おのみち林芙美子記念館、尾道ちょうちん 山さき
【西国街道を行く】~尾道商店街物語、創業100年以上の店舗紹介~
林芙美子(1903 – 1951)は、多感な少女時代を尾道で過ごし、小説家としての感性を醸成しましたが、その傍らには尋常小学校や高等女学校時代の恩師の存在がありました。
九州から行商を営む両親に伴われ13歳で尾道にやって来た芙美子は2年遅れで第二尋常小学校(現土堂小学校)の5年に編入します。尋常小学校の恩師が小林正雄(故人)で芙美子の文才を当時から見出し、物心両面で彼女を支援しました。
昭和40年(1969)に整備された、「文学のこみち」(千光寺公園)には、尾道水道を見おろす大変眺めの良い場所に、林芙美子の代表作「放浪記」(小林正雄書)の一節が刻まれています。
放浪記 林芙美子
海が見えた。
海が見える。
五年振りに見る尾道の海はなつかしい。
汽車が尾道の海にさしかかると煤けた小さい町の屋根が提灯のように拡がってくる。
赤い千光寺の塔が見える。山は爽やかな若葉だ。
緑色の海、向こうにドックの赤い船が帆柱を空に突きさしている。
私は涙があふれてゐた。
小林正雄書
令和4年、小林正雄から幾人かの有縁の人の手を経て、肉筆の「放浪記」が尾道に里帰りしました。
海が見えた。海が見える。五年振りに見る尾道の海はなつかしい・・・尾道に住んだことのある人なら誰しもが感じる郷愁を綴った芙美子の名文の末尾に、「小林正雄書」と記されています。(本書は額装され、3月からおのみち林芙美子記念館(藤原唯恭代表・藤原茶鋪店主)で公開中です。)
おのみち林芙美子記念館は、林芙美子が尋常小学校から高等女学校にかけて2年半を過ごした宮地醤油店跡を改装し、林芙美子の直筆原稿や尾道時代の写真や作家時代に親交のあった川端康成からの書簡などを展示しています。また、芙美子親子が間借りして暮らした土蔵の二階部分は当時のまま保存、公開されています。
特に、芙美子の九州時代の記憶を綴った「九州の思ひ出」は、今まであまり知られていなかった芙美子の幼少期の履歴が記された貴重な資料として研究者の注目を集めています。
尾道ゆかりの文学者の書籍、資料の収集家であり、尾道学文庫代表・おのみち林芙美子顕彰会副会長の山口真一さんば、「民間施設でこれだけの林芙美子関連資料を展示しているのは他に例を見ないのでは」と話していました。 尾道学文庫寄稿文
令和4年3月から、尾道本通り商店街の玄関口の呼称が「おのみち芙美子通り」に改称され、趣のあるぼんぼりが夕方から午後9時まで点灯されています。
ぼんぼりを製作したのは、創業100年を超える提灯の老舗、「尾道ちょうちん山さき」の店主、山崎真(やまさきまこと・29才)さんです。山崎さんは尾道生まれ。東京の大学で美術を学び、都会での作家活動を経て22才で尾道に帰郷、家業の提灯屋さんを継ぎました。昨年の林芙美子の命日を偲ぶ催し「あじさいき」(毎年6月開催)では、尾道市立大学演劇部の学生とともに、林芙美子をイメージした商店街PR動画を制作するなど若い人を商店街に引き込む活動もしています。 動画リンク
2月に山崎さんを訪問した時には、おのみち芙美子通りのぼんぼりの製作の最中で、尾道市立大学の学生さんがお手伝いをしていました。
以下概要
あじさいき (2022年は6月26日(日)を予定)
尾道文化の発信と継承藤原茶舗(前編)
尾道本通り商店街、「藤原茶舗」は大正2年(1913)の創業。創業者は先々代藤原進さんで、茶道具などの細工職人であったが夫婦で相談し、お茶を商うこととしたそうである。
お店に伺うと、まず床の間に掛けられていた平田玉蘊(1787~1855)の「松上之鶴」に圧倒される。この作品は平成10年(1998年)尾道市立美術館での「平田玉蘊展」に出品され図録に収録されている。この「平田玉蘊展」は玉蘊の初の本格的な展覧会であり、評価を不動のものにした記念碑的な展覧会であった。忘れられていた女性画家平田玉蘊を、先代藤原秀夫さんは地元の画家として大切にしたいとの思いで、多くの作品を所持されていた。
現在の当主藤原唯恭さんも季節ごとに玉蘊作品を展示し、来訪者をもてなしておられる。
藤原茶舗の先々代藤原進さんは、「ひょうたん品評会」を主宰され、大正時代の尾道のひょうたん人気を牽引された。志賀直哉が尾道を舞台にした小説「清兵衛と瓢箪」(大正2年刊)は、尾道のひょうたん人気の中で生まれた小説と言える。店内には古く小ぶりだが味のある瓢箪が二つ陳列されている。そのひょうたんを見ていると、志賀直哉の「清兵衛と瓢箪」の世界が甦ってくるようである。
当主藤原唯恭さんは、幅広く尾道文化の継承に尽力されている。店舗近くに林芙美子が住んでいたとの縁で、林芙美子の顕彰を続けておられる。
茶舗では林芙美子を偲んで、「芙美子の茶」が販売されている。芙美子が夜遅くまで執筆をする際、眠気覚ましによくほうじ茶を飲んでいたことにちなみ「芙美子の茶」を販売することとしたとのこと。原稿用紙を模した洒落た包装用紙に、芙美子の名言が刻まれている。ほうじ茶以外には煎茶と玄米茶があり、3種類の品揃えである。
今では観光客に人気のスポット「林芙美子像」建立を先頭に立って推進してこられた。また、林芙美子旧居跡を「林芙美子記念館」とし、有志と力を合わせ長年運営するとともに、最近リニューアルしさらに記念館の魅力アップを図っている。林芙美子顕彰会会長として、林芙美子の魅力を息長く発信しつづけておられる。
今回の取材を通し、「藤原茶舗」は藤原家三代にわたり茶舗を拠点として、尾道の文化を深め、文化を継承する姿勢に貫かれていることを実感させていただいた訪問であった。
※編集部注 林芙美子記念館の紹介、平田玉蘊の生家や墓所を訪ねるブログを3月中旬頃に投稿予定です。
会社概要
藤原茶舗有限会社
所在地 広島県尾道市土堂1丁目1-13
TEL 0848-22-4815
FAX 0848-25-4815
営業時間 10:30〜19:00
定休日 木曜日
HP http://www.fujiwara-chaho.co.jp/
E-MAIL fujiwara.chaho@nifty.com
【 尾道造酢株式会社 後編 】
歴史ロマン・西国街道インタビュー
「創業100年を越える尾道本通り商店街のお店」
尾道本通り商店街は歴史ロマンあふれる西国街道です。
通りで創業100年を越える老舗を訪ね、瀬戸内の十字路と呼ばれる尾道の歴史と文化をご紹介いただく企画です。
第1回は「食」にスポットライトをあて、お話を伺いました。
2022年で創業440周年を迎える「尾道造酢」の歴史については、妙宣寺住職の加藤様に書いていただきました。
【 尾道造酢株式会社 前編 】をご参照ください。
通りに上げられている尾道造酢の文字を良く見ると、「道」と「造」のしんにょうの3つの点が「さんずい」に見えます。
一風変わったその書体は、中世より繁栄をもたらした尾道水道、そして井戸から湧き出る豊かなお水を大切にしているように感じられます。
昭和10年(1935)の写真を見ると、箱詰めの酢瓶が造酢場から馬車に積み込まれています。
北前船でお酢が出荷されていた頃は、工場の奥が海に面していたため船に直接積み込んでいました。
時代の変化に合わせて、次第に馬車や鉄道などを使った陸路の輸送が主流となりました。
1月。取材のため工場を訪れると、
旬の柑橘である橙を1年分この時期に搾るため、壁一面に大量の橙が並んでいました。
だいだいにはきっと幸せを感じる成分が入っているのでしょうか、自然と笑顔がこぼれます。
搾取された柑橘の香りが場内を満たして、商店街の通りまであふれる冬の風物詩。
橙の収穫がある2月上旬ごろまで楽しめます。
昭和20年代にはキューピーの依頼を受けて、マヨネーズの原料に使われる洋風のお酢を開発しました。
画期的な試みの末、それまで国内で造られていた米酢だけでなく、
大麦や果物を原料にした幅の広い商品が造られるようになり、今日までお酢業界の第一線を走り続けています。
尾道造酢の商品の中でも、原料にこだわって地域の特産品から造ったお酢と人気商品の3品を、
取締役の田中丸 善要様にご紹介いただきました。
「橙ぽん酢」
尾道特産のだいだいを、自社で搾った橙果汁を使用。
昔ながらの製法で作った、さっぱり風味の本格ぽん酢です。冬のお鍋と一緒にお召し上がりください。
価格:470円(税込) 容量:500㎖
「無花果酢いーと」
尾道特産の蓬莱柿というイチジクから作られたお酢を、飲みやすいようにビネガードリンクとして仕上げました。
水、炭酸水、牛乳などで3~5倍に薄めてお召し上がりください。
価格:650円(税込) 容量:300㎖
「そのまんま酢のもの」
食材にそのままかけるだけで、美味しい酢の物がいただけます。
その手軽さが現代の家庭で支持を得ている、尾道造酢1番の人気商品です。
価格:350円(税込) 容量:500㎖
お酢造りに適した温暖な気候と、良質な水に恵まれた尾道で、440年生きている酢酸菌は今日も静かに醸造しています。
尾道造酢の商品は[ おのなびショップ ]でお買い求めいただけます。