松居大悟監督は、気になる作品もいろいろあったのですが、
結局見逃し続けていて今回初めて見ることができました。
画面がスタンダードサイズの小品ですが、
なかなかの良作で、監督の旧作も見てみたくなりました。
原作は読んでいません。

ヒロインの由嘉里(杉崎花)は路上で酔いつぶれているところを、
キャバ嬢のライ(南琴奈)に拾われ、
そのままライのマンションに住みつきます。
由嘉里は腐女子のオタクで自己肯定感が持てずにいました。
彼女は現状打開にと婚活で合コンに参加するも嫌みな女に腐女子とばらされたこともあって失敗、
敗北感から飲みすぎてしまったようです。

ライはもうすぐこの世界から消えると言うことがあって、
由嘉里を心配させます。
普段はマイペースで生きていて、
”死にたがり”と感じさせることはありません。
ライは人と関わること自体は嫌いではないけれど、
それが深まりすぎて自分に干渉されてしまうことが苦手で、
結局居場所を変えてしまう、
有村架純が演じた「ちひろさん」(2022)にも共通点があるタイプなのではないかと思いました。
本作で毒舌だけど優しさのある作家を演じた蒼井優も、
「百万円と苦虫女」(2008)では百万円貯めるごとに生活をリセットして居場所を変えようと決意するヒロインを演じていました。
やがて由嘉里は、ホストのアサヒ(板垣李光人)、作家のユキ(蒼井優)、バーのマスター(渋川清彦)との交流を深め、
新たな世界を広げていきます。

由嘉里は、決して良く出来た人ではありません。
推しの擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」のことになると周りが見えなくなるし、
ライにのめり込んで元カレの家に乗り込んだり、
優しくされても継母を許すことができなかったりします。
見方によっては”大人になれない”タイプということになるかもしれません。
この作品の魅力は、そんな由嘉里を肯定して描き、
無理に自分を変えたりしなくてもいいんだ感じさせるところだと思いました。

舞台となるのは歌舞伎町ですが、
歌舞伎町の持つ猥雑感のようなものは、ほとんど感じさせません。
作品のキャッチコピーに「現代版”不思議の国のアリス”」とあるように、
現代のおとぎ話として作られた物語で、
リアリティを追求した作品ではないのでしょう。
杉咲花は、やっぱり演技が上手くて、
推しの擬人化焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」のこととなると思わず早口でまくし立ててしまう、ウザくて可愛いキャラを見事に演じ切っていました。
はるかに年下なのに時には由嘉里を包み込むような優しさを見せることがあるライを演じた南琴奈も魅力的です。
名前は憶えていなかったのですが、
「アイスクリームフィーバー」(2023)や「花まんま」(2025)でキーとなる役を演じていました。
次回作は「きさらぎ駅」(2022)シリーズの永江二朗監督のホラーで初主演ということなので期待が高まります。

いつも軽いノリで女性問題もいろいろありそうだけど、付き合いが良くて憎めない人気者のホストを演じた板垣李光人も、「ババンババンバンバンパイア」(2025)とはまた違った魅力を発揮していました。



