最近、続けて

モダンのオーケストラによる

ペルゴレージの

《スターバト・マーテル》を聴き

その口直しならぬ

耳直しというノリで

ナタリー・シュトゥッツマンが指揮し

バラート=ジャルスキーが歌う演奏

聴いたりすることが

よくあります。

 

もはや自分の中では

ペルゴレージ版《スターバト・マーテル》の

堂々たる定盤になっておりまして

ソフト化されることを

強く願っているんですが……。

 

 

既存のソフト(CD)では

エマ・カークビー盤

最初の録音がいいですね。

 

その時のカークビーの歌唱は

繊細で完璧だと思いますし

クリストファー・ホグウッド指揮

エンシェント室内管弦楽団の演奏も

リズミカルで重くならず

素晴らしい。

 

ただ

カウンターテナーが

今ひとつといったところで

それが惜しい。

 

ジャルスキーを擁した

シュトゥッツマン指揮の演奏に

そこで一歩譲る気がしています。

 

 

それはともかく

シュトゥッツマンは

コントラルト歌手としてデビューし

2009年に古楽アンサンブルの

オルフェオ55を結成して

自ら指揮して歌うようにも

なりました。

 

バラート=ジャルスキーが歌う

《スターバト・マーテル》も

そのオルフェオ55が

器楽演奏を務めていることは

以前にも書いた通りです。

 

そんなシュトゥッツマンが

指揮者としてではなく

コントラルト歌手として

《スターバト・マーテル》を

歌ったことがあると知れば

聴きたくなるのは当然で

それが今回ご案内の盤になります。

 

シュトゥッツマンのペルゴレージ(CD)

(BMGビクター BVCC-648、1993.11.21)

 

ソプラノ・パートを歌うのは

エリーザベト・ノルベルク=シュルツ

という人で

録音は1992年6月8~10日。

 

器楽演奏は

ロイ・グッドマンが

音楽監督を務めていた頃の

古楽器アンサンブル

ザ・ハノーヴァー・バンド。

 

グッドマンは指揮だけでなく

オルガンも担当しているので

いわゆる弾き振りというやつです。

 

 

シュトゥッツマンが歌っている

ということで

かなり期待して聴きましたけど

期待外れとまではいわないものの

やや肩透かしだったというのが

正直なところです。

 

シュトゥッツマンの声は

「暗く、立派な、

ほとんどバリトンを思わせる

とても深いアルトの声」だという

向こうの音楽誌の評が

ライナーに引かれてますけど

その声が耳慣れない

ということも

あるかもしれません。

 

それよりも大きいのは

ザ・ハノーヴァー・バンドの演奏が

オルフェオ55の演奏と比べると

テンポという点では今イチ

という印象を受けるという点。

 

リズミカルではなく

重い感じがする

とでもいいましょうか。

 

7~10曲目あたりまでは

さほどとも思いませんけど

第11曲目の二重唱が

非常に重い感じがする。

 

詩の内容からすれば

重くてもいいんでしょうけど

楽譜で指示されているテンポは

アレグロらしいですし

それをふまえてでしょうが

オルフェオ55の演奏だと

軽快な感じなんですよね。

 

 

あと

4曲目、10曲目の

コントラルトのソロで

シュトゥッツマンは

やや装飾的な歌い方をしています。

 

シュトゥッツマンが指揮した時の

ジャルスキーの歌唱とは違い

ファソリス盤のジャルスキーの歌唱に

近い感じがするんですよね。

 

シュトゥッツマンの指揮の時は

指揮者としての判断なのか

あるいは相談の上で

装飾的な歌い方を抑えるよう

申し合わせたのか、それとも

ジャルスキーが意識的に

抑えて歌ったのか、というのが

気になるところだったり。

 

 

カップリングの

《サルヴェ・レジーナ》は

タスキ(オビ)裏の説明によれば

「アルト歌手が歌うディスクはこれが初めてで、

 その意味でも注目の新録音」

とのことです。

 

ライナーの解説(佐々木節夫)によれば

ペルゴレージのアルト版が

極度に低い音域を持つこともあって

アルト歌手による録音は

それまでなかったのだとか。

 

今日では

カウンターテナー歌手の

レパートリーとして

演奏されることが

多いようです。

 

「暗く、立派な、

ほとんどバリトンを思わせる

とても深いアルトの声」だと

向こうの音楽誌に評された

シュトゥッツマンだけに

低音域も大丈夫

といったところでしょうか。

 

他に比べられるものがないので

(少なくとも手元にはありません)

これを定盤としていいかどうか

ちょっと判断がつきません。

 

 

ちなみに

日本語盤のライナーあるあるで

ザ・ハノーヴァー・バンドの編成が

どこにも書いてないんですけど

聴いた感じだと

リュートが加わってますね。

 

リュートが加わる編成は

《スターバト・マーテル》演奏史でも

かなり早い試みではないか

という気がしていますが

どうでしょう。

 

 

なお、シュトゥッツマンの歌唱は

のちに紙ジャケで

再リリースされました。

 

それがこちら。

 

シュトゥッツマンのスターバト・マーテル(CD)

(仏 BMG France: 82876 506162、2003.4.10)

 

再リリース盤には

ヴィヴァルディ作曲版の

《スターバト・マーテル》を併録。

 

ヴィヴァルティ版の器楽演奏は

ウラディーミル・スピヴァコフ指揮

モスクワ・ヴィルトゥオージ

(室内管弦楽団)で

録音は1989年4月24日です。

 

BMGビクターから

1991年1月21日にリリースされた

日本流通盤では

器楽曲の RV158、

565(《調和の霊感》の第11番)、

535とのカップリングでした。

 

 

モスクワ・ヴィルトオージは

モダン楽器のアンサンブル

だと思います。

 

ザ・ハノーヴァー・バンドとの

カップリングでも

違和感がないというあたり

むしろ逆に

ザ・ハノーヴァー・バンドの演奏の性格が

よく現れているような

そんな気がします。

 

もっとも

モスクワ・ヴィルトオージの

ヴィヴァルディ、

もう少し潑剌とした感じが欲しい

というのが正直なところ。

 

シュトゥッツマンは

叙情的に歌い上げていて

名唱だとは思うものの

どこかピンとこないところも

あったりします。

 

 

ヴィヴァルディの

《スターバト・マーテル》で

これぞ定盤という演奏に

まだ出会ってないというか

出会ってても忘れてるだけかも

という気がしてなりません。

 

アンドレアス・ショルや

ジャルスキーが歌う盤を

聴き直してみれば

定盤のイメージがつかめるかも

というのが

正直なところなのでした。

 

それぞれ

聴き直してみた感想は

いずれまた

機会がありましたら。