葛飾北斎(葛飾北斎)の三女、葛飾応為(長澤まさみ)ことお栄を描いた歴史ドラマで、
明治時代に書かれた飯島虚心の「葛飾北斎伝」や杉浦日向子の歴史小説から、
謎の多いお栄の半生を再構築しています。
お栄が、南沢等明と離婚して北斎のもとに出戻ってから、
北斎の死までを描いていました。

お栄は、絵師の南沢等明と結婚していましたが、彼の絵が下手なことから離婚して父、北斎の元に戻ります。
お栄は、男勝りの性格でキセル煙草を好む粋人で、
Wikiによれば任侠風を好んで家事は苦手だったようです。
序盤でお栄は絵師の魚屋北渓こと初五郎(大谷亮平)に失恋し、
それ以降は北斎の家で
捨て犬を拾ったり、
仙人になれる漢方薬を買ってみたりしながら気ままな生活を送ります。

北斎がいつになく高価な食べ物をお栄に買ってこさせたら、
実はお栄の実力を認めた北斎が娘に応為の画号を与える記念だったというエピソードが素敵でした。
失恋の後、お栄は唯一その才能を尊敬する父・北斎の補助をして生きる決意をしたのではないかと感じました。
絵の才能にたけたお栄は、光と影を強調した自分本来の画風が当時の大衆に受け入れられないと察していたのかもしれません。
勝気な性格で謝る時でも強い口調になってしまうお栄ですが、
父の書きかけの絵にキセルの煙草をこぼしてしまった時だけは、
しおらしい態度をとります。
いつもは飄々と生きる彼女が我を忘れて泣きじゃくったのは、
父に自分のもとを離れて自由に生きろと言われたときでした。

長澤まさみは、時代劇で主演するのは初めてだそうですが、
コメディエンヌぶりと凛々しさをあわせ持つ個性が上手く生かされています。
永瀬正敏の北斎ぶりもはまっていて、
金や財産に左右されない父娘の粋な生き様が堪能できました。
北斎は90歳まで生きたそうで、当時としてはかなりの長寿だったのではないでしょうか。
映画では最後まで絵筆を離さなかった北斎の姿がドラマティックに描かれています。
Wikiによれば最後は老衰で床にあったようですし。
絶筆の「富士越龍図」は応為の代筆ではないかという説もあるようなので、
映画ならではの演出なのでしょう。

この映画では描かれていませんが、
北斎の作品には応為の代筆説のあるものが多く存在し、
特に80歳頃からの作品は大半がそうではないかと言われているようです。
シンドラーによる「ベートーヴェン捏造」ならぬ応為による「北斎捏造」があったのでは、
などと空想するのも楽しいです。
北斎の死後、応為も表舞台から姿を消し、
どこで過ごして没年がいつなのかは不明とのことでした。
大森立嗣監督作品は全部見ているわけではありませんが、
好きな作品とピンとこない作品が両極端だったりします。
今回はベストの作品でした。



