映画感想 変幻のラブロマンス「九龍ジェネリックロマンス」(ネタバレあり) | 隅の老人の部屋

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アニメは観ましたが原作は読んでいません。
アニメ版は解体前の九龍を舞台にしたラブストーリーと思って見ていたら、
違うタイプのもう一人のヒロインが登場して、
メインで描かれるヒロインはニセモノ扱いだったり、
解体されて瓦礫の山となった九龍が登場したりと、
変幻でミステリアスな展開に魅了されました。

本作はどうかというと、
アニメで1クールかけて描いた物語を2時間弱にまとめなければならなかったため、
かなり駆け足で薄味な作品になってしまった印象です。
原作もアニメも知らずに見た場合、全体のストーリーが把握できるかどうかも分かりません。

ヒロインの鯨井令子(くじらいれいこ)は先輩の工藤発(くどうはじめ)とともに九龍にある不動産屋で働いています。
発からは微妙に距離を置かれていますが、
玲子はこの先輩が大好きです。

玲子は自分の部屋の痕跡から過去にもう一人の自分(仮称:鯨井B)がいたことを知り、
自分がニセモノと感じ始めます。
鯨井Bは逆に発の先輩でした。

アニメでは玲子と鯨井Bの声優を変えるという荒業で二人の違いを明確化したうえ、
発に仕事を教える鯨井Bの姿を描いて、
玲子が二人存在することが分かりやすくなっていました。
本作では二人の違いがピアスの有無だけで描かれていて、
時間の都合からか発と鯨井Bの仕事ぶりもほとんど描かれません。
発に対して立場の違う二人の仕事ぶりが描かれていたら、
吉岡里帆の演技力が発揮できたと思うので残念です。

さらに大企業蛇沼グループの社長・蛇沼みゆきをはじめとする様々な人物が絡んでいきますが、
こちらも時間の都合でサクサクと謎が明かされ、
ミステリアスな面白さが希薄になっていました。

良かった部分もあって、アニメでは鯨井Bの唐突な死がどうも理解できなかったのですが、
映画では玲子と幻の鯨井Bの会話によって多少推察できるようになっています。
作者の思いとあっているかどうか分かりませんが、
パトリス・ルコント監督が「髪結いの亭主」(1990)で描いたヒロインのような心情だったのではないかと推測しました。
ラストの雪も正常な時間に戻ったことが実感できて良い演出と思います。

小黒(シャオヘイ)は幻想の九龍が誰の思いで出来ているかのヒントとなることもあって、
印象的なキャラクターですが、
映画では小さな役に変更され、リアルの小黒も違うキャラになっていて残念でした。

ラストの展開も玲子側から描かれていたアニメに対し、
映画は発の側で描いています。
慟哭する発の姿で感動を呼ぼうとしたのかもしれませんが、
あざとさが感じられてしまい失敗しています。
消失も覚悟して踏みだす玲子と、
駆け寄って抱き合う友人・楊明(ヨウメイ)の姿のほうが
はるかに感動的で素敵でした。

 

 

アニメも映画もストーリー的にはきちんと完結しているように感じたのですが、
原作はまだ続いているようなので、
どんな展開になっているのか気になります。

 

 

こうした作品を観ると、
上映時間的な制約が少ない配信作品のほうが優位に立ってくるような気がして心配です。