今週のNHK FM《古楽の楽しみ》が
「ヘンリー・パーセル:
メアリー女王のための音楽」と題して
メアリー女王のために作曲した
様々な音楽を中心に
パーセルのその他の楽曲も
紹介していくものだということは
前回の記事にも書いたとおりです。
ところで最近
《メアリー女王のための葬送音楽》の
録音を探しているうちに
同じようなコンセプトのCDを
入手しました。
それがこちら。
Music for Queen Mary:
A Celebration of the Life and Death of Queen Mary
(米Sony Classical: SK-66243、1995.4.6)
サブタイトルは
ジャケ裏と小冊子の内扉に
書かれているものです。
リリース年月日は
タワーレコード・オンラインに拠りますが
2001年4月26日に
再リリースされたようです。
表紙が実にそっけなくて
演奏者名がどこにも表示されていないのは
ちょっと珍しいですね。
その演奏者は
ウェストミンスター寺院聖歌隊と
ニュー・ロンドン・コンソートで
オルガン、チェンバロ演奏と指揮が
オルガニストのマーティン・ニアリー。
ニュー・ロンドン・コンソートといえば
フィリップ・ピケットが創設者で
指揮も務めることが多いはずですが
本盤に限ってはピケットの名は
どこにも記されていません。
録音のロケーションは
女王の葬儀が行われた
というゆかりがある
ウェストミンスター寺院です。
録音日時は
小冊子内だと
1994年5月としか
記されていませんけど
ジャケ裏により詳しく
1994年5月2〜6日と7月19日
と記されています。
収録曲は以下の通り。
(トラック番号は省略)
ヘンリー・パーセル:
アンセム〈彼らの言いたる時、われ喜ぶ〉Z.19
アンセム〈イェルサレムよ、主をほめたたえよ〉Z.46
ジョン・ブロウ
頌歌〈海外においても太陽の如く〉
頌歌〈憂鬱な歳月は過ぎ去った〉
パーセル:
歌曲〈木立は緑を奪われて〉Z.444
メアリー女王の誕生日のためのオード
《今や輝かしき日は来たりぬ》 Z.332
メアリー女王の崩御を悼む哀歌
〈おお、オラニエ家神聖なる保護者〉Z.504
メアリー女王の崩御を悼む挽歌
〈無駄だ、レスビアよ〉Z.383
▶︎メアリー女王の葬送のための音楽集
トマス・トレット:女王の告別
ジェイムズ・ペイジブル:女王の告別
パーセル:行進曲 Z.860
トマス・モーリー
われは復活[よみがえり]なり、生命[いのち]なり
われ知る、私を贖[あがな]う者は活[い]く
我らは何をも携へて世に来らず
婦[をんな]の産む人は
人生のただなかで
パーセル
彼らの心の秘密を知り給う主よ Z.58c
カンツォーナ Z.860
トマス・モーリー
我また天より声ありて言ふを聞けり
パーセル作品番号
(ツィンマーマン番号)は
どこにも書いてありませんので
こちらで調べて補足しときました。
ブロウの曲は
メアリー女王のためというより
その夫であるウィリアムに向けての
頌歌[オード]だろうと思いますが
よく分かりません。
これは宿題ということで。(^^ゞ
こちらも
ソニークラシカルなのに
日本流通盤は出ていないようで
例によって DeepL を駆使し
ライナーを訳しました。
以下の記述は
そうして訳したのを
読んでのものです。
ところでなんと
本盤のライナーの解説を
執筆しているのは
ヴォクス・ルミニス演奏の
ジェローム・ルジュメが
その研究を参考にしたと書いている
ブルース・ウッドなのでした。
ジャケ裏に
今回の演奏に使用した
エディションのほとんどが
Novello 社の楽譜だと
記されている他
葬送音楽については
「ブルース・ウッド編」
と表示されています。
ウッドは後に
Novello 社から
『メアリー女王の葬儀のための音楽』
という校閲譜を出してるようですので
CDの解説とはいえ
図らずもルジュメの元ネタを
参照することができたわけでして
これにはびっくりでした。
そして
ヴォクス・ルミニス盤の記事で
パーセル作曲の式文
〈あなたはご存知です、主よ〉にだけ
トランペットによる伴奏が
加わっているのは
音楽学的にどうなの
というふうに
偉そうに書きましたけど
実は本盤の演奏でも
トランペット伴奏付きなのでした。
解説を読んでみると
どうやら当時の葬儀の現場でも
〈あなたはご存知です、主よ〉の際
トランペット伴奏が付いたようです。
ブルースは
続いてカンツォーナを演奏する
トランペット奏者の指を
温めるという意図も
あったのではないか
と書いていて
葬儀の当日はとても
寒かったらしいですから
腑に落ちると同時に
安直に皮肉るのは良くない
と反省させられたことでした。
また本盤では
トレットおよびページブルの〈女王の告別〉と
パーセルの行進曲が演奏される際の
ドラムの旋律が
考証に基づき
軍用ドラムを使い
歩兵が使う唯一のドラム・マーチである
オールド・イングリッシュ・マーチ
という古い行進曲を
演奏しているのだそうです。
ヴォクス・ルミニス盤でも
ウッドの校閲譜を使っている
(と思われる)わけですから
同じなんでしょうけど
ちょっと印象が異なりますね。
パーセルの行進曲にしても
各フレーズの切れ目が
ふわりとしておらず
エッジの効いた感じで
さっくりとしているのが印象的でした。
ひとつ気になったのは
ウッドはフラット・トランペットを
トロンボーンのような
スライドをつけたトランペット
と説明していることです。
フラット・トランペットと
スライド・トランペットは
別物だと思っていたので
ちょっと驚かされました。
前回の記事でリンクを貼った
「デニーのバロックトランペット紹介」にも
トロンボーンのように
パイプをスライドさせる
と書かれていますので
間違いないんでしょうけど
実際の演奏の様子を見てみたい
と思ったことでした。
前回の
映っていた楽器は
フラット・トランペットと
形状が異なっているような気もして
実に実に悩ましいです。
まあ、それはそれとして
こちらの盤でも
当時の葬儀の音楽が
当時のスタイルで聴けるわけで
おすすめです。
……といいたいところですが
残念ながら品切れ
ないし廃盤のようで
Amazon で中古なら
買えないこともないのですが
海外の業者が出品しているものは
ちょっとお値段が張るのですね。
自分は幸い
日本の業者が出品しているものを
買えたので納得できる価格でしたけど。
なお、ソプラノには
エマ・カークビーが参加しており
ヴィオラ奏者に
Chizuko Ishikawa
という日本人名が見られます。
記事をアップするまでに
漢字表記の調べが
つかなかったのは残念ですけど
ニュー・ロンドン・コンソートの
日本流通盤のどれかを見れば
判るのかしらん。
いずれにせよ
皆川達夫風にいえば
その点でも注目される1枚です。