『恐怖の緑魔帝王』
(ポプラ社、2015年3月7日発行)

昨年の11月9日にポプラ社から
『みんなの少年探偵団』という
書下しのアンソロジーが出ました。

江戸川乱歩生誕120年に合わせて
現代の子どもたちのために
(だと思うんですが)
新しく、現代の作家に
少年探偵団シリーズを書いてもらう
という企画でした。

その『みんなの少年探偵団』に参加したのは
万城目学、湊かなえ、小路幸也、
向井湘吾、藤谷治の5人。

そのあと、
藤谷治による長編
『全員少年探偵団』と
小路幸也による長編
『少年探偵』が出て
今回の『恐怖の緑魔帝王』で
みんなの少年探偵団シリーズ完結
ということらしいです。


芦原すなおは
『青春デンデケデケデケ』で
文藝賞と直木賞を受賞。
同作品は大林宣彦によって
映画化もされたのですが
自分は原作は読んでいないし
映画も観ていません。

ただ、ミステリを何作か書いていて
そちらの方は何作か読んでいます。

『ミミズクとオリーブ』のシリーズは
好きな連作のひとつです。

そのように
ミステリも書いている人なので
そこそこ期待して読んだのですが
うーん、ちょっと拍子抜け
というのが正直な感想です。


開巻から、少年探偵団員の
井上君と野呂君(ノロちゃん)が出てきて
全身緑色ずくめの老婆に脅されます。

来たね来たという感じでしたが
この恐怖の体験で
二人は少年探偵団を退団したくなる
というあたりから
微妙におかしな雰囲気になってきて
小林少年が出てきてからは
ほとんどギャグかと思うような
やりとりになっていきます。

続いて
富豪の湧水健太郎が所有する
雪舟の水墨画をいただくという
二十面相の予告が舞い込み
湧水氏が明智探偵事務所を訪ねた際の
小林君と湧水氏のやりとりは
まるで落語です。

ここらへんから
ああ、真面目に書く気はないんだな、
少なくとも乱歩の世界を
文体で再現する気はないんだな
ということが分かってきます。

それでも、花咲マユミという
明智夫人・文代の姪が出てきたときは
おおっ! と期待したのですが
どこかピンぼけのところが残っていて
明智夫人の文代なんて
原作の面影すらありません。


怪人二十面相以外に
新たな怪人として緑魔帝王が登場し
二十面相と犯罪を競い合う
というプロット自体は
面白いと思います。

そういうのは許容できるし
二十面相や緑魔帝王の
消失トリックのへなちょこさも
まあ、許容できます。

でも、小林少年のような
オリジナルのシリーズで
ヒーローだったキャラクターを
からかうような書きっぷりは
あまり好きにはなれません。

みんなの少年探偵団シリーズではなく
芦原すなおの単著として出たのなら
やれやれと呆れながらも
受け入れたと思うんですけど
乱歩の少年探偵シリーズを
模した装幀のシリーズでやられると
バカにされたような気になります。


みんなの少年探偵団シリーズでは
小路幸也の『少年探偵』も
かなり別物という感じでした。

『少年探偵』
(ポプラ社、2015年1月14日発行)

少年探偵団のテイストではなく
乱歩作品のテイストを再現しようとした
と考えるなら
それなりに受け入れられる
出来映えではないかと思います。

もっとも、これはこれで
読んだら怒る人がいそうですが(苦笑)
現代の子どもたちに向けて
かどうかはともかく
真面目に書いていることは分かるので
まだ許容できるのです。

ツイッターの方の感想では
山口譲司の『江戸川乱歩異人館』を思わせる
と書きましたが
京極夏彦の京極堂シリーズを
連想させるようなところもあります。


でもねえ……


実は、今年の1月頃
知り合いの息子さんが
少年探偵団シリーズにハマって
子ども向きに書いたものは
全部読んでしまい
大人向きにリライトしたものを
読んでみたいと言っている
ということを耳にしたので
現代の作家が書下ろしたのが出てますよ
とお教えしたことがあるんです。

その時はまだ
みんなの少年探偵団シリーズを
読んでなかったので
気楽に教えたんですけど
そのあと、読んでびっくり。

これは勧めるべきではなかったかなあ
と反省することしきりでした。


ちなみに
いちばんお勧めできるのは
藤谷治の『全員少年探偵団』です。

『全員少年探偵団』
(ポプラ社、2014年12月2日発行)

携帯電話なんかも出てきて
現代を舞台にしながら
往年の少年探偵団の雰囲気を
見事に甦らせています。

特に、二十面相のアジトで
事件に関係した少年が体験する
恐怖の部屋のディスプレイは
乱歩のオリジナルに対する
リスペクトが感じられて
個人的には大ウケでした。

伝統を受け継ぐというのは
こういうことではないかと
思うわけです。


海外では
シャーロック・ホームズの
パロディやパスティーシュが盛んで
その中には
ホームズをバカにしてるのか
と思わせるような作品もあります。

だから、芦原すなおのような方向は
ありといえばありなんです。

あえてそれらしいタイトルにして
読者の思い込みの
関節を外すことを狙った
大人向けの高度な文学的実験
なのかもしれませんしね。( ̄▽ ̄)

でも、だとしたら
上にも書いた通り
このパッケージで出なければなあと
思わずにはいられないのですよ。

その意味では、むしろ
ポプラ社編集部は
いったい何を考えているのか
というべきかもしれませんけど……

自分が保守的すぎるのかなあ。(´・ω・`)


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