まず始めにお伝えしたいことがある。
それは、このお芝居は3人芝居ではないということ。
セリフを喋るのは3人なのだが、ふなっちさん演じる長宗我部信親と僕が演じる十河存保の後ろにはそれぞれ、5名ほどずつ家臣の方々にも動きや掛け声などでご出演していただくことになっていた。
ただ、家臣の方々が台本を読む機会はなく、段取りをお伝えするのは本番直前に舞台裏の空いているスペースで10分ほど。
そして、本番を想定したリハーサルはなく、一発勝負であるということ。
さらに、本番が始まる直前からマイクはオンになっていること。
最後に、これが一番重要なのだが、「今日の記事は面白い記事になるぞ!」と意気揚々と書き進めたにも関わらず、ただ長いばかりであまり面白くならなかった上に、結局明日に続いてしまうこと。
自分の文才の無さを呪うばかりである。
この4点をお伝えして、書き進める。
この記事の登場人物〜Twitterアカウントのリンクを添えて〜
日が沈み、いよいよ皆様に段取りをお伝えする時間となった。
お伝えするゴブさんも段取りを聞く皆さんも大忙しだったが、皆さんの理解の速さで何とか段取りはお伝えできた。
ゴブさんにだけ任せっきりでは申し訳ないので、僕から十河隊の皆さんには、
「緊張すると思いますが、焦らずにお怪我だけしないように気をつけてくださいね☆(キリッ)」
と、頼もしい印象を抱いていただけるように印象操作だけしておいた。
そして、大トリにお芝居パートのあるクライマックスの時間となり、荘厳かつ合戦ムードにピッタリなBGMの中で各パフォーマンスが始まる。
と、ここに来て、とんでもないことに気が付いた。
お芝居パートの始まるタイミングが、分からない…。
お芝居パートは、僕だけが下手から十河隊を率いて登場するのだが、はてさて、いつ舞台上に出ていいのかが分からない。
慌てて上手まで走り、段取りを把握している拓郎さんのもとへと駆け寄った。
「合図を出しますので、それを確認して登場してください」
(あぁ、これで一安心だ)
と、エッサコラと下手に戻った。
戻ったのだが、今度は登場口が分からない。
自分が登場口と思い込んでいた所は冷静に見てみたら、ただのイントレの足場だった。
何をどうしたら登場口とイントレの足場を見間違えるのか、今振り返っても不思議で仕方ないのだけど、もう既にパニック手前の精神状態だったのだ。
スタッフさんに聞こうにも、当然ながら全員が舞台上に集中しているので声を掛けられない。
声を掛けたら、間違いなく怒鳴り散らされるだろう。
ちょっと、半分泣きそうになりながらすがるように、十河隊の方に声を掛けた。
「あのぉ〜……、どこから出たらいいと思いますぅ〜??」
頼もしさを演出する印象操作なんて構ってられない。
こちらは半泣きだ。
「…あそこじゃないですか??」
指す方を見ると、少し離れた所に登場口があった。
(あぁ…!あなたは神様じゃぁ!)
拝み倒してエッサコラと登場口に向かうと、そこから上手の拓郎さんとの間には様々な備品が立ちはだかっていて、上手の様子は何も見えなかった。
頼みの綱が寸断され、路頭に迷った。
てんやわんやしている間も火縄銃は発砲され、火矢は宙を舞い、重低音が響くBGMは鳴り響き、不安は増長されていく。
気分は、戦場に取り残されて、「死にとうない!」とガタガタ震える足軽だ。
舞台上は騎馬隊が往復している。
もういっそ、あのお馬さんに蹴られたい。
お馬さんに天高く蹴り上げられて、何もかも忘れてしまいたい。
思考が現実逃避に走った頃、舞台上には既にゴブさんが立っていた。
続く。