マリア・ケオハネの歌う
ヘンデルのカンタータおよびアリアは
《なんという再会か、ああ神よ》HWV150
以外にも3曲あります。
DVD Joy & Sorrow に収録された
《ああ、なんと不公平》HWV230と
《宿命の時至り》HWV234
《時と悟りの勝利》HWV46a のアリア
〈選ばれし天の使者よ〉で
このうち HWV230 と HWV46a のアリアは
CD ―PURE― HANDEL にも収録されています。
さすがに
フェッランディーニによる偽作
と判明している曲を
ピュアと冠したCDに収めるのは
控えられたようで。( ̄▽ ̄)
これらのうち
聖母マリアに関わる
HWV230 と HWV234 も
別の演奏者による手持ちの邦盤で
日本語訳が読めることに
気づきました。
それがこちらの
《ヘンデル:マリアの涙
〜マリアン・カンタータ&アリア》です。
(ポリドール POCA-1077、1994.7.25)
原盤レーベルは独アルヒーフ。
歌うはスウェーデンのメゾソプラノ
ラインハルト・ゲーベル指揮
ムジカ・アンティクヮ・ケルンが
サポートしています。
HWV233の最終楽章のみ
合唱が加わりますが
合唱団名は
特に記されていません。
ただし合唱指揮は
クリストフ・シュペリングなので
(これはライナーを確認して
今回、初めて気づき
おおっ、と思ったりしましたがw)
シュペリングが1985年に創設した
コールス・ムジクス・ケルン
Chorus Musicus Köln の
メンバーかもしれません。
録音は
HWV233と234が
ドイチェラントラジオ放送局のホールで
1993年3月に行なわれ
HWV230と235が
ケルンのメランヒトン協会で
同年8月に行なわれました。
なお
アンネ・ソフィー・フォン・オッターは
アンネ・ゾフィーと表記されるのが
現在では一般的なようですけど
ここではCDの表記に従いました。
フォン・オッターは
バロック専門
というわけではありません。
ただ
ジョン・エリオット・ガーディナー指揮の
モンテヴェルディ《オルフェオ》
バッハ《マタイ受難曲》
《クリスマス・オラトリオ》や
トレヴァー・ピノックが指揮する
パーセル《ディドーとエアネス》に
参加しているので
聴いたことがあるはずですけど
特に意識して集めようと思うことは
ありませんでした。
今回の盤も
ローマ時代のヘンデルが作曲した
宗教曲にハマっていたとき
目にとまって購入したものです。
疑作や偽作といわれているものが
日本語の解説と歌詞対訳付きで
リリースされていると知って
慌てて買ったのでした。
独唱・合唱・器楽
いずれも優れた演奏で
フォン・オッターの歌は
ソロで聴くと
やっぱり引き立ってます。
解説と歌詞対訳は
ヘンデル専門の音楽学者
故・渡部惠一郎ですから
信頼性は申し分なく。
その解説では
HWV230 に関して
自筆譜が大英図書館にある
と書かれているので
疑作ではなさそうです。
疑作としている資料も
見た記憶があるんだけどなあ。
全4曲収録した全体の導入ともいうべき
《このお方は乙女たちの「女王」》HWV235 は
カルメル会修道会と関連のある曲で
以前、当ブログで取り上げた
アンドリュー・パロット指揮
収録されています。
渡部惠一郎の解説によれば
1987年にサザビーズの競売に付されて
発見されたそうで
パロットの録音は
ワールド・プレミアム
というやつだったのかもしれません。
1楽章分しかない短い曲なので
これがCDタイトルの
「アリア」にあたる曲でしょう。
3曲目に収録されている
《天にまします「聖母様」》HWV233 は
1703年にローマで地震があった時
ローマ周辺は被害に遭ったのに
ローマ自体は被害を免れたのを
マリアの庇護のおかげだとして
それを記念して1707年に初演されたものです。
以前、ヘンデルには
地震にちなんだ曲がある
と書いたことがありますけど
そのとき念頭にあったのが
《天にまします「聖母様」》
だったわけです。
もっとも今回の盤が
念頭にあったものかどうか
そこまでは覚えてませんけど。
ちなみに
2曲目に収録されている
疑作だと思っていた HWV230
《ああ、あまりにも不釣り合いな!》は
「戦乱に平和をもたらし給うよう
聖母マリアへの希求を願う」
(引用は渡部の解説から)
という内容の歌詞で
スペイン継承戦争を
背景としたものだそうです。
これなぞも
現代でも通用しそうですね。
フォン・オッターと同じ
スウェーデンの声楽家として
後輩にあたるケオハネも歌った4曲目
フェッランディーニ作
《マリアの涙》HWV234 は
十字架にかけられるイエスへの
悲しみを歌ったものです。
なお
ケオハネ盤を紹介した際
邦題を《宿命の時至り》としたのは
歌詞の冒頭を曲のタイトルとする
という慣例に基づくもので
ヘンデル関連のガイドブックだと
こちらの邦題で通用しているはずです。
歌詞の内容を踏まえ
《マリアの涙》とつけるのは
実は異例に属することで
ディスクの原題にもなく
本盤のみの通称かと思われます。
少しでも売れるように
買う人にアピールするようにと
ポリドール社内の担当者
ないし担当部署が
つけたものでしょうか。
どれだけ効果があったか
分かりませんけどね。( ̄▽ ̄)
曲自体は
ムジカ・アンティクヮ・ケルンの
シャープな演奏とも相まって
非常に劇的で盛り上がりのある
なかなかいい曲ではないかと
今回の盤で見直し(聴き直し)ました。
本盤は
ドイツ・グラモフォンから出た
フォン・オッターの11枚組BOXにも
収められていますので
もはや名盤
少なくとも定盤となった1枚
といえるでしょう。
ちなみに
なんでドイツ・グラモフォンが
アルヒーフ盤を出せるのかと思い
調べてみたところ
アルヒーフは
バッハ以前の音楽を収録するため
第2次大戦後
ドイツ・グラモフォンが設立したそうでで
なるほどそれでか
と腑に落ちた次第です。
備忘のために記しておく次第。