『文藝別冊 バッハ』掲載

「ジャンル別 3段階鑑賞法 声楽曲編」

(加藤拓未執筆)のお勧めディスクの

モダン楽器の演奏によるものは

オーソドックスな演奏として

ヘルムート・リリンク盤

それが物足りなく思われるなら

ペーター・シュライアー盤が

あげられていました。

 

そして、もう一点あげるなら

やはりカール・リヒター盤になる

と補足的にあげているのに

リヒター盤の解説字数が最も多い

ということは

第3部の記事で書いたとおりです。

 

そのリヒター盤を

先日、見つけたということも

すでに記事にしたとおりです。

 

《クリスマス・オラトリオ》の記事は

今回が最終回になりますから

最後はやはり

リヒター盤を聴いた感想で

締めることにしましょう。

 

《クリスマス・オラトリオ》リヒター盤

(ポリドール POCA-2013/5、1991.10.25)

 

こちらは

〈カール・リヒターの芸術〉

という総題でリリースされた

再発盤になりますが

自分が最初に買ったリヒター盤の

《マタイ》と《ロ短調》も

同じシリーズなので

ちょうど良いのです。

 

録音は1965年の

2月、3月、6月に

ミュンヘンで行われました。

 

演奏はもちろん

リヒター率いる

ミュンヘン・バッハ合唱団と

ミュンヘン・バッハ管弦楽団です。

 

 

本盤のソリストは

グンドゥラ・ヤノヴィッツ(S)

クリスタ・ルードヴィヒ(A)

フリッツ・ヴンダーリヒ(T)

フランツ・クラス(B)

といった面々で

他の《マタイ》などと異なります。

 

加藤拓未曰く

「当時のドイツ・オペラ界の

トップスターたち」にして

「重戦車級のソリストたち」が

務めているのだとか。

 

といっても、当方

オペラには疎いし関心も薄しで

オペラ・スターだといわれれば

なるほどそんな感じもしてきますし

ちょっと趣味に合わないかなあ

という気もしてきたり。( ̄▽ ̄)

 

 

それはそれとして

前にも述べたとおり

本盤は3枚組なんですけど

だからといってヨッフム盤のように

重厚長大というわけではなく

第2部のテンポが異様に遅いくらい。

 

Disc2とDisc3が

それぞれ51分と49分なのに

Disc1のみ1時間4分と

10分以上長いのは

端的にいって

第2部のテンポが遅いためです。

 

パストラル調だからといって

ここまでゆっくり目にしなくとも

良いのに、とか思っちゃいました。

 

 

その第2部を除けば

当時としては

早いテンポだったらしく

ライナーで礒山雅が

次のように書いています。

重々しく落ちついたバッハ、あるいは、穏やかでムード的なバッハを聴きなれていたわれわれに、この録音でリヒターがとったテンポが、極限まで速いものに感じられたのである。

磯山もその後に

続けて書いているとおり

古楽器演奏に慣れた耳からすると

「このテンポはもう、特別なものとは

思われなくなった」わけですが

それだけになおさら

第2部のテンポには

驚かされますね。

 

 

第1部と第3部で

高らかに鳴っていたトランペットが

最後も華を添えるわけですけど

リヒター盤の

トランペットのソリストは

モーリス・アンドレ。

 

バロックの

トランペット関連の曲を

よく吹いていて

名前だけは知っていたので

おおっ、とか思っちゃいました。

 

他の器楽のソリストや

通奏低音奏者も

ライナーに載ってますが

アンドレ以外は

知らない人ばかりなので

こちらでは省略します。

 

 

以下、タイトルの内容に入ります。

 

 

《クリスマス・オラトリオ》第6部

〈主よ、勝ち誇れる敵どもの息まくとき〉は

1月6日の顕現祭(公現祭)用として

1735年1月6日に初演されました。

 

顕現祭というのは

異邦の人々の前に

イエスが姿を見せたことを

記念する祝日のことらしく

幼子イエスのもとに来訪した

東方の三博士が

異邦の人々の代表

ということになるわけです。

 

 

星の導きでやってきた

と三博士に言われたヘロデ王は

三博士の訪問を利用して

イエスを亡きものにしようと企み

幼子を発見したら

自分に知らせるように、と言い

三博士を送り出します。

 

三博士がイエスにまみえた後

その夜の夢で

ヘロデ王のもとに帰るな

というお告げを得て

ヘロデ王には会わずに帰り

邪まな企ては避けられた

というマタイによる福音書の

第2章に書かれた内容に基づくのが

第6部となります。

 

 

第6部は全体が

失われたカンタータ

BWV248aの転用である

とされています。

 

おそらく歌詞だけ残っていて

第6部の曲調にぴったり合う

ということなんでしょう。

 

復元盤の録音はないものか

検索してみましたが

まだ出ていないようですね。

 

 

アリアはソプラノ独唱と

テノール独唱のみ。

 

礒山雅は

リヒター盤のライナーで

テノールのアリアは内容からして

アルトが歌うべきだが

初演時に歌手が得られなかったため

テノールに書き変えられたのだろう

と書いています。

 

でも、それだと

最終合唱前のレチタティーヴォで

各パートがソロで語り歌うこととは

矛盾するように思うんですけど

どうなんでしょうね。

 

最終合唱の前の

各パートのソロによる

レチタティーヴォは

合唱団から選抜されたものが歌った

と考えれば矛盾しませんけど

だとしたら初演時

合唱メンバーのアルトは誰も

ソロが任せられないくらい

へたっぴだった

ということなのかしら。( ̄▽ ̄)

 

 

最終合唱で歌われるコラールの旋律は

第1部の第5曲目でも使われていた

ハンス・レオ・ハスラー

〈わが心みだれさわぎ〉に基づく

〈血潮したたる主のみかしら〉と

同じものです。

 

これにはびっくり。

 

器楽伴奏によって

曲の雰囲気は変わってますし

歌詞も違ってますけど

第1部の時と同様に

《マタイ》を聴いている人なら

ハッとさせられるでしょう。

 

 

というわけで

動画をあげることにしますが

最後もやはり

ルドルフ・ルッツ指揮

スイス・バッハ財団のものです。

 

 

例によって

「動画を再生できません」

と出ますので

アドレスでもあげておきます。

 

 

ソリストは

お馴染みとなった福音史家の

ダニエル・ヨハンセン(T)の他

ルビー・ヒューズ(S)

アレクザンドラ・ラヴォール(A)

トビアス・ヴィッキー(B)

といった面々。

 

トビアス・ヴィッキーは

第4部に続いての起用になります。

 

 

バスの歌い手は

福音史家のレチタティーヴォに登場する

ヘロデ王の声も担当しますが

スイス・バッハ財団版では

合唱団の中に立って歌っており

当時もこうだったのかも

と偲ばせるものがありますね。

 

そして

今回、ソロのアリアがない

アルトも合唱団の中にいて

第10曲目(第63曲)の

各パートによるレチタティーヴォでは

ソリストは全員、合唱団の中で歌い

続けてコラールもそのまま

一緒に歌っています。

 

 

ところで

リヒター盤の

第6部・第10曲目では

当方の聴き間違いでなければ

レチタティーヴォが明らかに

合唱で処理されてました。

 

ちょっと気になるので

ガーディナー盤で確認してみたら

そちらはちゃんとソリスト4人で

歌い語られていました。

 

(ちなみに

 ガードナー盤のソプラノは

 ナンシー・アージェンタです)

 

ガーディナーはスタジオで

一気に録ったようですけど

リヒターは月を跨いでいますから

一部のソリストの都合がつかなかった

ということも考えられます。

 

だとしたら

都合がつかなかったのは

明らかにアルトの

クリスタ・ルードヴィヒ

ということになりますけど。

 

礒山雅が解説している

バッハの初演時と同じように

ソリストの都合がつかなかった

ということだったのだとしたら

それはそれで

偶然として面白い

とか思ったり。( ̄▽ ̄)

 

もっとも

リヒターの解釈かもしれませんし

実際のところはどうなのか

よく分かりませんけど。

 

 

というわけで

昨年の12月から続けてきた

《クリスマス・オラトリオ》を

各1部ずつ聴く試みは

今回で完結です。

 

長々とお付き合いいただき

ありがとうございました。m(_ _)m