エメーケ・バラートの歌う
ドビュッシー歌曲集を
ご紹介した際
サンドリーヌ・ピオーの
ドビュッシーをと比べると
聴いていてやや疲れるところがある
と書きました。
個人的に
バラートのベストは
ナタリー・シュトゥッツマン指揮の
ペルゴレージ
《スターバト・マーテル》だ
とも書きましたが
実をいえばピオーも
同じ曲を録音しています。
それがこちら。
(ナクソス・ジャパン
NYCX-10129、2020.3.13)
原盤レーベルは
フランスの Alpha で
そちらの規格品番は ARPHA 449、
リリース年月日は1日前の
2020年3月12日になります。
アルト・パートは
アメリカ出身のカウンターテナー
クリストファー・ロウリーで
クリストフ・ルセが指揮する
レ・タラン・リリクが
器楽演奏を務めています。
録音は2018年7月に
フランス北部に位置する
聖母被昇天教会で
行なわれました。
フランスのチェンバロ奏者
クリストフ・ルセは
1991年に古楽演奏団体
レ・タラン・リリクを創設し
指揮者としても
活躍するようになりました。
Wikipedia によれば
レ・タラン・リリクというのは
ジャン=フィリップ・ラモーの歌劇
《エベの祭典》の副題にちなみ
意味は「オペラの才人」
というのだとか。
それはともかく
実をいえば(こればっかw)
ルセは《スターバト・マーテル》を
2回、録音しておりまして
ピオーが参加したのは
2度目の録音となります。
その、ルセの1度目の録音が
こちらの盤です。
(ユニバーサル ミュージック
POCL-1900、1999.10.1)
原盤レーベルは
イギリスのデッカ Decca で
録音は1999年2月24〜26日に
パリにある
レバノンの聖母教会にて
行われました。
歌い手は
アメリカのリリック・ソプラノ
バーバラ・ボニーと
ドイツのカウンターテナー
アンドレアス・ショルでした。
今回、両方の録音を
聴き直してみたところ
新録音の方が断然にいい
と思った次第です。
那須田務が『古楽夜話』で
《スターバト・マーテル》の推奨盤として
ルセの再録音盤をあげていることは
以前にもご紹介したとおりです。
それでも
バラート&ジャルスキーの
演奏と比べると
ピオー&ロウリーの演奏には
ややスキがあるかも、とか
思ってしまいましたけど。
バラートの演奏を取るか
ピオーの演奏を取るかは
個人の趣味の範疇かと思います。
ただ今回
ボニー&ショル盤と
並べて聴いてみたんですけど
バラートとピオーの演奏はむしろ
演奏スタイルとしては
似ているところが
あるような気がしました。
ペルゴレージの
《スターバト・マーテル》は
のちに、作曲家であり
音楽理論家でもある
マルティーニ神父によって
まるでオペラ・ブッファのようだ
と批判されたことがあると
伝えられています。
たぶん
『音楽史』Storia delia musica
(1757〜1781)中の
記述だと思いますが
具体的に
どのような文脈で
どう書かれているのかは不詳。
正確な文章は分からないにせよ
喜歌劇のようだといわれたのが
ポイントです。
ボニー&ショルの演奏と
バラート&ジャルスキーの演奏および
ピオー&ロウリーの演奏を比べた場合
前者は教会音楽の範囲に収まるような
耽美性を強調しているように
思えるんですけど
後二者はそれに加えて
劇場オペラのダイナミックさ
とでもいうべきものが
加わっているような気がします。
美しいだけでなく激しい
とでもいいましょうか。
その激しさは
ヴィヴァルディの声楽作品にも
通ずるような激しさ
という印象を
受けてしまうんですね。
ペルゴレージはナポリ楽派で
ヴィヴァルディはヴェネツィア楽派
ということになってますから
両者の音楽背景というか
音楽的性格は異なるわけで
専門的に見た場合
おかしいかもしれませんけど
どうもそんな感じがしてならない。
で、今のところ自分の趣味は
ヴィヴァルディ的な激情性に
傾いているところがあって
だからバラート&ジャルスキーの演奏や
ピオー&ロウリーの演奏が
こちらの嗜好に合っているため
いいと思ってしまう。
それに対し
ボニー&ショルの演奏は
世間的には名盤なんだけど
今ひとつと感じてしまう。
そんなふうに考えています。
《スターバト・マーテル》の場合
いつのころからか
デュナーミク(ダイナミクス)や
キレの良いテンポを
強調するような演奏が
されるようになった
と直感しています。
それがいつ始まったのか
確認するのが大変そうなので
ここでは
そんな気がする
というだけに
とどめておきますけど。( ̄▽ ̄)
ただ
ルセの今回の2枚を聴くと
1999年から2018年の
約20年の間で
ペルゴレージへのアプローチに
変化があったのではないか
と思うんですけど
どうでしょう。
今回、偶然にも
2枚を聴き比べることになり
上記のような直感を得られたので
結果的にラッキーだったかなあ
と思っている次第です。