゆ~チェリー」は、

外観はどこにでもありそうな個性のない大型施設ですが、

秘湯の宿顔負けの色が異なる3つの源泉を楽しめます。

個人的にも山形の温泉はお気に入りで何度も足を運んできましたが、

山形出身の妻と結婚してからはその頻度も増え、

妻の実家に行くたびに県内の温泉に立ち寄っています

(温泉目当てで結婚したわけではありません。念のため)。

山形県の温泉は、くまなく回ったつもりでいました。

しかし、今年になって空白地帯があることに気づきました。

山形県南部に位置する長井市です。

山形新幹線の最寄りは赤湯駅。赤湯温泉の西側に位置します。

長井市は「日本一周3016湯」の旅でも足を踏み入れませんでしたし、

その後の温泉めぐりでもまったくのノーマークでした。

長井市の存在に気づいたのは、取材で飯豊温泉を訪ねたからです。

飯豊温泉は新潟県と山形県の県境に湧く山のいで湯。

登山客などに人気の温泉です。

 

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取材を終えて新潟空港から帰路につく予定でしたが、

フライトの時刻が合わず、飯豊温泉の近辺で1泊することになりました。

そこで、地図を見ながら候補地を探していると、

山形県長井市の「卯の花温泉」の存在に気づきました。

 

公式HPはあるものの、「源泉100%」の記述のみで、

かけ流しかどうかは明言されていない。

しかも、ネット上のレポートも多くはなく、

「源泉かけ流しである」「循環ろ過している」という情報が錯綜し、

確信はもてませんでした。

しかし、長年の経験から、いい温泉とそうでない温泉を嗅ぎ分ける能力には、

少し自信があります。

「かけ流しの湯船はありそう。最悪、かけ流しと循環の併用式かも

しれないが、温泉の個性は失っていなさそう。行ってみる価値はある」。

そう判断し、予約を入れました。

なによりも未知の湯という点に興味を引かれました。

もしかしたら掘り出し物の温泉かもしれない。そんな期待もありました。

ただ、卯の花温泉がこれまで未湯だったのは、

隠れていたわけでも、意図して空白の地帯だったわけでもありません。

私が単にこれまで気づかずにいただけです。

卯の花温泉の立場になれば、

「こっちは前からここで営業している。そっちが気づかなかっただけでしょう!」

とツッコミを入れたくなるはずです。すみません・・・。

それにしても、山形の温泉に注目してきたつもりなのに、

どうしてこれまで卯の花温泉に気づかなかったのでしょうか。

おそらく長井市の場所に原因があると思います。

首都圏から長井市に鉄道で向かうには、

山形新幹線の赤湯駅で下車し、

フラワー長井線に乗り換える必要があります。

赤湯駅から長井駅は約40分、

東京駅からだと3時間半かかります。

アクセスは決して便利なほうではありません。
 

しかも、山形新幹線沿いには、

先ほども述べたように粒ぞろいの名湯がひかえています。

どこの温泉地を選ぶか、だいぶ迷うはずです。

ライバルがひしめくなかで、長井市まで足を延ばす人は、

よほど長井市に思い入れのある観光客に限られるでしょう。

しかも、赤湯駅で下車したら、まず赤湯温泉が候補に挙がるはずです。

私自身も、ほかのメジャーな温泉地に気をとられ、

長井市の温泉までは注意が向かなかったようです。

新潟県側からもアクセスはできますが、

峠道を越えなければいけませんし、

新潟側にも月岡温泉や五頭温泉郷など名湯がそろっています。

そうなると、わざわざ山を越えて、

長井市まで足を延ばすには強固な動機が必要になります。

そう考えると、長井市の温泉に行こうという人は、

おもに県内のマイクロツーリズムの観光客にかぎられそうです。

いずれにしても、これまで入浴したことのない温泉を訪ねる際は、

ワクワク感が止まりません。どんな温泉が待っているのだろうか・・・。

〈後編に続く〉