パラサイトの仕込み —美容整形— | 一松書院のブログ

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 映画「パラサイト」には、いろんな「仕込み」があるのはすでに周知のこと。

 これもその一つ。

 

 ギウが初めて家庭教師をするパク社長の邸宅を訪れる場面。壁には家族写真がかかっている。

 

 上のカットの前にアップでこの写真が映し出されている。


 

 朴社長が肩に手をかけているのが、ギウが英語の家庭教師をする長女ダヘなのだが、この映画でギウが実際に英語を教えているのは、下のこちらのダヘ。明らかに顔が違う。

 

 セットで使う写真の撮影にダヘ役のチョン・ジソのスケジュールが合わなかったので…などということはあり得ないので、ポン・ジュノ監督が、意図してチョン・ジソとは違う女性で写真を撮ったということだ。

 

 別人であっても、それもあり得ることなのである。

 2004年の修学能力試験で身代わり受験ではないかと嫌疑をかけられた受験生が11人いた。写真照合で顔が一致しない。別人である。慎重に調査が行われ、11人中10人が整形手術によって顔が変わっていたことが判明したという。12月3日付のハンギョレ新聞デジタル版が報じている。

 

 ダヘは写真添付の受験願書を出す前にすでに整形をしているので、身代わり受験を疑われることはない。

 

 韓国では、整形手術は早くから普及していた。美容整形に関する新聞記事は1950年代後半から出ている。

1956年8月26日付『京郷新聞』

 1950年代の記事でも、親が10代の子供のために手術をしてやっていたと書かれている。

 

 私がソウルにいた1980年代、美容整形は広く行われていた。整形手術についての感覚が日本社会とは全く違う。「私は鼻をやった」「目を二重にした」「顎を削った」と普通に話す韓国女性に、日本から来た人は、聞いてはいけないものを耳にしたかのように動揺していた。

 

 1991年の『毎日経済新聞』1月31日付紙面には、冬休みを利用して整形手術をする中高生が多いことを伝える記事が出ている。

 

 1994年7月29日のKBSニュースでは、高卒で就職する生徒たちが良い企業に行くために整形手術をしていることへの疑問を投げかけている。ただ、これは企業側が容姿を条件にすることを問題視しているのであって、整形手術そのものを否定するものではない。

 

 2011年公開の映画「サニー」には、こんな場面がある。この場面を見る韓国人観客は「あるある、これ!!」と思うのだろう。

 

 こうした美容整形に対する感覚は、朝鮮半島の南側の資本主義国韓国だけにとどまるものではない。

 

 下の写真は、1987年に延辺朝鮮族自治州の延吉で撮ったものである。延吉市内の「董昌林美容所」と看板のあるビルに、病院のマークと「朝鮮族美容整形研究所」という表示があった。

 韓国で美容整形が多いということが頭にあったので、これは!と思ってシャッターを切った写真である。

 まだ中国の朝鮮族が韓国と行き来をすることができなかった時期のことである。朝鮮族にも韓国と同じような美容整形への指向性があるのかな、と思わせるものだった。

 

 2002年に釜山で第14回アジア競技大会が開かれた。北朝鮮から「美女応援団」がやってきて話題になった。2002年10月4日の『国民日報』は次のような記事を書いている。

 290人余りで構成された朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の女性応援団が、釜山アジア大会のスーパースターとして連日話題になっている。 観衆は、北朝鮮チームの試合よりも北朝鮮応援団の動きに目を奪われ、彼女らがムードを一層高めていると大会関係者も大満足。 北朝鮮当局が、応援以外で関心を集めてイメージの向上をねらって送りこんできたのなら、大当りだ。
 大会関係者は、「北朝鮮応援団の約40%は本物の美人で、18-25歳の大学生や労働者芸術団員などが混ざっている」という。彼女たちの人気の秘訣は、美貌もあるが、整形してなくて濃い化粧などもほとんどないことだ。

 読み方次第だが、北朝鮮でも60%は「本物」ではないともとれる。

 

 2008年には連合通信が「北朝鮮全域で“美容整形”流行」という記事を配信している。

2008-09-30 「ハンギョレ電子版」
 深刻な食糧難に苦しむ北朝鮮でも女性の間で二重まぶた、アートメイク、顔のしわ伸ばし、そばかす消しなどの“美容整形”が流行していると、北朝鮮人権団体である「良き友たち」が30日、伝えた。
 「良き友たち」の北朝鮮情報誌の最新号は、北朝鮮女性が一般病院や個人の施術者から簡単な整形手術を受けており、これが都市・農村を問わず全国に広がっているとしている。情報誌は、「最近は高級中学(高校)を卒業した女子生徒までもが簡単な美容ツールを持って山間の農村を回って施術している」とし「病院でも、より積極的に美容整形を手がけている」と伝えている。

 どうも、朝鮮半島の文化圏と日本列島の文化圏では美容整形をめぐっては、非常に大きく感覚が異なるようだ。

 

 「パラサイト」のこの場面は、「美容整形」を皮肉ったり揶揄するというのはあるかもしれない。しかし、金持ちだから整形したというのは違う。貧乏でも整形はするのだから。


 なぜ別人の写った家族写真をアップにしたのか。考えられる一番の理由は、整形していない方が不自然だし、写真と実物が違うのはいかにもありそうだから。パク社長の一家はもとより、家政婦のムングァンも運転手も、寄生したギテクの一家も、「あら、顔が違う」なんてことは誰一人として言わない。これが自然なあり方ということである。