柔道が足りてない! -9ページ目

柔道が足りてない!

昨今、柔道人口の減少が深刻みたいなので、皆様にちょっとでも興味を持って頂けるような柔道ネタなど書いて行ければと存じます。

先日、令和2年度の審判講習会(Web講習)を受講致しました。

前編と後編、合わせて2時間40分に及ぶ本編に加え、コンプライアンス講義、活法講義と盛りだくさんでしたが、動画の実例を交えた興味深い内容で一気に見終わりました。

現在、柔道の試合は一般的に、国際柔道連盟試合審判規定(IJFルール)に則って行われていますが、IJFルールは結構短いスパンで変更されるので、競技者にとっても最新のルールを熟知するのは意外と大変だったりします。

今回は、個人的に講習の中で新たに知った情報や、今まで誤った理解をしていたルールを挙げてみたいと思います。


返し技を施す際、先に自分の背中が着いた場合は技として認められない。ただし、相手の技を凌ぎ、そこから捨身技を施す場合は、先に背中が着いてもOK。

返し技なのか、相手の技を凌いだ後の捨身技なのか、見極めが難しいところですが、
・相手の技をそのままの勢いで返す場合には、自分の背中が先に着いてはダメ。
・相手の技を一旦凌いだ後であれば、背中が先に着いても捨身技として認められる。
という判断基準だと理解しました。

当時、一部で話題となった、ロンバルド選手が阿部選手の技を返したと思われたシーンは、ロンバルド選手が阿部選手の一本背負投を凌ぎ切れていなかった(ので、先に背中が着いたから無効)という判定だったと思われます。

 



いわゆる「シバロック」は、相手の腕に覆いかぶさっているので、抑え込みとして認められる。

シバロックは、以下の動画のような技。

 

一方、

上のようなケースは抑え込みと認められないと聞いていたのでシバロックもダメなのかと思っていましたが、シバロックの場合は相手の体の一部に覆いかぶさっており、抑え込みとして有効みたいです。


逆に「肩三角固め」や「船久保固め」は、そのままの形だと相手に覆いかぶさっていないので、NGと思われます。

 

(追記)補足ですが、判断基準は「体の一部でも相手に覆いかぶさっているかどうか」なので、「肩三角固め」や「船久保固め」でも、その条件を満たす形になっていれば抑え込みとして有効みたいです。世界柔道選手権ブダペスト大会でも、「船久保固め」は抑え込みとして認められていました。


肩三角固め

 

船久保固め



巴投で投げる気が無く、最初から腕ひしぎ十字固で取る事を前提とした「巴十字」は「指導」。

これも近年のルール変更により、立ち技での関節技が禁止となりました。
これに伴い、競技柔道から「腕返し」や「飛び十字」など魅力的な技術が失われ、個人的には残念な気持ちしか無いのですが、小生の嗜好に関係無くルールはルールなので、競技者としては従う必要があります。

飛び十字


このルール変更の流れで、腕ひしぎ十字固に入るために相手を前のめりさせる目的で掛ける(投げる気の無い)巴投も、「指導」の対象となりました。

フジテレビの特設サイトにも注目選手が挙がっていますが、個人的な注目選手を挙げてみたいと思います。なお、柔道普及の観点?から、キャラの立っている選手を優先的にチョイスしてます。


古賀玄暉選手(60kg級)
先日、若くして他界された古賀稔彦さんの次男。試合に集中するのは難しい状況と推察しますが、やはり頑張って欲しいです。

青木大選手(60kg級)
寝技を得意としていて、どのような内容で勝ち上がるか注目です。
青木選手の腕挫膝固(うでひしぎひざがため)からの抑え込み。柔術ではリバースオモプラータという技です。


橋本壮市選手(73kg級)
「橋本スペシャル」は見た目のインパクトも強烈。


佐々木健志選手(81kg級)
全日本選手権での大活躍が印象的で、否が応でも期待が高まります。

小川雄勢選手(100kg超級)
小川直也さんの長男。お父さんそっくり!

雄勢選手

直也さん


斉藤立選手(100kg超級)
故・斉藤仁さんの次男。お父さんそっくり!

立選手

仁さん



角田夏実選手(48kg級)
関節技のスペシャリスト。巴投からの十字固が必勝パターンです。

 

宇髙菜絵選手(57kg級)
大外刈職人。大ベテランですが、まだまだ頑張って欲しい。

 

舟久保遥香選手(57kg級)
いわゆる「腹包み」からの抑え込みは「船久保固め」と呼ばれ、話題になりました。

鍋倉那美選手(63kg級)
小学生の頃は阿部一二三選手をポンポン投げていたというエピソードが有名。

桑形萌花選手(70kg級)
高校生ながら皇后杯で攻め続けて三位入賞し、勢いに乗っている若手です。

富田若春選手(78kg超級)
皇后杯を制し、次は世界レベルでの活躍が期待される選手。

 

気付けば、全日本体重別の日程が今週末に迫っていました。

◆全柔連TV(Youtubeライブ配信)

2021/04/03(土)9:45~13:00
女子全階級(準決勝戦まで)
第1試合場(解説付):https://youtu.be/IExcRL19h0Y
第2試合場:https://youtu.be/nms4QiQ8U3k

2021/04/04(日)9:45~13:00
男子全階級(準決勝戦まで)
第1試合場(解説付):https://youtu.be/3lgNkJ84QcY
第2試合場:https://youtu.be/V27dJJtdlNo

 

 


◆BSフジ
https://www.fujitv.co.jp/sports/judo/japan/index.html

 

 

2021/04/03(土)13:00~14:30
女子全階級(決勝戦)

2021/04/04(日)13:00~14:30
男子全階級(決勝戦)
 

 

 
個人的な注目選手については、別途投稿致します。

古賀稔彦さん逝去のニュースは、あまりにも唐突で、個人的にも大きなショックでした。

古賀さんがバルセロナ五輪で金メダルを取った当時、小生も中学で柔道部に所属していましたので、その活躍は強く印象に残っています。

既に様々なメディアで古賀さんの柔道は語り尽くされ、今更感もありますが、追悼の意味も込めて古賀さんの柔道を改めて分析してみたいと思います。


古賀さんの柔道は、まさに必殺技ともいうべき一本背負投を軸とした、古賀さん独自のスタイルです。

一本背負投に入るには、まず引き手で相手を引き出すとともに体を回転させて相手に背を向ける形になり(体さばき)、相手の脇の下を釣り手の肘窩に挟み込んで背中に担ぐ、という動作が必要です。

古賀さんの組み手は、この一本背負投に入るためにカスタマイズされた組み手であると言って良いかと思います。

相四つ(右組vs右組)の場合、通常は引き手(左手)で相手の袖、釣り手(右手)で相手の襟を持つのが一般的ですが、古賀さんは引き手で相手の右脇の下(脇と大胸筋の境目付近)の道衣を掴む組み手でした。

この引き手の使い方は、古賀さんが所属していた講道学舎に伝わる技術のようで、現役では大野将平選手も同様の組み手を多用しています。

この組み手の利点として、まず相手に組み手を切られにくい点、そして奥襟を取られた場合であっても相手の脇下を突くことによって距離を取ることができる点を古賀さんは挙げています。

なぜ距離を取りたいのかと申しますと、一本背負投に入るための動作として「体を回転させて相手に背を向ける」必要がある旨に言及しましたが、この体さばきを行うための間合いを確保するためです。

次に釣り手の使い方ですが、釣り手は敢えて襟を持たず、相手に引き手を十分に取らせない状況を作っています。引き手を取られると、一本背負投に入るために体を回転させる動きを阻止されてしまうからです。

こうして、引き手で間合いを確保し、かつ体さばきを阻止するものが無い状況を作り出した瞬間に、得意の一本背負投に入ります。


バルセロナ五輪の準決勝、古賀さんは引き手で相手の釣り手の下から脇下を持つ組み手。下から持つことで、技に入る際に相手の釣り手を跳ね上げ、より大きく崩すことができます。

相手は引き手で古賀さんの右襟を持っていますが、持つ位置が低いため柔道衣に遊びがあり、古賀さんの体の回転を止めるには不十分です。




ケンカ四つ(右組vs左組)の場合も、相四つと若干組み手の形は異なりますが、やはり基本的な考え方としては、この状況を作り出すための組み手という事になります。

具体的な形としては、まず右手を使って相手の釣り手(左手)の袖を絞り、下方向に落としてしまいます。そうやって体さばきを妨げる相手の釣り手を殺した上で、引き手で相手の右前襟を持ち、一本背負投に入れる組み手の状況を作り上げます。



実際には一本背負投以外にも、上記の組み手から袖釣込腰、小内巻込、右方向への巴投、腰車など、多彩な技を持っていた古賀さんですが、その組み手スタイルの根底にあるのはやはり絶対的な一本背負投の威力だと考えられます。


余談ながら、古賀さんの一本背負投は、兄の元博さんが東京五輪中量級の金メダリスト岡野功先生から伝授された背負投を兄から習ったとの事で、世界を制する技術が受け継がれていた事に感動を覚えるとともに、古賀さんの技術も次世代に受け継がれていくものと確信しています。