(集英社クリエイティブ、2021.1.30)
『ワカコ酒』を
買いに行ったとき
新刊の棚を見ていたら
目に入ってきました。
おお、田渕由美子の新刊か
と思って手に取ってオビを見たら
「田渕由美子 最後のコミックス!」
という惹句にびっくり。
もちろん
これで最後なのかと
驚いたのです。
田渕由美子は
陸奥A子と並ぶ
おとめちっくまんがの
代表選手でした。
自分の場合
陸奥A子とは違い
中学時代に接したわけではなく
たぶん大学に入ってから
誰かに教えられて
コミックスを(古本で)
揃えたのではなかったかしらん。
陸奥A子とは
線のタッチが違っていたので
最初は戸惑い気味だったものの
すぐさま引き込まれた次第。
その後は
新刊を見かけるたびに
買って読んでいましたね。
そういえば最近
コミックスの新刊を
見かけなくなっていたなあ
と思い至りましたが
まさか最後の作品集とは
思いもよらず。
しかも初出を見てみると
収録作品はいずれも
2002年から2003年にかけて
発表されたものばかり。
今まで本になってなかったのか
と驚いてしまいました。
表題作「地上の楽園」の主人公が
デリヘル嬢であるという設定は
おとめちっく時代を知ってるだけに
ちょっと衝撃的かも。
その一方で主人公が
イブニング娘のゴマチ似
という設定には
時代が感じられたり。
その一方で
勤めていた代理店がつぶれてしまい
フリーになった女性デザイナーが
大手広告会社を辞めた2人が社員の
弱小広告会社に職を得てから
最初の仕事に取り組む様子を描いた連作は
まったく時代色を感じさせず
もっと続けてほしかった気がします。
主人公を雇った2人が
大手を辞めた理由とか
2人の出会いなどを描けば
もう少し続けられるはず
と考えてしまって
惜しいと思わざるを得ません。
「三日目の月」から始まって
「六日目の月」に至るタイトルは
月が満ちていくことと
主人公の成長とが
重ね合わされている
と思われるだけに
なおさらです。
〈月〉シリーズで興味深いのは
主人公が煙草を吸っていることで
昔は女性が手にする煙草といえば
カッコよさの象徴であると同時に
世間の規範からズレた存在であることの
アイコンであることを
思い出したりしました。
今ではこういうアイコンが
許容されないでしょうから
その点については
時代を感じさせるかも。
上でふれた表題作と
〈月〉シリーズ四編を含め
全七編を収録。
他に、口絵として
雑誌『office YOU』の
2000年発行号に掲載された
カラーイラスト5点と
「デビュー前後のこと」と題する
あとがきを収録。
オビに書かれている作者の言葉は
あとがき本文とは別の言葉ですので
ご注意くださいまし。
余白ページには
おとめちっく時代のイラストが
カットとして使われているようです。
(179ページのカットに記憶あり)
昔からの読者は
感慨深いものを
感じるのではないでしょうか。
なお、カバー裏には
本書の内容紹介の代わりに
「読者代表」からの
著者宛のメッセージが
掲載されています。
担当編集者が書いたのか知らん。
おとめちっくまんが時代に描かれた
「あのころの風景」に
思いを馳せる「読者」は
ここに収められた作品を
どのように味わうのか
興味のあるところですね。