先日、塾の会議のために

町田に行ったことは

前にも書きました。

 

その際、当地の

ディスクユニオンで

見つけたのが

こちらの盤です。

 

《ディドーとエネアス》ブリテン指揮盤

(英 BBC Worldwide Music:

 BBCB 8003-2、1999)

 

Britten the performer

というシリーズの第3巻で

ヘンリー・パーセルの歌劇

《ディドーとエネアス》全曲と

When Night Her Purple Veil Had Softy Spread

(夜、紫のベールがふわりと広がったとき)

という歌曲が収められています。

(上の訳はDeepLにやってもらいました)

 

 

後者の歌曲から先に書いとくと

〈2挺のヴァイオリンと通奏低音を伴う

バリトンのための世俗カンタータ〉

という副題がついており

ベンジャミン・ブリテンのピアノ

アルバーニ弦楽四重奏団のメンバー3人による伴奏で

ディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウが歌唱。

 

録音は1965年6月24日の

アルデバーグ音楽祭における

ライブ演奏の収録で

最後に拍手が入っています。

 

たいへん珍しい録音かと思いますが

作品自体は ZD.201 というふうに

疑作扱いになってまして

現在の作品目録からは

消えているようです。

 

 

《ディドーとエネアス》の方は

1959年9月29〜30日に

BBCのスタジオで

録音されたものです。

 

演奏は

パーセル・シンガーズと

イギリス・オペラ・グループ管弦楽団。

 

イギリス・オペラ・グループは

リンゼイ・ケンプ執筆の

本盤のライナーによれば

ブリテンが1950年に共同設立したそうで

1954年に同グループとともに

一度、上演しているようです。

 

本盤での編成は分かりません。

 

いかにも即成という感じの名前を持つ

パーセル・シンガーズの編成(人数)も

不詳というか

ライナーに書いてありません。

 

 

ソリストは

ディドー:クレア・ワトスン

エネアス:ピーター・ピアーズ

ベリンダ:ジャネット・シンクレア

第2の侍女:パトリシア・クラーク

女魔法使い:アルダ・マンディキアン

魔女:ジェーン・アリスター

魔女:ローズマリー・フィリップス

精霊:ジョン・ハヘシー

水夫:マイケル・ロネイン

 

エネアス役のピーター・ピアーズ

ベンジャミン・ブリテンの

生涯にわたるパートナーとして

よく知られているテノール歌手です。

 

精霊を歌う

ジョン・ハヘシー

(ジョン・ハヘッシーかも)は

こちらの記事によれば

 

 

ウェストミンスター主席聖歌隊員で

ブリテンが才能を見出したのだとか。

 

確かに少年の声のようですね。

 

 

精霊は現在でもしばしば

クリストファー・ホグウッド曰く

「伝統的に超自然的な連想を」与える

カウンターテナーが歌いますので

それはいいんですけど

すごいと思ったのは

水夫をボーイ・ソプラノが

歌っていること。

 

古楽器による演奏ではないのに

ホグウッド指揮盤の解釈が

ここに見られるわけで

これは楽譜校訂のアシストをした

音楽学者イモージェン・ホルストの見識か

それともブリテンの

作曲家としての感性なのか。

 

ちなみに

イモージェン・ホルストは

管弦楽組曲《惑星》で有名な

グスターヴ・ホルストの

娘だそうです。

 

 

あと

雷鳴の効果音が

明らかにサンダーシートを使って

挿入されています。

 

要するに

本盤の演出は

女魔法使いを演じるのが

男性歌手ではないことを除き

かなりホグウッド指揮盤寄り

ということです。

 

これにはびっくりでした。

 

 

楽譜は

上にも名前をあげたホルストとともに

ブリテンが校訂を加えたもので

チェンバロの通奏低音パートが

演者の即興に任せるのではなく

全て書き起こされているのだとか。

 

そのチェンバロを

本盤で担当しているのは

ジョージ・マルコムで

バロックのスタイルに従った

即興演奏ができる能力を

持ち合わせているはずですが

ブリテンの校訂譜に

忠実に従っているそうです。

 

音色的には明らかに

モダン・チェンバロだと

思われますから

それはそれで

妥当だったかもしれません。

 

 

以前、当ブログで

ルネ・ヤーコプス指揮盤

取り上げたことがあります。

 

その際、同盤のライナーに

ブリテンの言葉が引かれており

第2幕の最後で

女魔法使いと魔女たちが歌う

〈われらの魔法は功を奏した〉と

その後に続く〈森の踊り〉の音楽が

原譜には欠けていて

パーセルの他の楽曲から補った

ということが分かるけれど

ブリテンが何を使ったのか気になる

と書いております。

 

それが本盤で判明したというか

リンゼイ・ケンプがライナーで

ちゃんと書いてくれてるのですね。

 

それによれば

セミ・オペラ《インドの女王》のアリアと

1687年のウェルカム・ソングからの合唱

舞台劇《アンソニー・ラヴ卿》の

序曲から舞曲を流用している

とのことですけど

パーセルの作品リストを調べてみても

1687年のウェルカム・ソングに当たる曲が

見当たらないのですね。

 

これは困った。( ̄▽ ̄)

 

《インドの女王》のアリアというのは

女魔法使いの魔女たちの三重唱に

流用されているんですが

そこで歌う詞は何に由来するのか

まではライナーに書かれていません。

 

普通に考えれば

《インドの女王》での歌詞が

そのまま使われた

ということになりそうですけど

そんなことは可能なのか。

 

これも気になる。( ̄▽ ̄)

 

 

演奏は

古楽演奏の場合に比べると遅めですが

まあ仕方ないというか

今でもモダンの演奏であれば

よく聴かれるテンポなので

あまり気になりません。

 

それでも

第2幕第2場の

第2の女のアリアは

ちょっと遅すぎるかなあ。

 

ベリンダは

アリアのテンポも含めて

おおむね、いい感じ。

 

ディドーは

まあ普通でしょうか。

(「普通」ってなんだw)

 

録音は

やや音がこもり気味ですが

不愉快というほどではありません。

 

 

ブリテン指揮盤が

他の形態でも出ているのかどうか

あいにくと分かりませんけど

《ディドーとエネアス》演奏史に

関心のある向きにとっては

必聴の録音といえそうです。

 

ブリテンは

パーセルのセミ・オペラ

《妖精の女王》も指揮しており

その録音も出てます。

 

すでに入手済みですが

《妖精の女王》については

あまり詳しくないこともあり

今回ほどの驚きはないだろうな

と予想しながらも

今から聴くのが楽しみ。

 

 

 

●追記(翌日、23:06ごろの)

 

第2幕第2場で

女魔法使いと魔女たちが歌う

〈われらの魔法は功を奏した〉

というアリアの旋律は

《インドの女王》から流用したとして

歌詞は何に由来するのか

と上で書いています。

 

でも、よく考えたら

音楽は欠けていたかもしれませんが

歌詞自体は残っていたはずで

(でないと、音楽が欠けている

 とは判断できないはず)

その歌詞に合う旋律を借りてきた

ということかもしれません。

 

その点に思い当たったので

追記しておく次第です。

 

ただ、パーセルの場合

歌詞そのものの音律と旋律とが

非常に適切で合っている

とよく評されますので

借り物の旋律で合うのかしらん

と新たな疑問も湧くわけですけど。