偶然ですがロバート・エガース監督の長編作品は全部見ています。
どの作品も完成度が高く映像美に満ちていていました。
今回もカラー、モノクロを使い分けて、
凝ったセットや衣装も当時の雰囲気を感じさせ、
時には格調高く、時には「エクソシスト」(1973)連想させる恐怖描写と
見応えのある作品に仕上がっています。
ストーリーは基本的にブラム・ストーカーの「吸血鬼ドラキュラ」に準じていますが、
原作と一線を画しているのは
原作のヘルシング教授にあたる人物が吸血鬼ハンターではなく、
最後の戦いも命をかけるのは別の登場人物ということです。
この設定は本作のオリジナル、F・W・ムルナウ監督の「吸血鬼ノスフェラトゥ」(1922)から引き継がれたもので、
イザベル・アジャー二とクラウス・キンスキーが主演したヴェルナー・ヘルツォーク版でもある程度使われています。
ムルナウ版は原作の映画化権を取得していなかったため、
登場人物の名前が原作と異なっていますが、
ヴェルナー・ヘルツォーク版では原作通りドラキュラ伯爵、ヘルシング教授の名称を使っていました。
本作ではオリジナルへのリスペクトからかムルナウ版の登場人物名を使っています。
今回の特徴の一つはヒロインのエレン・ハッカーに焦点を当ててストーリーをふくらませていることで、
リリー=ローズ・デップが卓越した演技力を発揮しています。
エガース監督作品の常連となってきたウィレム・デフォーも
時にはデモーニッシュな側面を見せる神秘学者を見事に演じきっていて貫録を感じました。
ムルナウ版で最も有名なのが圧倒的な不気味さを持つ吸血鬼の造形で、
実は本物の吸血鬼が演じていたという設定の異色ホラー「シャドウ・オブ・ヴァンパイア」(2000)が製作されたほどです。
ちなみに「シャドウ・オブ・ヴァンパイア」ではウィレム・デフォーが吸血鬼を演じていました。
ヘルツォーク版ではクラウス・キンスキーがムルナウ版に近い造形の吸血鬼を演じました。
吸血鬼ドラキュラは、ベラ・ルゴシ主演のトッド・ブラウニング監督作「魔人ドラキュラ」(1931)以降は
一見、紳士を装っている人物として描かれることが多く、
その代表はクリスファー・リーです。
今回はどちらとも違う吸血鬼を造形していて
鋭い目つきに尖った鼻で髭をたくわえた巨躯という姿で、
いかにも串刺し公という呼び名が似合いそうな恐ろしさと貫録をあわせもったものになっています。
ムルナウ版ノスフェラトゥ