『みんなの怪盗ルパン』
(ポプラ社、2016年3月8日発行)

先に、こちらのブログで
『みんなの少年探偵団』(2014)という、
江戸川乱歩生誕120年記念して
現代作家によって書かれた
アンソロジーと
それに続くパスティーシュのシリーズを
紹介したことがあります。

そのとき、てっきり
芦原すなお『恐怖の緑魔帝王』(2015)で
終了かと思っていたのですが
最近になって
『みんなの少年探偵団2』という
新刊アンソロジーが出たことを
honto のおすすめメールで
知らされました。


おととい、出かけたついでに
ジュンク堂に寄って
新刊コーナーを見てみたら
その『みんなの少年探偵団2』の横に並んで
『みんなの怪盗ルパン』が
平積みになっており
びっくりさせられたのでした。

こういうものが出ることを
まったく知らなかっただけに。


ポプラ社ではかつて
南洋一郎によって訳された
怪盗ルパン・シリーズを
出していました。

自分が子どものころ
学校の図書室に
そのシリーズが揃っており
自分と同世代の人間なら
読んだり見たりしたことを
懐かしく思い出されるのでは
ないでしょうか。

あれは中学生のころだったか
自分の周りにも
ルパンに、今でいうキャラ萌えでしょう
ルパンさま命の女子がいましたし
もちろん自分も何冊か
読んでいます。


その当時の装幀そのままに
何冊か文庫化されたのも
そういう世代のノスタルジーを
くすぐる企画だったのでしょうし
それが好評だったので
那須正幹訳『ルパン最後の恋』を出す時も
昔の装幀を踏襲したのでしょう。

それでも
いくら『みんなの少年探偵団』シリーズが
当たったから(?)とはいえ
まさか『みんなの怪盗ルパン』まで出すとは
思いもよりませんでした。


ちなみに下が昔の装幀バージョン。

『ルパン危機一髪』
(ポプラ社、1980.3.30/1985.11.30. 第17刷)

表4(裏表紙)の
お城のデザインや大きさが
異なっていることを
ご確認いただけるかと。

たまたま手許にあって
すぐ出てきたのですが
『ルパン危機一髪』(1979)は
本国での刊行年からも分かる通り
モーリス・ルブランの原作を訳したのではなく
ボアロー、ナルスジャックの
贋作シリーズを訳したものです。

5つある贋作シリーズの内
これだけは大人向けの翻訳が出ていない
ということを教えられて
買っておいたのでした。


閑話休題。


子どもの頃に何冊か
南洋一郎訳のルパンを
読んではいるものの
これぞ南洋一郎調という
文体的な特徴までは
さすがに覚えてません。

それにまた
南洋一郎訳が
江戸川乱歩のように
読めばすぐに「これ」と分かるような
特徴的な文体だったとは
ちょっと思えませんし。

でも、だからこそなのか
それとも翻訳ものということもあってか
ルパン・シリーズのパスティーシュとして
それも子ども向けのパスティーシュとして
違和感なく楽しめました。


収録作の中には
子ども向けとは思えない
高度というか格調が高いというか
それなりの知識を必要とする
高級な内容のものもありました。

大人が読めば真相やオチの見当は
すぐにつくにしても
想定されている対象年齢の読者が読めば
そこそこ楽しめるのではないかと
思う次第です。


それというのも
アルセーヌ・ルパンが
乱歩の二十面相のように
現在の視点からすると
滑稽に見えるキャラクター
というふうには
書かれていないからでしょうね。

もともとが
奇怪な変装をする怪人ではなく
隆としたアドヴェンチャラーだからこそ
多少は古風かもしれないけれど
そこはかえってレトロな魅力となって
今の読み手にもアピールするのでは
ないでしょうか。


それに、滑稽にはしないことで
そこそこ社会性を盛り込めるのが
強味になっています。

その意味では
真山仁の書く「ルパンの正義」が
ジュブナイルとしては適度に硬派で
よくできた話だと思います。

山田風太郎の明治ものを
感じさせるところもありますし。


作品名は伏せますが
収録された中に一編
シャーロック・ホームズを登場させ
ホームズ・シリーズの
ある作品のパロディにも仕上げるという
愉快で凝った話があります。

これなんか
ホームズ好きな読者なら
ニヤニヤとするか
アッと思うだろうし
知らない読者でも
後にホームズのある作品を読んで
これだったのか! という
発見の喜びを味わえるでしょう。


あと、これも作品名は伏せますが
ルパンが明治の日本にやってきて
たまたま遭遇した事件の謎を解き
美少女の危機を救う
という話もあります。

すわ密室ものかと思ったものの
トリックよりむしろ
いろいろな小道具の使い方が
上手い話でした。


上記の作品だけでなく
その他の作品も
子ども向けとはいえ
かなり高等なパスティーシュ
ないしパロディになっていて
脱帽しました。

ホームズが出てくる話なんかは
シャーロキアン必読ではないか知らん。


今の子どもたちが
ルパン・シリーズを愛読しているのかどうか
詳しくは知りません。

もし愛読しているのだとすれば
詳しく読んでいればいるほど
ここはあの話につながるのかと
分かる単語が出てきて
楽しめるでしょう。

そういうところには
好感を持ちましたし
そういうノリは
大きいお友だちも
楽しめるのではないでしょうか。


オビに謳われている
「懐かしくて新しい、
極上の作品ぞろい」というのは
伊達ではありません。

昔、南洋一郎訳を楽しんだ人にこそ
おすすめできる1冊です。


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