以前、ヘンリー・パーセル作曲

《メアリー女王の葬送のための音楽》Z.860を

ジョン・エリオット・ガーディナーが

来日時に演奏した映像をアップした際に

こういうのを観ると今度は

トマス・モーリーの曲と合わせて

当時の葬送の音楽を再現した録音

というものがあれば視聴したい

と書きましたけど

検索してみたら

どんぴしゃりのCDを見つけました。

 

それがこちらです。

 

English Royal Funeral Music

: Purcell - Morley - Thomkins

ヴォクス・ルミニス《英国王室の葬送音楽》

(ベルギー Ricercar: RIC-332、2018.6.5)

 

リリース年月日は

タワーレコード・オンラインに

拠っています。

 

合唱はリオネル・ムニエ指揮

ヴォクス・ルミニスで

合奏はブノワ・ローラン指揮

リンガ・フランカ。

 

金管 flatt trumpet と太鼓 drum は

ジャン=フランソワ・マドゥーフ指揮

レ・トロンペット・デ・プレジール。

(喜びの、あるいは、快楽のトランペット

という意味です)

 

マドゥーフは

文藝別冊 バッハ』掲載の

神代修へのインタビューで

指孔なしナチュラル・トランペット奏者として

インタビュイーの那須田務が

言及していた演奏家です。

 

録音は2011年9月と翌年9月に

ベルギーのボーフェにある

バプティスト聖ヨハネ教会で

行なわれました。

 

 

収録内容が

タワーレコード・オンラインに

載っておらず

Amazon の曲目リストだと

英文表記なので

備忘も兼ねて邦題を

以下に記しておきます。

 

 

01. パーセル:わが祈りを聞きたまえ

 

▼メアリー女王の葬送のための音楽

02. ジェイムズ・ページブル:女王の告別

  トマス・トレット:女王の告別

03. パーセル:行進曲 Z.860

04. 第1葬送アンセム

   トマス・モーリー:私は復活なり、生命なり

   トマス・モーリー:われ知る、私を贖ふ者は活く

   トマス・モーリー:我らは何をも携へて世に来らず

05. 第2葬送アンセム

   トマス・モーリー:婦[をんな]の産む人は

   トマス・モーリー:人生のただなかで

   パーセル:あなたはご存知です、主よ Z.58b

06. パーセル:カンツォーナ Z.860

07. モーリー:我また天より声ありて言ふを聞けり

 

▼哀歌[ラメント]と悲歌[エレジー]

08. トマス・ウィールクス:死が私を奪った

09. トマス・トムキンス:この嘆かわしい時代に捧げる

                哀しみのパヴァーヌ

10. トムキンス:埋葬式文によるアンセム

11. パーセル:おお、神聖なる保護者 Z.504

12. パーセル:葬送式文によるアンセム(Z.27, 17a, 58c)

13. パーセル:主よ、われらの罪を

       思い出したもうことなかれ Z.50

 

2、3、6、9が

器楽演奏曲で

このうち9は

小型のチェンバロともいうべき

ヴァージナルによる独奏です。

 

トラック1、11、13の

オルガン伴奏が

鈴木優人だったので

びっくりでした。

 

 

以前の記事では

葬送音楽には基本的に

ルネサンス時代の作曲家

トマス・モーリーの曲が

使われたそうですけど

逸失した箇所があり

そこをパーセルが加筆したらしい。

と書きましたけど

モーリーの曲がどう使われたのか

逸失した箇所とはどこなのか

ということが分かりませんでした。

 

それが今回の録音で

葬送式で使われる

7つの定型文のうち

墓前で歌われる3つの式文の

最後のひとつが見つからなかった

ということが判って

すっきりした次第です。

 

 

ライナー(小冊子)の解説は

音楽学者でガンバ奏者の

ジェローム・ルジュメが執筆。

 

ルジュメは

リチェルカール・レーベルの

創設者でもあります。

 

そのルジュメの解説によれば

行列が宮殿から教会へ向かう時に

オーボエ・アンサンブルによる

2つの曲を演奏し

それに続いて教会に入る際

パーセルの行進曲が

演奏されたそうです。

 

トラック4の第1の葬送アンセムは

教会から墓地までの

途上で歌われる式文に基づいており

トラック5の第2の葬送アンセムが

墓前で歌われる式文になります。

 

第2の葬送アンセムの後に

パーセルのカンツォーナが演奏され

棺に土がかけられる時に

トラック7の式文が歌われる

という流れのようです。

 

その後にパーセルの行進曲が

再び演奏されたのかどうかは

ライナーには書いてありませんでした。

 

 

以上の通り

基本的にモーリーの曲が使われたので

宮廷作曲家であったパーセルは

以前、葬送式文用に作曲した

〈あなたはご存知です、主よ〉を

モーリーのスタイルに合わせて

書き換えて用いたのだとか。

 

にもかかわらず

本盤での演奏では

そのパーセル作曲の

〈あなたはご存知です、主よ〉にだけ

トランペットによる伴奏が

加わっています。

(他の式文は全て無伴奏)

 

これは音楽学的に

どうなんだろう

とか思ったり。( ̄▽ ̄)

 

 

パーセルの

その他の曲についてですけど

葬送式文によるアンセムついては

以前の記事にも書きましたが

パーセルが若い時に

作曲したものです。

 

冒頭の

〈わが祈りを聞きたまえ〉と

最後の〈主よ、われらの罪を

思い出したもうことなかれ〉も

若い頃の作品だそうです。

 

ちなみに

〈わが祈りを聞きたまえ〉

という邦題の曲は

Z.14 と Z.15 の2曲ありますけど

今回のは詩篇105の冒頭に基づく

Z.15 の方です。

 

なぜかライナーに

作品番号が添えられてませんが

パソコンでトラックリストを取得すると

Z.15 とついてきました。

 

Z.504は

葬儀には使われませんでしたが

王妃の死を歌った悲歌です。

 

 

行進曲とカンツォーナで

演奏されているトランペットは

ライナーによれば

flatt trumpet だそうですが

flatt trumpet とは何か。

 

と思って検索してみたら

以下のサイトに

この楽器について

写真入りで紹介されてました。

 

 

ナチュラル・トランペットと

バロック・トランペットについても

写真をアップされており

それだけでなく

音の違いが分かるように

動画付きで紹介されています。

 

これは実に実にありがたいですね。

 

 

長くなりましたので

その他の曲についての説明は

省略することにしますが

あとふたつだけ。

 

トムキンス作曲

埋葬式文によるアンセムは

第1葬送アンセム3曲に

棺に土をかける時のアンセムを加えた

全4曲が演奏されています。

 

またトラック9は

清教徒革命で処刑された

チャールズ1世の時代に

王室に仕えていたトムキンスが

王が処刑された後

クロムウェル政権下

教会オルガンが破壊される

という蛮行を見ることになり

それを踏まえて作曲されたものです。

 

 

それにしても

リチェルカーレ・レーベルのCDには

日本流通盤が出ているのもあるのに

本盤に関しては出てないようで

まことに残念なことです。

 

おかげさまで

原文ライナーを

DeepL に頼って

訳すはめになりました。

 

曲名はモーリーの曲のみ

文語訳聖書に拠り

パーセルの曲は

従来からの訳に

新共同訳の文言を

適当に混ぜ合わせています。

 

曲名になっている

式文のもともとの文については

出典となっている

旧約と新約をチェックしましたが

解説文の理解が適切かどうか

怪しいところもあるかもしれず。

 

誤認や誤解などがあった場合は

ご海容いただければ幸いです。

 

最後は言い訳になりましたが

以上、長文乱文深謝。m(_ _)m