あの人
お父さんじゃありません
全然 知らない人です
となりの家に住む、西野さんの娘のひと言から、この奇妙な物語は深い闇の中へとおちていく…
西野さんは、ちょっと気味が悪い人だ。
いじわるなことを言ったかと思えば、笑顔で挨拶してきたり、会話のなかには笑いだってあるけれど、何かが違う…。ほんとは人づきあいが苦手なのか、隠しごとがあるのか、ココロをオープンにして仲良くなれるような雰囲気の人ではない。
越してきたばかりの高倉さん夫婦は、西野さんに、そんなもやもやした違和感を抱いている。
それなのに…高倉さんの奥さんは、どんどん西野さんに近づいていく。
ある日、西野さんの娘が駆けよってくる。
「あの人、お父さんじゃありません。全然、知らない人です」と…。
かつて、ご近所さんというのは、お砂糖を借りに行ったり、宅配便を預かってもらったり、回覧板をお届けしたり…生活のなかで、もっと身近で関わりがある存在だった。母の代わりに、近所のおばちゃんに怒られたりもした。
いつの頃からか、つきあいはなくなり…今となってはマンションのとなりに住む人の名前すら知らない…
寂しいような気もするけれど、それでいいのかもしれない。
高倉さんの夫は、6年前の一家失踪事件の真相を追っていた。元刑事の血が騒ぐのか、のめり込んでいく夫に、専業主婦である奥さんのココロには、小さな寂しさがちょこっとずつ積もって、その隙間が大きくなってしまっていたのかもしれない…(ほら、男の人って、そうゆうとこあるから。まだ修復できるうちに、ちゃんと気づいてあげなきゃいけないのに)。
人のココロは不安定でもろい。弱いところには、悪いものが憑きやすくできているものなのだ。
それにしても、西野さんの異様さは尋常ではない。現実ばなれしていて、狂ってる。
何者なのか…何がしたいのか…あの重い鉄扉の奥に広がる、まるで要塞かのような異空間は…グロテスクでさえある。
6年前の事件と、今、となりで、進行形で起こっているなにか良からぬこととが、少しずつつながっていく…けれど、すっきりと真実が明かされることはなく、真相はワタシたちの想像の域を超えることはない。
高倉さん夫婦の洗脳が、いつ解けていたのか…西野さんの娘には、ストックホルム症候群的な感情はなかったのか…このあと、彼女はふつうの人生を生きていけるのか…
不気味な西野さんの、にやけた顔がアタマに焼きついたまま、不穏な空気のなか幕をとじる、実に、クリーピーな黒沢ワールド。













































