江戸川乱歩の短編「一人二役」の映画化で、
江戸川乱歩没後60周年記念作品として作られた3作のうちの1作です。
乱歩作品はすべて読んでいるのですが、
内容を忘れてしまっている作品も多く、
「一人二役」も憶えていなかったので読み返してみました。
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短編としても短めな作品で、
長めのショート・ショートと言ってもいいくらいです。
変装をテーマとしているものの夫婦間の奇妙な出来事を
ユーモラスな描写を含めて描く中間小説的な小品で、
探偵小説、幻想小説にこだわり続けた乱歩作品としては、
ある意味異色と言えるかもしれません。
乱歩自身、全集のあとがきで「もっと長く書けば面白い作品ができたのではないかと、われながら、もったいないように感じた」と記述しているので、
長編映画化には興味がつのりました。

今回は舞台挨拶付きの上映で鑑賞しました。
松田凌を始めとする出演者たちの作品に対する熱量が伝わってくるトークが楽しめました。
主人公は売れない役者・哲郎(松田凌)で不倫を繰り返していますが、
もっと刺激的な生き方が楽しみたいとうそぶきます。
哲郎のクズぶりが不倫だけでなく食べ散らかした残飯を流しにぶちまけるという生活習慣で表現されていて説得力がありました。

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原作通り付け髭だけで他人に成りすますのは映像として無理があるので、
俳優仲間の友人・悠介(岩男海史)を妻・晴(安野澄)に接近させるという展開に変更しています。
哲郎との仲が冷え切っていた晴は少しずつ悠介に惹かれていきまが、
いざとなったら哲郎は、晴が他の男に抱かれるのを我慢できません。。

哲郎は乱歩の「一人二役」の舞台版脚本を依頼されていて、
今回の行動を脚本に反映させようとしているいう二重構造も持っていました。
原作とは大幅に異なり、一人二役ではなく二人一役としてドラマが展開していきます。
目隠しをして感覚だけでセックスするというオリジナルのアイデアは、
乱歩らしい官能的な耽美感がありました。

哲郎は夫婦生活も仕事も破綻していき、狂気へと陥っていきます。
終盤の展開もブラックユーモア感に満ちていて
なかなか良く出来た脚本だと感心しました。
スタッフもキャストも、これまで意識したことのない方々だったのですが、
注目していたいと思います。

「3つのグノシエンヌ」のタイトルはエリック・サティの有名なピアノ曲に基づいていて、
主人公3人の確執を表しているのだと思います。
4人目の登場人物である哲郎の不倫相手・茉莉(まつり・前迫莉亜)も、どこか冷めた視線で事件を観察し続ける個性的なキャラクターとなっていて魅力を感じました。
途中、晴が哲郎のパソコンをのぞき込む描写があったので、
真相に気づいた晴が何か仕掛けるのかと期待したのですが、
これは残念ながら思い過ごしでした。

余談ですがサティのグノシエンヌは、佐伯日菜子が大槻ケンヂの作詞によるヴォーカル曲「冷たい月を抱く女」として唄っていたりします。


